二度目の勇者の美醜逆転世界ハーレムルート

猫丸

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第7話 夢か現か

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 私はニーナ。
 ムールの街で冒険者をしている。

 そんな私が出会ったのはとても綺麗な男の人だった。
 珍しい黒髪黒目の男の子。
 薄い黒やくすんだような黒は見たことあるけどここまで純粋な黒色の人は見たことがなかった。
 この世界では黒い色は神聖視されている。
 化け物のような容姿をした私とはまるで正反対の、おとぎ話の王子様のような人。
 一目見た時にそのような展開を想像しなかったと言えば嘘になる。
 自分はなんて浅ましい女なのだろうと深い自己嫌悪を覚えた。

 たぶん一目惚れだったんだと思う。
 この人の特別になりたいと感じた。
 強烈な欲望。
 身を焦がすようなその感情を必死に抑えた。

 ユウトという名前の少年。
 商人だと言っていた。
 本当かどうかは分からない。

 だけど私は何も聞かない。
 この時間が少しでも長く続いてほしかったから。

 ユウトさんはとても優しくて、こんな醜い私とも普通に接してくれている。
 だからまた話したいと願ってしまった。
 迷惑になると分かっていてもその欲求を止められなかった。
 そのことに私はまた自分を嫌いになった。

 だから友達になろうと言われた時は本当に嬉しかった。
 例え嘘でもその優しさに心を惹かれた。
 この人は見た目以上にとても素敵な人だった。
 
「人の友達馬鹿にしないでもらえますかね?」

 そして、友達になりたいと言ってくれたのも嘘ではなかったようだ。
 私を庇ってくれた行動、その言葉。
 彼の優しさに心を奪われる。
 その一言で全身が熱を持つ。
 仮面をしていてよかった。
 今の私の顔はとてもじゃないが見せられないだろう。

 初めて触れた男性の手の温かさはとても心地良く、心安らぐものだった。

「冒険者ギルドはどこに?」

 ユウトさんが私を頼ってくれたのが嬉しかった。
 小さなことだけどその言葉に浮かれてしまったのは仕方のないことだったのだろう。

「そ、それならこっちです。案内しますっ」

 そう言ってユウトさんを案内する。
 彼の役に立てることが堪らなく嬉しかった。
 だけど、私を避けて歩いていく人の波を見て少しだけ頭が冷えた。
 何を浮かれていたんだろう。
 一人で勝手にはしゃいでバカみたいじゃないか。

「何かお困りですか?」

 とても綺麗な女性がユウトさんに声をかけた。
 私は咄嗟にどうしていいのか分からなくなった。
 だけど……ユウトさんはその人の誘いを断った。

「本人の前で人を化け物呼ばわりする人よりはいいかなって思ったんですけど」

 私は最低だ……その言葉を聞いて……凄く嬉しいと感じている。
 女としての優越感を感じてしまった。

「少しは友達を信用してください」

 胸が痛い。
 だけどいつものような痛みとは違った。
 切なくてどこか嬉しい。
 そんな痛み。

 家に誘ったのは打算だった。
 ユウトさんを思ってのことじゃない。
 ただユウトさんに傍にいてほしいと。
 ユウトさんの傍にいたいと。
 私はやっぱり嫌な女だった。

 ベッドが大きいことに疑問を持たれた。
 いつかそういう仲になった人と一緒に寝たいと思って購入したベッド。
 今のところそのサイズが役に立ったことはない。
 咄嗟に恥ずかしくて誤魔化した。

 男の人と触れ合いたい。
 そんな浅ましく醜い欲望をユウトさんに言えるわけもなかった。
 
 そしてどちらがベッドを使うかで譲り合うことになった。
 もしかしてユウトさんは私の使った汚いベッドで寝たくないのではないだろうか。
 そう思って怖くなった。
 ユウトさんに嫌われることが本当に恐ろしかった。

 だからなのだろう。

「一緒に寝ます?」

 その言葉を聞いた時、私は頭が真っ白になった。
 
 私はお風呂に入って貴重な石鹸を大量に消費して体を洗った。
 念入りに。
 不細工なのは仕方ない。
 でも汚い女だとは絶対に思われたくなかった。
 何度も何度も繰り返し洗って、寝室に向かう。

「お、お邪魔します……」

 ゆっくりと布団に潜り込む。
 ユウトさんの体温で温かくなったベッド。
 心臓が破裂するんじゃないかってくらい音を立てる。
 この音がユウトさんに聞こえるんじゃないかって。
 ここまで緊張したのは初めてだったかもしれない。
 絵本で王子様とお姫様の恋愛を見た時以来……いや、それ以上だろう。
 
 王子様……ユウトさんはこれ以上ないくらい理想の人だった。
 だけどユウトさんにとってはそうじゃない。 
 私はお姫様でもなんでもない。 
 もしかしたらこれは夢なのかもしれない。
 求めるあまり見てしまった幻想。
 夢が覚めたらユウトさんはいなくて……いつもの地獄が始まるんじゃないかと。
 寒気がした。
 自分のした恐ろしい想像に全身が震える。

「おやすみなさい、ニーナさん」
 
 だけど、それでも……今だけはこの夢に身を任せていたかった。
 そのまま意識はゆっくりと沈んでいった。


 翌日。
 朝、目が覚める。
 そこにユウトさんはいなかった。

「ぇ…………?」 

 一抹の不安が的中し、頭の中が絶望に染まった。






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