歌えなくなったオメガを匿った夜から、ふたりの秘密が始まった

スピカナ

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第5話 なんと呼ばれたい?

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 朝食を食べられた日は、昼食もちゃんと食べてくれた。
昼食はエビグラタンを作った。
好きかな?と思いながら、エビをたっぷり入れた。

目の前にトレーを置くと、彼はにこっと俺の目を見た。
可愛い。もう、本当に。
俺も笑顔で返した。

「エビグラタンが好き?」
そう聞くと、うんうんと何回も頷く。
そんなに好きだったんだ。

「熱いからやけどしないでよ。俺も一緒に食べようかな?」
また俺の方を見て、嬉しそうにうんうんと頷いた。

ソファでパソコンを打つときに使う小さなテーブルをベッド脇に持ってきた。
それにダイニングの椅子を持ってきて、二人で並んで食べた。

チーズがこんがり焼けていて、我ながら上出来だ。
「二人で食べるとおいしいね!」
彼はきれいな顔をほころばせて笑った。

食べながら、もう夜のメニューを考えてしまう。
また喜んでほしいな。

そうだ、一つ解決したいことがある。
「君の名前だけど、なんと呼ばれたいの? まさかポチじゃないと思うけど」

そう言うと、彼は危うく吹き出しそうになって口を押さえた。
うわ、やばい。こっちも慌ててティッシュを渡す。
それから水も渡した。危なかった。

そばにあったメモに、彼は名前を書いてくれた。
「颯太」
そうか、これが本名なんだ。
あ、そういえば学生証にも書いてあったな。

負けじと俺も名乗る。
「俺は陽一って言うんだよ。だから“よう”って呼んでいいよ。特別大サービスだよ」
そう言うと、また笑い出した。

そうだ、いちいちメモは時間がかかる。
後で買い物に行ってこよう。

食事を終えると、
「コーヒーか紅茶を飲む?」と聞いた。
今度は大きく口を開けて、“コーヒー”と発音したらしい。

「わかった。コーヒーね?」
彼は頷く。よしよし。

「ホットにする? アイスにする?」
今度は“アイス”と唇の動きでわかった。
「OK。アイスコーヒーだね?」
うんうん、と頷く。

二人でコーヒーを飲むと、俺は仕事に行くと言って家を出た。
本当は先に家電店に寄るつもりだ。
駅前にあるから近い。

彼にタブレットを買ってやりたい。
メモなんてやってられないよ。

俺だって書くより打つ方が早い。
買い物を終えて病院に出勤した。

院長室に入ると、妹のかえでがいた。
嫌な予感しかしない。
妹はうちの病院の耳鼻咽喉科で診療をしている専攻医だ。

「お兄ちゃん。出勤が遅かったね~。なんで? なんか私に隠し事してるでしょう?」
やばい……。この妹の動物的勘は本当に鋭い。
まず隠し事はできない。どうしよう?

とりあえずタブレットは足元に置いた。
「お兄ちゃん、何買ってきたの? 隠しても無駄よ。さっき見たもん」

「何って、ただのタブレットだよ」
「なんでタブレットがいるの?」

「トイレ用だよ」
「はあ?」

「トイレに置いておくんだよ。便利だろ? 動画見たりさ」
「信じられない。ふ~ん、そうですか。まあ今回はいいでしょう。
それより早くいい人見つけてよ。お母さんが結婚しろってうるさいからさ」

「それは知らん。好きにすれば?」
「じゃあ、とにかく伝えましたからね。よろしく」

そう言うと、楓はさっさと出て行った。

は~……危ないところだった。

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