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【番外編】新入社員ガモタンの珍道中
【越南2】未知との遭遇~E.T.
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「あだえいにさ、あんじゃでぶあ!」「ふがぬぬいは!」「あべし!」
東京ドーム2個分ほどの面積の市場を歩いていると、何語かどうかも判別できない叫び声が飛び交う。
商品の前で座りこみ、飯を食らい、新聞を読み、スマホをいじっている店員たち。彼らを横目に、クンクンと鼻を効かせる観光客がいた。
バターと納豆を混ぜて、そこに、にんにくを加えたことはないけれども、ホーチミン市街の露天市場の匂いはまさしくそれだった。まさにジャングルに迷い込んだ探検隊。
「ここって、世紀末なんかな?」ガモたんは後輩のせっきーに尋ねた。
「そっすね。さっき、あべしって聞こえましたし」彼は眉間に皺を寄せて頷いた。
異様な市場の雰囲気の中、キョロキョロと周りを見渡しながら前に進むと、時計屋が目に留まった。
ガラス箱に陳列された時計たちに、ガモたんの心は奪われた。
そのとき、背後から何者かの気配を感じた。「俺の後ろに立つな!」という思いを胸に、後ろを振り返った。そこには、130cmほどの身長のお兄さんが立っていた。
そして、ガモたんの耳元で、「イイトケイ、タクサンアルヨ。ニホンエンモツカエルヨ」と囁いた。
ガモたんはぶるっと身震いをした。お兄さんの吐息が耳にかかったからだ。
お兄さんの言葉に軽くうなずいたあと、ガモたんはせっきーに話しかける。
「この人、E.Tに似てない?」
「どっちかといえばヨーダとちゃいますか?」
「すまん、ここは先輩の顔を立ててくれ。E.Tで行こう…」
どっちでもいいのにな、という表情を見せるせっきーは、「了解っす」と答えた。
賛成多数。これ以後、このお兄さんをE.Tと呼ぶことにする。
呼び方問題法案を通したあと、時計の審議、もとい、吟味に移ることにした。
ガラスケースの中に閉じ込められている無数の銀の塊は、`拙者を購入してくれ!`と言わんがばかりに、神々しく光り輝いていた。その中でも目を引いたのは、美しいギリシャ文字が刻まれたものだ。さらにそれには、オメガのマークが刻まれていたのだ。
もちろんガモたんは、目を疑った。
闇市の雰囲気を醸し出す市場で、天下のオメガの時計があるのだろうか。
ガモたんはE.Tに尋ねた。
「イズディスオメガ?これってオメガなんすか?」
E.Tは、待ってました、と言わんばかりのドヤ顔を披露する。
「イエアァー!オメガ!オメーガ!」
そうか、オメガか。
人生は物分かりの良さが肝心だ。E.Tがオメガといえば、これはオメガなのだ。
横ではせっきーが、「それ、絶対パチモンっすよ!帰国するとき、税関で摘発されたらヤバイっすよ!」と囁いているが、ガモたんはもう止まらない。
にっちもさっちも、このオメガにハートを鷲掴みにされていた。
肝心の問題は値段だ。
ガモたんは恐る恐る、E.Tに値段を尋ねようとしたが、オメガは10万~100万円と値段幅が広い。普通に尋ねても手が出るはずがないので、捨て身の作戦に出ることにした。
ガモたんは、財布から取り出した野口英世さんを、E.Tに差し出した。
「1000円、オッケー?」
E.Tの表情からは、梅干を舐めていることが読み取れる。
ガモたんは、野口英世さんをもう一枚加える。しかし、梅干を飲み込んだままだ。
さらに、もう一枚、野口英世さんを追加した。
E.Tが唾を飲みこむ音が聞こえた。酸っぱさを感じていたE.Tの顔に、生気がよみがえっている。
いける、これはいける。
ガモたんは印籠を差し出すかのように、5枚の野口英世さんを召喚した。
「5」という数字にはエネルギーがある。
戦隊ヒーローもプリキュアも、いつだって5人だ。たまに2人しかいないプリキュアもいるが、彼女たちはハートがMAXなのだから仕方があるまい。
彼女たちが5人もいたら、エナジーが暴発してしまう。
仲良く並んだ5枚の野口さんを見たE.Tは、一本の指を差し出した。それに反応し、ガモたんも指を合わせる。
心が通い合う瞬間…いや、それは、スピルバーグ作品だ。
ガモたんの目の前にいるE.Tは、さっと手を差し出し、握手を求めてきた。
それに応じ、彼と握手を交わす。
温かい体温、これが人のぬくもりかもしれない。
そして、5枚の野口英世さんを渡し、オメガの時計を受け取った。
そのとき、脳内でどんちゃんが現れた。
「曲を選ぶドン!」
ああ、そうだ。チップを渡さないと。ガモたんはE.Tに、100000ドン、約500円をチップとして渡した。
そのときのETの笑顔は素晴らしかった。満面の笑みで俺の肩を叩き、「トモダチ!トモダチ!」と連呼したのだ。
隣にいただけで特に何も買っていないせっきーも、「トモダチトモダチ!」と声をかけられていた。
50度で沸騰する水だろうか。
E.Tにとってのトモダチになる基準は低すぎるのではないか。
この程度で友達ならば、この世界はトモダチだらけだ。
疑問に思ったがすぐに考え直した。
E.Tはきっとグローバルならぬ、コスモを跨ぐほど心が広い人物なのだ。
生物みな兄弟という精神なのだろう。
*
翌朝。ガモたんの左腕にはめられた光り輝くオメガは、14時を指し示していた。
「せっきー、俺らめっちゃ寝過ごしたぞ!もう14時や!」
「先輩、その時計狂ってますよ。今は9時です」
「は?1日で時間がズレたんか?」
「パチモンやし、不良品っすか。訴えた方がいいんじゃないっすか?」
「訴えることはせんけど、ただひとつだけすべきことがある」
「なんすか?」
「トモダチ、破棄や」
東京ドーム2個分ほどの面積の市場を歩いていると、何語かどうかも判別できない叫び声が飛び交う。
商品の前で座りこみ、飯を食らい、新聞を読み、スマホをいじっている店員たち。彼らを横目に、クンクンと鼻を効かせる観光客がいた。
バターと納豆を混ぜて、そこに、にんにくを加えたことはないけれども、ホーチミン市街の露天市場の匂いはまさしくそれだった。まさにジャングルに迷い込んだ探検隊。
「ここって、世紀末なんかな?」ガモたんは後輩のせっきーに尋ねた。
「そっすね。さっき、あべしって聞こえましたし」彼は眉間に皺を寄せて頷いた。
異様な市場の雰囲気の中、キョロキョロと周りを見渡しながら前に進むと、時計屋が目に留まった。
ガラス箱に陳列された時計たちに、ガモたんの心は奪われた。
そのとき、背後から何者かの気配を感じた。「俺の後ろに立つな!」という思いを胸に、後ろを振り返った。そこには、130cmほどの身長のお兄さんが立っていた。
そして、ガモたんの耳元で、「イイトケイ、タクサンアルヨ。ニホンエンモツカエルヨ」と囁いた。
ガモたんはぶるっと身震いをした。お兄さんの吐息が耳にかかったからだ。
お兄さんの言葉に軽くうなずいたあと、ガモたんはせっきーに話しかける。
「この人、E.Tに似てない?」
「どっちかといえばヨーダとちゃいますか?」
「すまん、ここは先輩の顔を立ててくれ。E.Tで行こう…」
どっちでもいいのにな、という表情を見せるせっきーは、「了解っす」と答えた。
賛成多数。これ以後、このお兄さんをE.Tと呼ぶことにする。
呼び方問題法案を通したあと、時計の審議、もとい、吟味に移ることにした。
ガラスケースの中に閉じ込められている無数の銀の塊は、`拙者を購入してくれ!`と言わんがばかりに、神々しく光り輝いていた。その中でも目を引いたのは、美しいギリシャ文字が刻まれたものだ。さらにそれには、オメガのマークが刻まれていたのだ。
もちろんガモたんは、目を疑った。
闇市の雰囲気を醸し出す市場で、天下のオメガの時計があるのだろうか。
ガモたんはE.Tに尋ねた。
「イズディスオメガ?これってオメガなんすか?」
E.Tは、待ってました、と言わんばかりのドヤ顔を披露する。
「イエアァー!オメガ!オメーガ!」
そうか、オメガか。
人生は物分かりの良さが肝心だ。E.Tがオメガといえば、これはオメガなのだ。
横ではせっきーが、「それ、絶対パチモンっすよ!帰国するとき、税関で摘発されたらヤバイっすよ!」と囁いているが、ガモたんはもう止まらない。
にっちもさっちも、このオメガにハートを鷲掴みにされていた。
肝心の問題は値段だ。
ガモたんは恐る恐る、E.Tに値段を尋ねようとしたが、オメガは10万~100万円と値段幅が広い。普通に尋ねても手が出るはずがないので、捨て身の作戦に出ることにした。
ガモたんは、財布から取り出した野口英世さんを、E.Tに差し出した。
「1000円、オッケー?」
E.Tの表情からは、梅干を舐めていることが読み取れる。
ガモたんは、野口英世さんをもう一枚加える。しかし、梅干を飲み込んだままだ。
さらに、もう一枚、野口英世さんを追加した。
E.Tが唾を飲みこむ音が聞こえた。酸っぱさを感じていたE.Tの顔に、生気がよみがえっている。
いける、これはいける。
ガモたんは印籠を差し出すかのように、5枚の野口英世さんを召喚した。
「5」という数字にはエネルギーがある。
戦隊ヒーローもプリキュアも、いつだって5人だ。たまに2人しかいないプリキュアもいるが、彼女たちはハートがMAXなのだから仕方があるまい。
彼女たちが5人もいたら、エナジーが暴発してしまう。
仲良く並んだ5枚の野口さんを見たE.Tは、一本の指を差し出した。それに反応し、ガモたんも指を合わせる。
心が通い合う瞬間…いや、それは、スピルバーグ作品だ。
ガモたんの目の前にいるE.Tは、さっと手を差し出し、握手を求めてきた。
それに応じ、彼と握手を交わす。
温かい体温、これが人のぬくもりかもしれない。
そして、5枚の野口英世さんを渡し、オメガの時計を受け取った。
そのとき、脳内でどんちゃんが現れた。
「曲を選ぶドン!」
ああ、そうだ。チップを渡さないと。ガモたんはE.Tに、100000ドン、約500円をチップとして渡した。
そのときのETの笑顔は素晴らしかった。満面の笑みで俺の肩を叩き、「トモダチ!トモダチ!」と連呼したのだ。
隣にいただけで特に何も買っていないせっきーも、「トモダチトモダチ!」と声をかけられていた。
50度で沸騰する水だろうか。
E.Tにとってのトモダチになる基準は低すぎるのではないか。
この程度で友達ならば、この世界はトモダチだらけだ。
疑問に思ったがすぐに考え直した。
E.Tはきっとグローバルならぬ、コスモを跨ぐほど心が広い人物なのだ。
生物みな兄弟という精神なのだろう。
*
翌朝。ガモたんの左腕にはめられた光り輝くオメガは、14時を指し示していた。
「せっきー、俺らめっちゃ寝過ごしたぞ!もう14時や!」
「先輩、その時計狂ってますよ。今は9時です」
「は?1日で時間がズレたんか?」
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「なんすか?」
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