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第22話 エルフの少女との再会
しおりを挟む私の名前はシャル。
叔母の経営する精霊の泊まり木という宿で働いている。
ちなみにエルフ。
私を見る人の視線は厳しいものが多い。
多いというかほとんどがそれだ。
同性からは侮蔑と哀れみ。異性からは嫌悪と侮辱。
それらが辛くないと言えば嘘になる。
いつからか強がりで明るく振る舞うようになったけど、人の悪感情にはやはり慣れない。
だけど私にはお姉ちゃんがいる。名前はフローラ。冒険者ギルドの顔である受付嬢をしている。
臨時での雇用とはいえギルドで働くお姉ちゃんを私は誇りに思う。
それでも世間の目は厳しいらしくて、できることなら一緒にいて庇ってあげたいとは思うんだけどね。
私だっていつも優しいお姉ちゃんにどれだけ助けられてきたか……
昨日、私はわざとぶつかってきた人から難癖をつけられた。
誰も助けに入ってくれなかったのはたぶん私が不細工だったからなのかな……男の人もそれを狙っていたような気がした。
余裕はないけどお金さえ渡せば……そう思ってた。
だけど、悪いことばかりじゃなかったの。
凄く格好良い男の子に助けてもらえた。衝撃だった……男の人とまともに会話したことなんて数えるほどしかないのに。
それもあんな穏やかな言葉までかけてもらって……
会話内容を考えたら人生初の快挙と言っても良い。
だからその人に好意を抱いたのは当然の事だったと思う。
フードを被ってて顔と背丈くらいしか分からなかったけど、いつかもう一度会えたらお礼を言いたい。
告白は……たぶんしない。さすがに彼の迷惑になるだろうって分かってる。
それでももう一度だけお話したかった。ちゃんとしたお礼を伝えたかった。
あの時はありがとうございました、ってね。
それくらいならいいよね?
そんな私が初めての恋というものを経験した日にお姉ちゃんの様子がおかしいことに気付いた。
悪いことじゃないと思う。なんとなくふわふわというか……ちょっと嬉しそうにも見えた。
聞いたところお姉ちゃんの方でも珍事が起きたらしい。
なんと万年担当0だったお姉ちゃんが担当する冒険者を見つけれそうだという話だ。
当然私は喜んだ。
お姉ちゃんは優しい。私なんかとは違っていつも穏やかで……そりゃ顔はあれかもしれないけど自慢のお姉ちゃんだ。いつか幸せになってほしいと思ってる。
だから私はお姉ちゃんとその人が付き合うことになればいいなって考えてる。
だけど不安もあった。その人がもしも良くないことを企んでたら?
無いとは言い切れない。だからこそ私はお姉ちゃんに内緒で『黒髪の男の人』という特徴だけを頼りにその人を探した。
凄く綺麗な黒髪だって言ってたけど、多少は誇張も入ってると思う。
今時そんな純粋な色は珍しいし、私だって見たことがない。
だからこそその人だというのはすぐに理解した。
(わ……凄く綺麗な色……)
人混みの中に黒い髪色を見つけた時は信じられない気持ちだった。
誇張でも何でもなかった。本当に綺麗な人。
き、急に緊張してきた。だけど……私のやることは変わらない。
声をかけるプレッシャーで汗ばむ手のひらを握りしめた。
その人を見極めてお姉ちゃんとくっつける!
「あー困ったなー」
作戦は困ったふりをしてるところを助けてもらう、だ!
演技も完璧だった。
だけど、その人は私のことを気にせず通り過ぎようとしていた。
あ、あれ? 聞こえてなかったのかな?
もう一度声を張り上げた。
周囲の人たちが私の声に顔をしかめていた。
……それを見て怖くなった。
こんな往来で大きな声を出すなんて初めてだったかもしれない。でもこれもお姉ちゃんのため……怖がってなんていられない。
この人が怖い人だったらお姉ちゃんには気を付けるように言わないと
でも咄嗟に怯んだ私にその人は声を掛けてくれた。
声をかけてくれたんだけど……
「え」
その声はあの時の初恋の人と同じものだった。
そこで私はようやく気付いた。
思えばあの人が向かう先にはギルドがあった。
背丈と顔も同じ。
「き、昨日のおにーさん!?」
向こうからは「え、気付いてなかったの?」みたいな反応を貰う。
だ、だってあの時はフード被ってたし!
「え、えとっ、あの、ですね……」
あ、駄目だ。考えてた作戦全部吹っ飛んだ。
何を言おうとしたんだっけ。
そこで私は自分とおねーちゃんが好意を持った人が同一人物だったのだとようやく気付くのだった。
◇
「あのっ、で、出直してきます!」
声をかけたら顔を真っ赤にして走り去って行ってしまった。
結局なんだったんだろう? 困り事とは?
エルフの子の様子はよく分からないけど、何か用でもあったのだろうか?
ニーナさんを背負いながらぼんやりとそんなことを考えた。
「あれ」
なんか皮袋が落ちてた。
もしかしてあの子が落としたんだろうか。
仕方ないと、それを拾い上げる。ちょっと重いな……ジャラジャラと聞こえてくる。たぶん財布か何かだろう。
あとで届けてあげたほうがいいよね。
(あ、でも居場所知らないな……)
少し悩んで、同じエルフだし受付嬢のフローラさんに聞けば何か分かるかも、という結論に達した。
ギルドには後で向かおう。
「ん、ぅ」
それよりも今はニーナさんだ。帰ってベッドに寝かしてあげなくては。
僕はエルフの女の子のことはひとまず置いておいて、ひとまずニーナさんの自宅へと向かうのだった。
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