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第39話 混沌の英雄
しおりを挟む白は神様を、黒はその遣いをそれぞれ表す。
昼と夜みたいな感じだ。
だから黒と白が混じるのは不吉とされている。
髪の色が意味を持ち、その人を表すとされている現代でボクの黒髪に白い筋が伸びるような白黒の髪は異常とされていた。
赤は熱意や火。銀色や灰色は協調を表す色……だった気がする。青は静寂や水を、その他にも色んな意味がある。
幼い頃に誰も教えてくれなくて調べたことがある。
大人達には内緒で、この里では貴重な蔵書が置いてある倉庫に忍び込んで、髪の色について乗ってる本がないかと探した。
里長の教育用のような本が並んでいる場所に行きつき、意味を知ることができた。
白と黒が一緒にあるなんて珍しいと思っていた。きっとボクは特別なんじゃないかと、そう思うと胸が高鳴ったのを覚えている。
混じることなく白と黒が共に在る。
昼に夜がないように、夜に陽が差さないように、それらが共に存在することはあり得ないとされていた。
混じることなく争っている状態。”混沌”のような禍々しい髪は裏切りや反乱を示唆する色。
だから嫌われているのかな。なんて、それだけなはずないのに、そう思おうとしたりしていた。
ボクの冒険譚を出したいと聞いた時、耳を疑った。
コールドクエスト……様々な要因で達成ほぼ不可能とされ現状維持するしかない依頼。それを達成してしばらく経った後のことだ。
最初は断った。自分が有名になって良いことがあるとは思えなかったからだ。
だけどボクの活躍を聞いて、ボクのことを書きたいと言った執筆者のようにボクを認めてくれる人がいるのではないかという希望を見てしまった。
熱意に押されて、と言い訳をしてボクは決意を固めた。
ボクを題材にした物語が本になった時、最初に目を通したのはボクだった。
ちゃんとボクの取材だけでなく、現場での記述、調査などが見て取れた。
創作するべきところは創作して、事実は事実で書かれている。
出来としては素晴らしいだろう。
ただ、一言だけ言わせてもらえるなら……ボクの容貌はぼかしてはいたものの所々出てくる特徴で恐ろしい姿として記述されていた。
恐ろしい姿、それは物語のお約束で言えば敵役を描写する書くもおぞましい姿の暗喩。
ああ、当たり前か……
妙に達観した気持ちだった。
だけど怒りは湧かない。ボクだって書くならそうするし、何より嘘偽りはなかったから。
本は結構な人気となった。
そして、手紙が届いた。
正直、罵倒が書かれているかと思っていた。
意を決して中身を読んでみると、そこには温かい言葉が書かれていた。
拙い子供の字、しかし精一杯の応援の言葉がボクは嬉しかった。
本当に、涙が出るほど嬉しかったんだ。
ギルドの依頼を指名をされて、ボクは一つのクエストを受けた。
内容は何でもない、普通の魔物の討伐。
クエストをこなし、依頼を完遂したことをその村に伝えに行った時。
子供がいた。
そして、ボクの姿を見て泣いてしまう。
たまにあることだった、ボクの姿を見て子供が泣き出すことは。
ただ、いつもと違ったことはその子が持っていた本がボクのことを書いた冒険譚だったことだ。
嘘つきと、化け物と罵られる。
そして最後に、その本は投げつけられボクに当たる事すらなく落ちた。
子供は泣き喚き、大人はボクが何かするとでも思ったのか地面に額を擦りつけて謝罪する。
阿鼻叫喚とはあのことだろう。
酷い状況だ。と、その光景を見ながら他人事のように思ってしまった。
落ちたその本はボク自身だった。
価値なんてない。お前も同じだと言われた気がした。
本当に……酷い話だ。
本を投げつけられるなんて、英雄の扱いにしてはあんまりだ。
笑い話にもならないよ。主人公が一番の化け物だったなんてさ。
A級ともなれば冒険者としてひとかどの人物と言えるだろう。
少しは他人からの目も変わるかもしれないと願っていた。
だけど、ボクの願いは叶うことなく、ただ目の前には無慈悲な現実だけが突き付けられていた。
その頃からだった気がする。
世界から色は褪せていった。何色ともつかない世界はボクを蝕み、いつからか龍化でさえもまともに制御できなくなっていた。
しばらく経過すれば元に戻れたけど、時間の問題だったように思う。
いつかこのまま人に戻れなくなるんじゃないかと、本当に化け物に成り果てるんじゃないかと思うと怖かった。
自分が変わる恐怖で眠れない日が何日も続いた。
それからしばらくして……ボクは母に尋ねた。
『ねぇ、お母さん。ボクは生きていてもいいのかな』
『生まれてきてもよかったのかな』
『ごめん、親にこんなこと言うなんて最低だね』
『でも――もう……辛いよ』
ボクの言葉に、目の前の母が泣いていた。
抱きしめてくれたことが嬉しかったのを覚えている。
それが確か――彼と出会う少し前のことだったかな。
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