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III章 どでかい花火で人生終幕?

11話 '全力'全力少年&まさはるの姉貴

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文化祭の花形といえば、みなさんわかりますよね?

各々のクラスが美声や怒鳴り声、やる気のないダミ声をハーモニーさせるあれですよ?

そう、合唱コンクールです。


そして、今。
僕の目の前では、ハーモニーぶち壊し覚悟の全力で、全力少年を歌う1-6のメンバーがいました。

全力少年ってタイトルやけど本気で全力で歌う?
てかこの曲合唱向けか?
誰か選曲のときに言えよ...

1-6のメンバーが真顔をさらけだして全力で歌う姿がそんな雑念を洗い流してくれます。

1-6は文化祭本番でこれを披露するのでしょう。
綺麗なハーモニーを奏でることが絶対正義なのか?
既存の合唱に疑問を投げかける衝撃的な全力少年。

彼らの全力はりょうほくだいの文化祭にどんな嵐を巻き起こしてくれるのか?

プロジェクトXのBGMがよく似合う展開です、
おもしろくなってきやがりました。


全力1-6の練習が終わった後、僕はきゃぷてんとギアルの元へ駆け寄ります。

「お前ら!全力で歌いすぎやろ!」

「普通や。タイトル通り歌ってるだけや。」

「そんなことより、うちのクラスで1人全力を出してないやつがおるねん。」

「誰や?」

「こいつや。」

ギアルは石ころを蹴る動作をして、飄々と新キャラまさはるを見つめました。

「出してるわっ!」
まさはるは間髪入れず鋭く突っ込みをいれます。彼はこのツッコミを武器に、5年後には'盛り上げ隊長'という役職を手に入れます。
(盛り上げ隊長の活躍は俺バグ大学生編にて)


「まさはるは声出してるふりしてるだけやろ。」

「ちゃうわほんまに出してるわっ!」

必死に弁解するまさはるに、きゃぷてんは革新(確信)的な一手を放ちます。

「まさはるはなあ、所属してる吹奏楽部でも、吹いてないんや。
吹いてるふりをしてるんや。」

「ちゃうわ!吹いてるわ!」
「いや、この前吹奏楽部の女子が『まさはるくん吹いてないよねー』って話してたの聞いたぞ。」
(女子の噂はきゃぷてんが編み出した真っ赤な嘘です)

まさはるはそれを指摘されると、急に顔つきが変わりました。
頭を引っ掻きバレタカというカモフラージュをしながらつぶやきます。

「せやな。」

認めた... ってことは吹いてないんや...


「てか吹奏楽部って女子しかおらんやん?
なんでそんなとこ入ったん?」
僕らはまさはるを問い詰めます。

「まさはるは、女好きなんやろ?」
「ちゃうわ。」

「じゃあホモ?」
「ちゃうわ。」

「じゃあ女の子好きやろ?」
「まあな。」

「じゃあ吹奏楽部入ったのも女の子目当てやろ?」
「...せやな。」

認めた... 女の子好きで吹奏楽部入ってたんや。

このあたりから僕らはこのまさはるという人間のチョロさに気付き始めます。

チョロいというか、彼はとにかく人生がめんどうなのです。否定するのさえとりあえず場の空気に合わせてしまうのです。


「俺も吹奏楽部入りたいわ。」
浅倉さんが吹奏楽部にいるので僕はまさはるに嫉妬して本音が出ました。

「じゃあ、とっしーテニス部やめて吹奏楽部入れよ。」
「それはさすがに恥ずいわ。」

「てか本当のところ、なんでまさはるは吹奏楽部入ったん?」
きゃぷてんは、くっちゃか噛んでいたガムを丁寧に袋に包んでから、自分の掌に握りしめ、まさはるに尋ねました。

まさはるはきゃぷてんの掌をそっと開き、ガムの包み紙を奪い取ると、それをじっと見つめ、うなづくや否やそれをゴミ箱に捨てました。

めっちゃええ奴。けど、そこまでせんでええやん。ちょっとキモいぞ?

今の事象が飲み込めずにキョトンとしたきゃぷてんを置いていくかのように、まさはるは語り始めました。

「俺の姉貴が吹奏楽部OGやからさ。」
「え...?吹奏楽部のおじ(叔父)?」

「違う。OG。」
「だから叔父やろ。」

「違う!
オージー!!!」

「だから叔父やんけ?!」

まさはるは、諦めの表情をちらつかせ、ぐっと息を飲み込み叫びました。

「せやな!
叔父や!!
俺の姉貴はなあ?

吹奏楽部の叔父や!」


み、み、みとめた...

こ、こ、コイツ、、チョロいぞぉ!!!
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