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III章 どでかい花火で人生終幕?

8話 初のテニス公式戦(3) イーッケイッケェイケナガ

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テニスの歌の応援には2種類あります。
6話で紹介した「もえろっもえろっ」

もう一つは新キャラ、
「イッケェッイケイケッイーッケイッケェ」

とりあえず'イケ'を連呼するというよくわからない歌です。
まだ燃えてる方がマシですが、応援したい気持ちはひしひしと伝わってきます。

学校の勝敗を決める3試合目。
うちの学校からは、池長・占部ペアが選ばれていました。

無気力の塊のようなガイコツ系男子占部さんに、アンパンマンのような柔らかな笑顔を持っちゃってる系男子池長さんという対照的な2人です。

この性格も容姿も対照的な2人がペアを組んで共に戦っている背景にはきっと何か血の滲むような努力や2人のぶつかり合いがあったのでしょう。

いつかこの2人の友情を描いたスピンオフ作品を書いてみたいものです。

(そんな物語はたぷんないし、スピンオフ作品も絶対ありえません。)


ギアルはまた素朴な疑問を僕らにぶつけます。

「なあ?占部さんっていつもマスクしてる人で練習サボって帰ってる人やんな?」
「たぶんな。」

「なんで今日はマスクしてないん?」
「そら試合中までマスクつけへんやろ。」

「なんで?」
「ださいやん。」

「とっしーちゃうで、呼吸しづらくなるからや。」

「でもさ、テニスって心理戦やん。
マスクしてたら表情が読めんから有利やろ。
あいつ顔見えんから何してくるかわからん。ってなって強いやろ。」

「ガンダムでいうたらシャアがマスクしてるみたいなもんか。」
僕のガンダムねたを相変わらず無視してきゃぷてんはギアルに提案します。

「じゃあそれを占部さんにアドバイスしろよ。マスクの必要性をさ。」

ギアルはその手があったかという顔をさらけ出してから占部さんに向かって叫びました。

「占部さんーマスクー!マスクつけてー。マスクわかるぅ?白いやつよ。」

もちろん占部さんはガン無視です。
ひよっこ新入部員が何言ってんだという気持ちでしょう。

「占部さん無反応やなー。」
ギアルは疑問を感じています。

「そらそうやろ、なんで言ったん?生意気すぎやろ。」
ギアルに言わせた張本人のきゃぷてんがこう言うのも、もはや僕らには定番の流れです。


そして、僕らの無駄話を遮るように、せっとんさんの温度で新曲応援歌が始まりました。

「イッケェッイケイケッイーッケイッケェ イケナガ!」

しかし僕はリズム感がないからか、なぜかこの歌を上手く歌えません。

「イーケイッケイケナガ」
となってしまいます。

「とっしー、ちゃうって。
イッケェッイケイケッイーッケイッケェ イケナガ!やで。」


「イーケイッケイケナイ イケナガ?」

「違う!イケナガさんはイケナクない。」

「イッケェッイケイケイケナガ!?」

「違うって!お前これちゃんと歌わないとイケナガさんに失礼やぞ!イケナガさん一所懸命やってるやろがっ!」

きゃぷてんに指摘されると、僕はこのわけわからん歌が嫌になってきて、本音を言い始めます。

「あーっくそっ!
イケイケとイケナガとかやいこしいねん!」

ばっと周りの目線が集まる気配がしましたがそんなことは関係ありません。

「だいたいイケナガさんよ、そんなにイケてないやろ!
何が、'イケイケ'や。カッカッカッ!」

僕はついつい本音を口走ってしまったのです。

イケイケの意味がイケてるかどうかではたぶんないのでしょうが、この時の僕はイケてないイケナガさんを'イケイケ'と謎に褒めることが嫌になっていました。


「た~け~だ~」

谷川さんが僕の背後にゾッと現れ、鬼の形相で僕を睨みつけました。

僕はあちゃちゃっーという顔をして、
「さーせん。ここは大目に見てやってくださいな!」
と謝り、その場を丸く収めたのです。

その横では、あの歌が未だに歌われていました。

「イッケェッイケイケッイーッケイッケェ イケナガ!」
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