美醜逆転世界で治療師やってます

猫丸

文字の大きさ
39 / 45

第39話 混沌の英雄

しおりを挟む





 白は神様を、黒はその遣いをそれぞれ表す。
 昼と夜みたいな感じだ。
 だから黒と白が混じるのは不吉とされている。
 髪の色が意味を持ち、その人を表すとされている現代でボクの黒髪に白い筋が伸びるような白黒の髪は異常とされていた。
 赤は熱意や火。銀色や灰色は協調を表す色……だった気がする。青は静寂や水を、その他にも色んな意味がある。
 幼い頃に誰も教えてくれなくて調べたことがある。
 大人達には内緒で、この里では貴重な蔵書が置いてある倉庫に忍び込んで、髪の色について乗ってる本がないかと探した。
 里長の教育用のような本が並んでいる場所に行きつき、意味を知ることができた。
 白と黒が一緒にあるなんて珍しいと思っていた。きっとボクは特別なんじゃないかと、そう思うと胸が高鳴ったのを覚えている。
 混じることなく白と黒が共に在る。
 昼に夜がないように、夜に陽が差さないように、それらが共に存在することはあり得ないとされていた。
 混じることなく争っている状態。”混沌”のような禍々しい髪は裏切りや反乱を示唆する色。
 だから嫌われているのかな。なんて、それだけなはずないのに、そう思おうとしたりしていた。

 ボクの冒険譚を出したいと聞いた時、耳を疑った。
 コールドクエスト……様々な要因で達成ほぼ不可能とされ現状維持するしかない依頼。それを達成してしばらく経った後のことだ。
 最初は断った。自分が有名になって良いことがあるとは思えなかったからだ。
 だけどボクの活躍を聞いて、ボクのことを書きたいと言った執筆者のようにボクを認めてくれる人がいるのではないかという希望を見てしまった。
 熱意に押されて、と言い訳をしてボクは決意を固めた。

 ボクを題材にした物語が本になった時、最初に目を通したのはボクだった。
 ちゃんとボクの取材だけでなく、現場での記述、調査などが見て取れた。
 創作するべきところは創作して、事実は事実で書かれている。
 出来としては素晴らしいだろう。
 ただ、一言だけ言わせてもらえるなら……ボクの容貌はぼかしてはいたものの所々出てくる特徴で恐ろしい姿として記述されていた。
 恐ろしい姿、それは物語のお約束で言えば敵役を描写する書くもおぞましい姿の暗喩。
 ああ、当たり前か……
 妙に達観した気持ちだった。
 だけど怒りは湧かない。ボクだって書くならそうするし、何より嘘偽りはなかったから。

 本は結構な人気となった。
 そして、手紙が届いた。
 正直、罵倒が書かれているかと思っていた。
 意を決して中身を読んでみると、そこには温かい言葉が書かれていた。
 拙い子供の字、しかし精一杯の応援の言葉がボクは嬉しかった。
 本当に、涙が出るほど嬉しかったんだ。

 ギルドの依頼を指名をされて、ボクは一つのクエストを受けた。
 内容は何でもない、普通の魔物の討伐。
 クエストをこなし、依頼を完遂したことをその村に伝えに行った時。
 子供がいた。
 そして、ボクの姿を見て泣いてしまう。
 たまにあることだった、ボクの姿を見て子供が泣き出すことは。
 ただ、いつもと違ったことはその子が持っていた本がボクのことを書いた冒険譚だったことだ。
 嘘つきと、化け物と罵られる。
 そして最後に、その本は投げつけられボクに当たる事すらなく落ちた。
 子供は泣き喚き、大人はボクが何かするとでも思ったのか地面に額を擦りつけて謝罪する。
 阿鼻叫喚とはあのことだろう。
 酷い状況だ。と、その光景を見ながら他人事のように思ってしまった。

 落ちたその本はボク自身だった。
 価値なんてない。お前も同じだと言われた気がした。

 本当に……酷い話だ。

 本を投げつけられるなんて、英雄の扱いにしてはあんまりだ。
 笑い話にもならないよ。主人公が一番の化け物だったなんてさ。

 A級ともなれば冒険者としてひとかどの人物と言えるだろう。
 少しは他人からの目も変わるかもしれないと願っていた。
 だけど、ボクの願いは叶うことなく、ただ目の前には無慈悲な現実だけが突き付けられていた。
 その頃からだった気がする。
 世界から色は褪せていった。何色ともつかない世界はボクを蝕み、いつからか龍化でさえもまともに制御できなくなっていた。
 しばらく経過すれば元に戻れたけど、時間の問題だったように思う。
 いつかこのまま人に戻れなくなるんじゃないかと、本当に化け物に成り果てるんじゃないかと思うと怖かった。
 自分が変わる恐怖で眠れない日が何日も続いた。
 それからしばらくして……ボクは母に尋ねた。

『ねぇ、お母さん。ボクは生きていてもいいのかな』

『生まれてきてもよかったのかな』

『ごめん、親にこんなこと言うなんて最低だね』

『でも――もう……辛いよ』

 ボクの言葉に、目の前の母が泣いていた。
 抱きしめてくれたことが嬉しかったのを覚えている。
 それが確か――彼と出会う少し前のことだったかな。







しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない

仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。 トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。 しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。 先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

処理中です...