ヒョーイザムライ

喜多ばぐじ・逆境を笑いに変える道楽作家

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5章 決戦と別れ

18、未来は僕らの手の中

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<友情の決闘>

あくる日の早朝。まだ太陽が完全に姿を現す前。
誰もいない佐田の沈下橋の中央にぼくとトシの姿があった。

朝から自転車を飛ばしてここにやってきたのは、10年前の決着をつけるためだ。昨晩は大好きなロッキーⅢを視聴して、この日のために気持ちを高めている。

「どうだ、勇。決闘っぽいだろ。この時間ならまだ車もこねえ。心置きなく戦えるぜ?」
 
「道場では2人で真剣に戦ったことがなかったものね」

「ああ。宗珊もケンモツもいなくなった今、雌雄を決しようぜ。かつての雪辱を晴らしてやる」

「どちらが強いか…だね?」

「ああ。それと、わかってるだろうな。この勝負に勝った方が、雪に告白をする権利を得る」

「わかってるよ」ぼくはぶっきらぼうに答えた。何かのきっかけがないと、告白をする勇気は出ないのかもしれない。

観客が一人もなく、ゴングすらない橋の上、2人だけのリターンマッチ…

「いくぞ!」

「おお!」

ぶつかり合った竹刀は、大きな音を立てて火花を放った。


―――――――――――――――――

<未来は僕らの手の中>

この日は、再び雪の家に招待されていた。
「勇くん。今から私がバイオリンである曲を弾きます。それが何かをあててみて?」

「え?あんなに恥ずかしがっていたのに、バイオリンを弾いてくれるの?」

「勇くんは、特別だよ…
私が好きなロックンロールを、自分なりにアレンジしてみたんだ。あててくれたら…」

「あてたら…何?」

「それはまだ言えない…」
 
すっと息を飲んだ雪は、流れるような仕草で弦を操った。まるで空に音符が浮かんでいるかのように、心地よいメロディーが流れる。ぼくは奏でられた音に魅了されていた。

そのメロディーに乗せて、ぼくは自然と口ずさんでいた。


月が空に張り付いてら
銀紙の星が揺れてら
誰もがポケットの中に
孤独を隠しもっている
あまりにも突然
昨日は砕けていく
それならば今ここで
僕等何かを始めよう


「勇くん、口ずさんでるじゃん…?この歌のタイトル、わかったでしょ?」

「うん…」

ぼくはそう答えると、雪にそっと近づいた。彼女はバイオリンを置く。

「私のお父さんは山内家の血筋なんだけどね、どうやらお母さんはお雪さんの血筋を引いているみたいなんだ。お雪さんのお姉さんが、私のお母さんの先祖らしいの。だから私たちも、惹かれ合う運命なのかもね」

「兼定様とお雪さん、添い遂げられなかった二人の分までさ。ぼくらは一緒に…」

持て余していた雪の左手をぼくはぎゅっと握りしめた。そして自分の洋服のポケットに突っ込んだ。ポケットの中は2人分の体温で温まる。

雪はぼくの瞳を見て、にっこりと笑った。

「未来は僕らの手の中…だ」

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