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III章 どでかい花火で人生終幕?

27話 ハヤサガイノチ

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部活帰りのいつもの日常、
ぼくたち3人は横に並んで座り、電車に揺られていました。

眠気に襲われ、顔を落としているぼくの顔をきゃぷてんはじぃっとガン見してつぶやます。

「こんなところに、小栗旬おるやん」


いつものぼくならは「なんでやねん!」
とつっこみますが、

小栗旬

という響きがあまりに嬉しすぎて、少しニヤついただけで反応を終えました。

それと同時に、自分の近くに小栗旬がいるという非日常情報を聞いた目の前のおばちゃんは、遠慮がちに顔を上げてぼくをチラ見したのです。

小栗旬と呼ばれまんざらでもなく嬉しそうなぼくと、
'小栗旬かな?'と期待したおばちゃんとの目が合った瞬間、
'ズゥーンッドキッ'という鈍い音が車内に響いた気がしました。


「プププッ」

目が合った1秒後には、おばちゃんは思わず吹き出していました。

「だ、誰が小栗旬やねん」

巻き込み事故から脱するために、慌ててつっこみましたがもう手遅れでした。

「あ、間違えた。市原隼人や」
きゃぷてんはおもしろがって見当違いな褒めを続けます。

もう一度ぼくをチラ見して、ざっと目をそらし笑いをこらえるおばちゃんの反応を楽しむかのようにきゃぷてんは言葉を連ねます。

「チャングンソクでもあるな。
いや、水嶋ヒロ、っぽくもある」

'どこがやねん'という思いが笑いを通り越して怒りに変わる瞬間を迎えつつあるおばちゃんの様子を察したぼくはきゃぷてんの耳元でささやきました。

「本気出してくれ。他にちゃんと他に似てるやつおるやろ?」

彼は整った顔立ちをひょっとこのようにぐにゃっと曲げて言いました。

「麒麟の田村か、しずるの池田かな?」

'その辺が妥当'という安堵に満ちた表情のおばちゃんをみてぼくは安心しました。


謎イベントをこなし終えて、最寄りの西桜ヶ丘駅で電車から降ります。

その時ボブは、「ちょっと、大、いってくる。」と言い、トイレに寄りました。

ぼくときゃぷてんが、待ち始めて僅か1分後、ボブは満足げな表情でトイレから出てきたのです。

「え?めっちゃ早くない?」
「ほんまに大なん?」

驚くぼくらにボブは飄々と答えます。

「大やで」

「いや、さすがに早すぎるやろ!?」
食い気味に突っ込むきゃぷてん。

「なんでそんなに早いん?」

「先に拭いてるからな」

「は?
先に拭いてるって、どういうこと?」

「普通の人らは、用を足してから拭くやろ?
だから遅いねん。

俺は、先に拭いておく」

「ん??」
事態が飲み込めないぼくらにボブは説明を続けます。

「座ります。拭きます。大をします。
これで終わりや!!
だから早い!」

「大した後は、拭かへんのか??」

「それを次の時に拭くんや。
前の分を、次の大のときに拭いてるから問題ないやろ?」


さすがにふざけてる、これは嘘やと思いながらぼくときゃぷてんは驚きつつも質問します。
「ボブ、
それ、マジで言っとんか?」

「信じるか信じひんかは、お前ら次第や」
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