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III章 どでかい花火で人生終幕?

31話 ボウリング狂想曲(1)

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ラウンドワンに着いたぼくらは早速ボーリングを始めました。

一番左端のレーンに案内されたぼくらは荷物を置いて、各々ボールを取りに行きました。

「さあて、ちょいと世界をひっくり返してやるか」
かっこいい台詞を吐いたボブは、ひょろ長い体ながら10ポンドを軽々と持ち上げます。

中学時代はバスケ部であり、宮城リョータのような小柄さのきゃぷてんは、「まあこれくらいは男として持っとかねぇと」と言いながら8ポンドを選びます。

中学時代は野球部のエースで引き締まった体をしていた織田は、ぽっこりお腹を揺らしながら12ポンドを軽々と
持ち上げ「お前らと違うんや」という雰囲気を表情筋から漂わせています。

彼らにばれないようにある球を鷲掴みにしたぼくはレーンに戻りました。

そして、ゲーム開始とともに、意気揚々と、その球、
5ポンドを投げ込みました。

五本の指から解き放たれたボールはまっすぐにピンに向かい、どまんなかに吸い込まれて行きます。

ドンガラガッシャーン

響く破裂音...でしたが、見事なスプリットです。


「どまんなかやろ!なんでやねーん!」
肢体を地面に投げ出しながらピンに突っ込むぼくに、きゃぷてんは冷静に呟きました。
「5ポンドやからな。シンプル軽すぎる」


その後、ただただボールを投げ続けて1ゲームが終わりましたが、全員、諸行無常な顔をしています。

「これ何がおもろいん?」
不意に発したボブの一言。

「せやな」
「誰かと競ってるわけでもないし、ただ重いボール投げてるだけやもんな」

こんなこと言うと、全世界のボーリング好きにしばかれそうですが、ぼくらはボーリングの魅力が全くわからなかったのです。

ここできゃぷてんが一考します。
「おもんない理由がわかった。レーンまでの距離が妙に遠いねん。もっと近くから投げてみよう。」

「近くから投げるってどういうこと?」

「レーンの半分くらいまで歩いて稼いで?ほんで近くで投げる。ど迫力間違いなしや」

「そんなんあかんやろ!
誰がそんなことするねん!」

「お前や」
「お前や」
「お前や」

きゃぷてんたち3人は揃ってぼくを指差しました。

ぼくは「なんでやねぇ~ん」と甲高い声を上げながらも、すぐにその案を実行に移します。

5ポンドを鷲掴みにして投球フォームに入る青年...

1歩2歩3歩4歩5歩6歩

神戸コレクションで喝采を浴びながらランウェイを歩くかのように一歩一歩ピンに向かって進みます。

そのとき背後から、

ガゴン

という音が聞こえました。

振り返ると、ボーリング玉が迫ってくるではありませんか!

「うわっ」

Aボタンを押して、間一髪でジャンプして避けるも、着地時に体勢を崩して膝から倒れこんでしまいました。

服と手がオイルでベトベトになる中顔を上げると、一球、また一球とボールが投げ込まれます。

「うわぁっ!うわぁっ!」

ひょうきんな声を出して慌てるぼくですが、その場で避ける限り活路はありません。
彼らはボールを投げ続けてくるでしょう。
端っこのレーンでしたので、横の通路に逃げるということもできましたが、ぼくは意を決しました。

「うぉぉおおお!」

ボールに向かって走り始めたのです。

そして小気味好くジャンプして転がる玉を感じます。

きゃぷてんらは、迫り来るぼくを見て、「うわっなんかくるぞぉ!」と恐れおののきます、ボールを投げる手が止まったのです。

やっと、レーンから脱出して、彼らの目の前に立ったぼくは、目を血走らせて怒りを露わにします。

「なんで俺に向かってボール投げるねん!
危ないやろが!」

「あんなとこおるやつが悪い」
と素っ頓狂な態度をとる彼らにぼくは、怒りがおさまりません。

「レーンを歩いて、ピンまで近づいて投げろって、きゃぷてんが言ったんやんけ!!」

当の本人、きゃぷてんは首を傾げながら冷静に言いました。

「なんであんなことしたん?」

「お前が言ったんやろがぁー!!」

ラウンドワンに叫び声が響き渡ると同時に、1人のスタッフはこちらに走り込んでいたのです。


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