美醜逆転世界で治療師やってます

猫丸

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第35話 気まずいからね?





 その後、銀翼の拠点にお邪魔した僕を待っていたのはミーナからの抱き着きという名のタックルだった。
「うっ」と自分から呻く声が零れ出た。だけど彼女も手加減はしてくれているらしくそこまで痛いというわけではない。
 甘えてくるミーナの姿を微笑ましく思い、頭を一撫でした。
 出迎えてくれた彼女の案内でリビングへと通されると、所狭しと豪勢な料理が並んでいた。
 何のお肉から分からないけど大きな肉料理を中心として、山盛りのサラダやスープに、この世界では一般的な黒パンが切り分けられていた。
 その他にも山菜のキッシュ、ミートパイが並んでいる。
 普段から毎食こんなに豪華というわけでもないだろうし、皆のおもてなしを嬉しく思う。
「よう」とアイリさんが片手で気さくな挨拶をしてくれた。

「そういえばリズさんと会いましたよ。本に書かれてた通りの人でしたね。緊張してたみたいですが」

 アイリさんは「だろうな」と言って笑った。
 こんなにすぐに顔を合わせることになるとは思ってなかったけど、容姿は本に出てきた特徴のままだったこともありすぐに分かった。
 サインも貰えたことを話すと微笑ましい視線を向けられた。ちょっと興奮しすぎたかもしれない。

「けどそうか、やっぱ帰ってたか。ってことは手を付けるのはリズが戻ってきてからだな」

 しかし、テーブルの上を見つめていたミーナは不満そう。

「むぅ、出来立てが美味しいのに……」

 お腹が空いてたのかな。ミーナの可愛らしい我儘に和んでから、そういえばシルヴィさんはどこだろう? と思っていると奥の方から声が聞こえてきた。
 どうやら料理中で手が離せないらしかった。それなら仕方ない。
 僕も席に着くけど、ミーナは椅子を寄せて腕を絡めてきた。

「お前なぁ、少しは離れないとトーワが暑苦しいだろ」

「僕なら大丈夫ですよ。むしろ嬉しいです」

 向けられる好意が心地良くさえあった。
 まあ、確かにちょっとだけ暑いけど些細なことだろう。
 それからリズさんの話題になると、二人は付き合ったことの報告をすると意気込んでいた。

「あー、実はもう伝えちゃったんですけど」

「そうなのか。なんか言ってたか?」

「喜んでくれてましたよ」

 様子がおかしい気もしたけど、めでたいことだと言ってくれていた。
 あるいは出会った頃のアイリさんみたいに警戒されてる可能性もある。
 こう言ってはなんだけど、皆に相手ができるとは思ってなかったのかもしれない。

「絶対驚くと思う」

「あいつが驚くのは珍しいとは思うが、今回はさすがにな」

 友達が急に交際をってなったら誰でもビックリするんじゃないかな。
 いきなり三人と付き合ってるのは、重婚ありのこの世界ではどうなんだろう。なんにしても快く思ってほしいけど。
 僕の方も不安はあった。良い意味でも悪い意味でもリズさんからしたら急なことだし、どこの誰とも知れない人にいきなり友達を取られたって思っても仕方ないと思う。
 歓迎してほしいけど、こればっかりはな……

「どこで会ったんだ? ギルドか?」

「ですね。魔素溜まりのことで報告に行ったら偶々」

 まあ結局忘れてたからまた後日報告にいかないといけないんだけどね。
 そういえばと、さっきから聞こえてくる調理音に意識を向ける。

「シルヴィさんは料理が得意なんですね」

 香草のような匂いも漂ってきていて涎が出そうになった。
 シルヴィさんは家庭的なんだな、と感心していると不意にミーナの腕に力がこもった。

「トーワ、私だって料理は作れる」

「へぇ、いつか食べてみたいな」

 ミーナはこくんと頷く。
 その内食べさせてくれるようだ。

「ありがとう、楽しみにしてるね」









 リズさんが帰ってきたのはそれからすぐのことだった。
 食材をいくらか買い込んだようで、結構な大荷物だったけど、彼女の細腕のどこにそんな力がってくらい軽々と荷物を両手に持っている。
 本日二度目。再び遭遇をした僕を見たリズさんの第一声は、「本当に来てたんだね」だった。
 どこか含みがあるような言い方に僕は首を傾げた。

「ああ……ごめんごめん。正直半信半疑だったんだ」

「あー、アタシ達が男連れ込んだなんて聞いたら不安になるよな」

 隣でミーナも頷いていたけど、僕としては肯定も否定もし辛かったので曖昧に反応をしてしまう。
 すると丁度いいタイミングでシルヴィさんがやってくる。
 手には飲み物が注がれたコップとジョッキを手に持っていた。
 手伝った方がいいのかなとも思ったけど、邪魔になりそうだったので大人しくしておくことに。

「お待たせしました。トーワさんの飲み物は果実水でよかったですか?」

「ありがとうございます。いただきます」

 コップを受け取った。表面の水滴からなんとなく想像はしていたけど、冷たさに驚いた。
 この世界には魔石を使った冷蔵庫が存在する。おそらくはそれで冷やしたんだろう。
 喉は乾いていたけど乾杯はまだなので我慢した。

「なにはともあれおめでとう」

 にこやかに告げるリズさんを見て皆は三者三様の反応を示していた。
 アイリさんは照れ臭そうに。
 ミーナはどこか自慢げに胸を張って。
 シルヴィさんは……照れてるのかな?
 そして、乾杯後。

「まずは改めて自己紹介させてもらおうか。リズ・ドラグニルだ」

「トーワ・ミヤナギです。治療師をしてます。あと……皆さんとお付き合いをさせてもらっています」

「そっか、本当だったんだね」

 途端にリズさんは、力なく「はは……」と乾いた笑いを浮かべた。
 どことなくその表情が曇って見える。

「どうした?」

「……いやぁ、先を越されちゃったなって思って。勿論喜ばしいことだけどさ」

 ということはリズさんが言ってる相手とはまだ進展がないのか。
 皆が言っていたダブルデートはもう少し先になりそうだ。
 それぞれが飲み物に口をつけてから、食事会が始まる。

「とりあえず私たちの馴れ初めとかからですかね?」

「別に話さなくてもいいけどね」

 冗談交じりのリズさんの言葉にシルヴィさんは黙った。
 リズさんが「冗談だよ?」と彼女の様子を見て可笑しそうに笑う。

「本気にしないでよ、ぜひ聞かせてほしいな」

 リズさんの言葉にシルヴィさんが「ち、ちょっとぼーっとしてました」と慌てていた。
 馬車の中でも今まで自慢されてきたからってことで意気込んでたし、シルヴィさんとしては言いたいんだろうな。
 どことなくそわそわしている。
 だけど、馴れ初めとなると――

「馴れ初めってことはシルヴィのやらかしからか?」

「あ、すいません。やっぱりやめときます」

 ですよね。後先を考えないから……
 シルヴィさんは顔を引き攣らせていた。
 レイプ未遂のことを考えたらそりゃあ言い辛いだろう。

「最初に出会ったのはシルヴィさんでしたね。それからアイリさんとも友達になって」

 なのでその辺りは省いて伝えることにした。
 卓を囲み僕たちは会話に花を咲かせる。
 僕が治療師であることや、そこでシルヴィさんと出会ったことや、色んなことをリズさんに聞いてもらった。
 皆もその手の話題が振られるのは慣れていないのか、時折質問されると恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべている。
 リズさんはにこやかだった。
 だけど、さすがに僕の価値観についての話が出た時には驚いたようだった。

「ブス……専?」

 アイリさんは「おう」と、何故だか誇らし気に胸を張っていた。

「さすがに驚いたけどな。アタシ達見て怖がらない奴がいるなんてよ」

「アイリさんが凄い疑ってましたよね」

「そ、そりゃ仕方ねーだろ? この顔見て……き、綺麗とか、目が腐ってなきゃ嘘だと思うだろ普通は……」

 酷い言われようだったけど、この世界で僕はそこそこ異常者だし、仕方のないことだろう。
 だけど皆とこうして話せてるのだってこの価値観のおかげなわけだし、この異常性がマイナスだとは思わない。

「……ちょ、え?」

 リズさんの方はまだ驚愕を顔に浮かべていた。
 美人の百面相はどんな顔でも可愛らしくて思わず和んだ。

「リズもさすがに驚いただろ?」

「……うん、いや、驚いたというか……納得したよ」

「だよな」

 皆と僕が付き合えた経緯や理由を知ってリズさんは俯いていた。
 この世界では特殊性癖だし、引かれてないかが心配だ。
 少しでも理解してもらえてたらいいんだけど。

「……告白は皆からしたんだよね」

 それまでの経緯を聞いたリズさんが言ってくる。
 その顔はほんのりと朱色になっていた。

「はい、トーワさんも嬉しそうにしてくれてました……たぶん」

「たぶんじゃなくて嬉しかったですよ? 女の子に告白されたのなんて初めてだったので」

「へぇ……?」

 改めて話すとなると当事者としては照れ臭くて、用意してもらった果実水を一気に飲み干した。
 沢山話したから喉に染み渡る。

「照れる」

「まあ……シルヴィが暴走気味だったけどな」

「うっ、す、すみません……おつまみなくなりそうですね!」

 シルヴィさんが誤魔化す様に追加で作ってくると言ってから席を外した。
 リズさんが飲んでいるのはお酒のようだ。何のお酒かは分からないけど僅かにアルコールの匂いが感じられた。
 不思議とすっきりしたような匂いで、とても飲みやすそう。
 色合い的にはウイスキーに近いかな? 赤みがかった綺麗な琥珀色をしている。
 僕が手元を見ていると「里に帰った時に貰ったんだ、『竜酒』だよ」と説明される。聞いたことないな……この世界特有のものだろうか。
 アイリさんが「滅多に飲めないからな」と同じく竜酒を飲んでいた。

「……皆がこうして好き合っている人と語らえてるのは素直に嬉しいよ」

 めでたいめでたいとお酒がリズさんの喉へと流し込まれていく。
 流石にアイリさんから心配するように声がかけられた。

「リズ、飲み過ぎじゃないか?」

「……いいじゃないか、少しくらい」

 拗ねたようにリズさんがお酒を飲み干す。。
 そっか、僕が三人をとってしまったようなものだしな。
 それにしてもリズさん酔っぱらってるな……

「そういや里帰りはどうだったんだ?」

「ああ、ちょっと心配事はあるけどそれ以外は平和だったよ」

「婚約者とはどうだった?」

 アイリさんの発言にリズさんは動きを止めた。

「……婚約者?」

「? いるんだろ?」

「リズさんいっつも自慢してましたもんね」

 アイリさんの言葉に、おつまみの盛り合わせを運んできてくれたシルヴィさんも恨みがましく続いた。
 割と根に持っていたのかもしれない。
 リズさんは額に手を当てると何かを思い出したように「あー」と声を出した。

「あ……あー……そう、そうだね。ああ、そういうことか」

 急に歯切れが悪くなったな。何かに納得したようだったけども。
 ミーナが気を取り直して僕の腕を取ってくる。ミーナってそれ好きだよね。

「私にとってのトーワもそう。私の自慢。この人以上はいない」

「そんな張り合わなくても……でも、ありがとね」

 ストレートに愛情をぶつけてくるミーナの言葉が嬉しかった。
 ミーナの頭をなでなですると、心地よさそうに頬を腕に擦りつけられる。
 嬉しそうに喉から「みぃ」と聞こえてきた。思わず出たその声に恥ずかしそうにしてこちらを窺ってくる。
 甘えん坊なミーナらしい仕草だったけど、シルヴィさんとアイリさんがこっちを見てきてるからほどほどにしないと……
 アイリさんが場を仕切り直すように咳払いをしたので、意識をそちらへと向ける。

「それで心配事って何かあったのか?」

 ああ、とリズさんが答えた。
 薄い赤色に染まった表情が僅かに曇りを見せる。

「母がちょっとね。近いうちにもう一度帰郷しようと思ってる。できれば体力のことも考えて今の仕事は辞めてほしいんだけどね」

「? リズさんのお母さんがどうかしたんですか?」

 気になる内容に僕はついつい踏み込んだ。
 するとリズさんは口をもごもごとさせた。言うかどうか悩んでるみたいだった。

「……最近具合が良くないみたいなんだ」

 歳かなぁ、とリズさんが零す。
 食卓の空気が少しばかり重くなり、リズさんは誤魔化す様にジョッキを傾けた。

「治療院で診てもらったりは?」

「一応何度か……でもこれだという言葉は聞けてないかな」

 不安そうにリズさんは表情に影を落とす。
 そういうことならと僕は提案してみた。

「よかったら僕にも診させてもらえませんか?」

 これでも一応は治療師だし、少しは力になれるかもしれない。

「えっ、いいのかい? 里は遠いよ?」

 ああ、そうか。そういえば結構な距離があるんだっけ。
 とはいえ友達のお母さんのことは心配だ。
 少しでも不安が取り除けるならと、僕は頷く。
 帰郷を考えてるなら丁度いいんじゃないだろうか。

「あ、ありがとうトーワ君! ぜひお願いするよ!」

 リズさんは飛び上がりそうなほど喜んでくれた。
 その表情を見た僕の方まで嬉しくなってくる。

「だけどトーワ君は……その、ボクと二人でも大丈夫なのかい?」

「? 何を言ってるの? トーワが行くなら勿論私もついていく」

 そんなリズさんの言葉に横にいたミーナが答える。
 離さないぞと、僕の腕にしがみ付いた。

「道中の護衛は任せてくれ」

「リズさんの実家に行くのは初めてですね」

 シルヴィさんとアイリさんも快くついてきてくれるようだ。
 だけどシルヴィさんだけじゃなく、皆がリズさんの家に行くのは初めてとのこと。
 挨拶するなら菓子折りとか持っていこうかな。何がいいだろう。
 リズさんのお母さんの好みにもよるけど、食欲とかがないなら重くない食べ物とか。

「……それなら出立は、いつがいいかな?」

「都合のいい時で大丈夫ですよ」

 帰ってきたばかりだから疲れてないだろうか。
 すぐでもいいし、なんだったらしばらく時間が空いてもいい。

「足はいつも通り六脚馬か?」

「そうだね、普通の馬だとボクに怯えちゃうし」

 アイリさんの質問にあっさりとリズさんは返した。
 へぇ、そんな生き物もいるんだ。
 それからも和やかな空気で時間は過ぎていき、帰る時には既に陽が傾いていた。
 ついつい時間を忘れちゃったな。僕はリズさん達との話を思い返しながら家路につくのだった。







 ガチャリ……
 扉が閉まったことを確認してボクは大きくため息をついた。

「そういう、ことだったかぁぁぁ……っ!」

 トーワ君の価値観についても聞くことができた。
 アイリが言うには彼はブス専らしい。トーワ君はそれに対して困ったように笑って……否定することはなかった。
 色々納得がいった。皆を受け入れることができたのはそういうことだったか、と。

「ああああ……ど、どうしよう、どうしよう、それが分かってたら……ボクだってもっと早く動いてたのに……っ」

 トーワ君はボクのファンだった。
 それを聞いたときは嬉しすぎてどうにかなってしまいそうだった。
 今までこんな醜いボクを見てもファンだと言い切ってくれる人なんていなかったから、その時は冷静さを保つのに精一杯で……
 だけど、今にしてみればそこが幸福の絶頂期だったように思う。
 暴力を振るわれそうになっていたところを止めたけど、あの男に関しては怒りを堪えることが精一杯だった。殴った拳を止めた時にそのまま握りつぶしてやろうかと……冷静になれたのはトーワ君が目の前にいたからだった。暴力的な女だなんて思われたくないという利己的な理由だ。
 そして、向けられるのは慣れることのない嘲り、侮蔑、嫌悪だ。
 容姿を馬鹿にされることなんて今までもあったはずなのに、彼の前だというだけで、トーワ君にどう思われるのか気になって仕方なかった。
 あの人以外からの評価なんて毛ほどの価値もないはずなのに、それを聞いた彼がどう思うかを想像しただけで心が騒めいた。
 居た堪れなくなってすぐにその場から離れてしまったし……
 出会った時に気持ちの悪い反応をしてしまった気がする。彼の目をまっすぐ見ることもできなかった。
 あとサインが……折角求められたのに、まともにペンを握れないほど動揺してしまった自分が情けない。
 トーワ君に汚い字を書く女だなんて思われていたらと考えるだけで、頭を抱えてしまう。これは黒歴史だろう。

「うああ……あー……」

 自分でも感情が顔には出ないタイプだと思っていたのに。
 荒波が立たないように普段から自分を抑えてきてたけど……彼のことになると動揺はあっさりと顔を出す。
 彼の言葉も行動も感情も、何もかもが気になって仕方ない。
 まるで自分が制御できなかった。
 それに他にも色々と……

「ううう」

 トーワ君が銀翼の皆と帰ってきてから食事をした後。
 ボクの内心は「どうしてこうなった」という感情で一杯だった。
 皆がしれっとトーワ君と交際したという事実をボクに知らせた時に、なんでああも普通の態度を貫けたのか、不思議でしょうがなかった。
 気まずいよね? 普通に気まずいよね?
 四人中三人だよ? しかも相手は同じ人だよ?
 ボクの肩身狭いどころじゃないよね。
 え、待たないかな?
 別にボク達の間でそういう約束があったわけじゃないけど、せめて知らせようとしないだろうか?
 事後報告になったとしても最初は謝るとかさ。
 こう……一般常識としてさ。
 とはいえ事情は理解した。
 その原因が自分にあることも。
 理由を知った今となっては、仕方のないことだと自分を納得させるしかない。
 トーワ君が帰ってから、度数の高いお酒を更に浴びるように飲んだ。
 皆からは心配されたけど、飲まないとやってられなかった。
 元から強い体質と悔しさのあまり全く酔えなかったけど……

「トーワ君……”やっぱり”優しかったな」

 まさか母の容態を診てくれることになるなんて。
 嬉しかった。男の人に優しくされたことなんてなかったから。
 ボクの顔をあんな風に真っ直ぐ見つめてくれた。
 最初に里へは二人きりかと思って舞い上がっちゃったけど、そうだよね。当然皆もついてくるよね。

「皆と……付き合ってるんだもんね」

 めでたいことじゃないか。祝福しないと。
 拠点で割り振られた自室の中を歩く。一歩一歩がどうしようもなく重い。
 大丈夫だ。重婚はこの国で認められているし、まだ可能性がなくなったわけじゃない。
 だけど、悔しかった。
 心の内側を焦がす醜い嫉妬をどうにかしようと胸を抑えた。

「はじめまして……か。うん……そうだ……はじめましてだね……」

 ボクは何重にも防音のために魔法を重ね掛けした。
 ハァ、と息を吐く。それが最後の理性だった。
 部屋の机に拳を打ち付けた。
 思った以上に力んでしまったその衝撃は机をひしゃげさせる。
 天板は砕け机はガラクタに変わった。耳障りな音が耳朶を打つ。
 心を内側から焼くような憤怒が沸き上がってきた。
 ギリギリと骨が軋み、拳を握りしめた時に力を込め過ぎて爪が手のひらに食い込んだ。

「ボクが――――に……ッ!」

 食いしばった歯が鈍い音を鳴らした。









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