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5章 決戦と別れ
7、バイク激走
しおりを挟む父が運転するバンは、国道441号線を北上していた。
「もうこれでこの高知県ともお別れか…」父は物思いにふけった様子でそうつぶやいた。
「そうだ、お頭!せっかくだから四万十川沿いを進みましょうよ。441号線は混雑しますし、県道の方が早く進みますよ?せっかくだし、最後に佐田の沈下橋に寄るのもいいですね!」
「たしかにそうだ。よし」
父はそう言って、市役所前の交差点を左折し、県道340号線に向かった。
竜の涙のような雫が、空から零れ落ち始めていた。
―――――――――――――――――
宗輝さんの後ろに座っているぼくの背中には、2本の木刀があった。1本はぼくのもの、もう一本は宗輝さんのものだ。もし父に追いつくことができれば、もう一度戦わなければならない。
宗輝さんの駆るバイクが市役所前の交差点に差し掛かったとき、ぼくは宗輝さんに声をかけた。
「ちょっと待って!やっぱり、四万十川沿いを進んでくれない?」
「なんだって?」
「ぼくが今から案内する県道340号線を通ってほしいんだ」
「どうして急にそんなこと言い出すんだ?」
「確証はないんだけど、父さんはこっちを通ったような気がして…」
「なんだかニュータイプみたいな発言だな…?まあいい。お前を信じるぜ」
宗輝さんはそう言って、国道441号線ではなく県道340号線を北上した。
四万十川沿いの県道340号線は、景観の良い直線の道が続くが、曇り空のせいでその魅力は半減していた。
「しっかり捕まってろよ、勇」
バイクのスピードメーターは100kmを越えていた。ぼくは振り落とされないように、宗輝さんの体にがっしりとしがみついていた。
雨脚が強くなり、道路にはところどころ水たまりがあった。バイクはたびたび泥濘にはまり、泥がはね上げてくる。
そのとき、宗輝は侍さんに語りかけた。
「なあ。宗珊…人生っていうのは、過去のしがらみを忘れて、生まれ変わった気持ちになれるのだろうか?」
「ああ。若さなど関係ない。何時だって、今この瞬間が最も若いのじゃ。変わろうと思ったら、いつだって変わることができるはずじゃ」
「俺も剣道をもう一度始めようかな。アマチュア武道大会に出るのも悪くねえし、もう一度、戦いたいんだ」
「なぜそんなことを考え始めたのじゃ?」
「少年たちと修行をしているとよ。あいつらが輝いて見えたんだ。あいつらは、今に夢中なんだ。あいつらなりに過去に色々なことがあったみたいだが、それに縛られずに今を必死で生きている…」
「ああ、儂も勇と一緒にいてそれを感じたのじゃ」
「俺はこの20年。高校時代のあの忌々しい事件が頭から離れなかった。けどよ、そろそろ過去を吹っ切って、自分の心に素直に生きていこうかな、と思ってよ」
宗輝さんの言葉を聞いて、侍さんはにこやかな表情を浮かべた。何か心のつかえがとれたかのような表情だ。
その時、目の前に白いバンが現れた。それは、半年前に見かけた父が運転していたものを同じナンバープレートだった。
「宗輝さん!たぶんあの車が、父さんたち長元組の車だ!」
「わかった!とりあえず横につけるぜ!」
バイクはバンの横に迫り、並走した。
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