こちら織田証券(株)清州営業所

喜多ばぐじ・逆境を笑いに変える道楽作家

文字の大きさ
14 / 48
【外伝】ねねと秀吉~暗号資産講座

【ねね秀】ビット&ライトのそのコインのせいだよ

しおりを挟む
2020年11月中旬。年末には暗号資産市場がバブルを迎えると予想していた秀吉は、遅くまで会社に残ることが多かった。軍資金を増やすため、出世をするため、信長様の期待に応えるため。ただひたすら相場にはりついてトレードをしていたのだ。

そんな秀吉の帰りを、自宅でひたすら待つ人がいた。その人の名前はねね。秀吉の妻だ。彼女は当初こそ秀吉の帰宅を純粋に待ちわびていたが、最近は帰りが遅いことがストレスになっていた。

「え?私の旦那、帰宅するの遅くない?世の中はテレワークだの働き方改革だの言ってるのに、うちの秀吉は何時まで仕事してんのよ!?」という内容をTwitterで呟いていた。
アカウント名は、ねねたん@秀吉の鬼嫁 歯にきぬ着せぬ物言いが、SNS上で人気を博していた。



「ただいま」とドアを開けた秀吉に、「今日も遅かったわね、あなた」と、ねねは険しい剣幕で迫った。
「♪ビット&ライトのそのコインのせいだよ~♪」

「は?」ねねは、耳を疑った。自分の夫が、エイなんとかのヒットソングの替え歌を急に歌いだしたからだ。

「仕事が忙しいから帰宅が遅いんだよ」えなりかずきよろしく、唇を尖がらせる秀吉。

「本当に?また女の子と遊んでるんじゃないの?」とねねは秀吉を問い詰める。

「バレたか、ちょっとばかしキャバクラに…ってそんなわけないだろ?!」

「でも、おかしいじゃないの?あなたは証券会社勤務でしょ。株式は9時に相場が開いて、15時には閉まるはずよ。法人営業も兼任しているとはいえ、最近は帰宅が遅すぎるわ」

「違うんだ、ねね。最近、俺がメインで売買しているのは、株式とは全く違う性質の銘柄なんだ」

「え、どういうこと?」

「実は、実態がない、目には見えないモノを売買している」

「え?幽霊の人身売買??」

「そう、この幽霊は10万円から~~って、違う!!目に見えないっていうのは、デジタル通貨って意味だ!」

「デジタル通貨…?なにそれ?」

「俺たちが普段使っている日本円や、世界の基軸通貨の米ドル。これらは実体の紙幣や硬貨が存在する法定通貨だ。日本銀行やFRBが責任を持って発行している。
それとは違って、仮想通貨・暗号資産といったインターネット上に存在し、実物を持たない通貨を、デジタル通貨というんだ」

「なんか怪しいわね…」ねねは目を細める。

「怪しくなんかないさ。

「インターネット上でやりとりできる財産的価値で、実際に米国の上場企業もそれを利用している。日本でも、`資金決済に関する法律`において、次の性質をもつものと定義されている。
(1)不特定の者に対して、代金の支払い等に使用でき、かつ、法定通貨と相互に交換できる
(2)電子的に記録され、移転できる
(3)法定通貨または法定通貨建ての資産(プリペイドカード等)ではない
ほら、怪しくないだろ?」

「怪しいか怪しくないかは、そんな瞬時に判断できないわよ。
私にとっては、日本円の紙のお金や硬貨しか、お金とは思えないし」

「まあ、そうなるか」秀吉は少しがっかりした。

「それで、そのデジタル通貨と、あなたの帰りが遅いこと、どういう因果関係があるのよ?」

「デジタル通貨には、時間制限がないのさ。
株式市場でも貴金属市場でも、だいたい9時ごろに相場が開いて、夕方には閉まる。しかし、デジタル通貨市場、いわゆる仮想通貨市場は、24時間365日、市場が開いているんだ」

「コンビニみたいな市場ね」

「そんなほっとする場所じゃないさ。
♪ビット&ライトのそのコインのせい♪で眠れなくなることだってあるんだ」

「それどういう意味よ?」ねねは秀吉に尋ねる。

「仮想通貨は価格変動が大きいんだ。寝てるうちに30%暴落した、なんてこともしょっちゅうある。気になって仕方がないんだよ」

「日常生活にまで支障をきたすってどうなのよ?」

「しかたないだろ、24時間開いているんだから…」

「まるで、血を吐きながら走り続けるマラソンのようね…」
ねねはぼそりと呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル

ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。 しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。 甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。 2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...