夜明けのスピカ

猫宮ねねこ

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僕のスピカ*後編

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あれから時が過ぎ、同窓会を明日に控えていた。

4年ぶりに帰ってきた田舎は、相変わらず自然で溢れているが所々で雰囲気が変わっていた。

「駅でICカード使えるようになってるし。」

感動しながらも、少しの変化が何だか寂しくもあった。


久しぶりの実家では変わらず迎えてもらい、頑なに帰らなかった事を責められることもなかった。
そして、息子が帰ったことよりもスピカに再開した時の方が嬉しそうだったのは、見なかった事にした。


久しぶりの母の料理を食べつつ両親を見れば、変わらず無口な父、豪快に笑う母。

たった4年なのに老けたな。

僕の我儘に付き合ってくれた両親が彼女の家に度々謝罪に向かっていたのを知っている。

事故の大元の原因は、トラックの運転手の脇見運転だったから、僕が大々的に責められることはなかったが、彼女の両親からしたら、僕が連れ回したことが原因である事は明確だった。
それは、両親も同じ考えで何度も謝罪に向かっていた。

きっと今も…


結局、僕と彼女の関係は誰も幸せにはなれなかったんだな。

と実感すると同時に、それなら彼女がそれに気づかないはずがないのに、何故、映画の半券を?


考えても分かるはずがない。


そして、日が沈み、同窓会までの時間が短くなると、モヤモヤとする気持ちが大きくなり、それを振り払うように家を出て、彼女とよく行った丘に向かった。


「やっぱり、田舎の星空は凄いな。」


あの頃はしっかりと両目が見えていて、隣に彼女がいて、世界が色で溢れていた。
此ればかりはいくら言っても意味がないが、間違いなくそんな時を過ごしていた。

丘に寝転び目を瞑る。

~♪~~♪

そして口ずさめば瞼の裏にはあの頃の光景が色鮮やかに浮かぶようだ。

どれくらい時が過ぎたのか分からない。

いくら一人で悩んでも、答え何が出ない。
明日、同窓会で分かる。と気を引き締めて起き上がれば

~~♪~~~♪

何処からか、歌う声が聞こえる。

先程まで僕が歌っていた歌だ。

歌の主を探せば、以前より大人びて髪の伸びた、彼女にそっくりな女性がいる。

そんな、まさか、

彼女は声を失ったと聞いた。

幻覚だけでなく、幻聴まで聞こえるようになったのか?

末期だな…

どれだけ彼女を求めているというのだ。


無意識のうちに近づいてしまっていた距離を離すように、帰ろうと彼女に背を向け、帰路につこうとしたら


「ゆう、すけ?」


と名前を呼ばれた。


そんなはずは無いんだ。
全ては願望が見せたもので、偽物。

それでも振り返らずには居られなかった。


「ーーっ、なお?」


名前を呼んだ途端、まるで引き寄せられるように彼女の元に駆け寄っていた。


「声が…」

「あんなの一時的な物だよ、失声症ってヤツだって」

「そうか、他は、傷とか」

「なーんも」

「よかった…」


時間は奪ってしまったけど、それでも、失ったと思っていた声や、身体が無事だとわかり涙が出てきた。


「なんで、なんで、優介が泣くのよ」

「いや、何でだろう」

「足枷が外れて嬉しい?」

「え?」

「進学してからも治療費って仕送りしてきたり、罪悪感でいっぱいだったんでしょう?だからこれで縁が切れるって喜んでるんでしょ?」

「何を言って…」

「会いたいって、何度も手紙を出したのに、一度だって返事はないし、家に行ってもいつも居ないし。私の事面倒になったんでしょ?」

何で、どうして?

僕の胸元をぎゅっと握って、下を向きながら怒る姿からは僕を恨んでいるような様子は見られなかった。
僕と彼女の知る全てがまるで別のもののようだった。

「なお、僕の話を聞いてくれる?」

僕が知る、事故からこれまでの事を、彼女に一から説明した。

事故の後、何度も会おうとしたが、なおが会いたくないと言っていると言われた事。全てがどうでもよくなった事。声を失い、僕を恨んでいると聞いた事。そして僕という存在がなおを苦しめるなら、と此処から離れた事。

また、手紙が届いた事は無いということも説明した。

「そんなはず無い!美希に何度も手紙を渡したけど、一度も帰ってこなくて、優介は他に新しい彼女ができたって、その人と暮らす為に進学先を変えたって」

そんな話になってたのか

「せめてもの罪滅ぼしに、お金を送ってきてるってッッッ」

大きな瞳から大粒の涙を零す彼女が嘘を付いているようには見えなかった。

「僕が、なおを忘れた事はなかったよ、なお以外に彼女を作ったこともない。」

残念だけどモテるタイプじゃないからね

と付け加えれば、それもそうね。とグサリときつい一言をお見舞いしてくれる。
ホントこういう所変わらないよね、と涙目になりながらも続ける。

「どんなに嫌われていたとしても、明日、なおに会えるのを楽しみにしてたんだ。正直、映画の半券を見るまでは来るか悩んでたけど。」

と困ったように笑えば

「相変わらずヘタレね」

と泣きながら笑う彼女は器用だと思う。


明日の同窓会で、きっと彼女は僕の隣に居る。

そう思うと先程までのモヤモヤは嘘のように晴れ、星々も色づき出した。

一際光り輝く一等星のスピカが僕等を見守っていた。







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