歌えなくなったオメガを匿った夜から、ふたりの秘密が始まった

スピカナ

文字の大きさ
37 / 83

第37話 楽しい団欒に

しおりを挟む
 颯太の治療は、その後も順調に進んでいる。

でも、残念ながらまだキス以上はしていない。
俺はずっと我慢の子。(笑)

ヒートが来るほど颯太の身体が成熟していないからだ。
なんといってもまだ十八歳。焦る必要はない。

マッサージの後は声がよく出るようになってきて、それが密かに嬉しい。
本人には言わないけど。言ったら恥ずかしがるから。

今日は日曜日。家族がランチに来る日だ。
最近は颯太も一緒に料理をするようになった。

今日は豚汁と、颯太が作った唐揚げ。それにポテトサラダ。
テーブルを整えたところへ、賑やかに家族がやって来た。

一番うるさいのは妹の楓だ。
「颯太君、何作ってくれたの?」

「私も楽しみよ」と母が笑う。

父もニヤニヤしている。
「ほう、うまそうだな。早く食べさせてくれ」

「今日はね、颯太が唐揚げとポテトサラダを作ってくれたんだよ」
「へえ~」と声が揃った。

豚汁をよそい終えると、みんなで手を合わせた。
「いただきます」

唐揚げは普通の味とカレー味の二種類。
さらにコーンフレークの衣のものまである。

「わ~このコーンフレークの衣、サクサクでおいしい!」と楓。
「マジ旨いな」と淳一はカレー味を気に入ったようだ。

父は「豚汁もコクがあってうまいな」と満足げ。
颯太を見ると、自分は食べずにみんなの顔を見ている。

「颯太、どうした? 食べなよ」
うん、と笑って食べ始めた。

きっと、こういう賑やかな食卓を知らないんだろう。
ワイワイとした家族の団欒。

それをただ見ているだけで幸せそうだった。
ひととおり食べ尽くした頃、豚汁の鍋も空っぽになっていた。
よく食うなあ、うちの家族は。

そこへ電話が鳴った。
山川弁護士だ。日曜日に珍しい。

「ちょっとごめん、弁護士から電話だ」
席を外して書斎に向かう。

「お休み中に申し訳ありません。実は少し困ったことがありまして……。
立花家の執事・小林さんが病院の前に来ているそうなんです。
急ぎの用で、颯太君の生活環境を見たいとのこと。
それと、お父さんから伝言があるそうで……どうしましょうか?」

「ああ、そうなんですか。もうそこまで来ているなら仕方ないですね。
うちの住所を教えてください。来てもらって構いません」

「承知しました。では失礼します」
電話を切ると、胸の奥がざわついた。

なんだか面倒なことになりそうだ。
テーブルに戻ると、父が心配そうに聞いてきた。

「どうしたんだ? 弁護士だったんだろう? 日曜日に何かあったのか?」
みんながこちらを見ている。

「あのね、颯太。今、病院の前に立花家の執事さんが来てるらしい。
急用で、うちに来るって」
「……え?」
颯太の表情が急に曇った。

「じゃあ、私たちいない方がいいのかな?」と楓。
「いや、普段の様子を見たいらしいから大丈夫。
ありのままでいいよ」

「じゃあ片付けましょう」と母。

「楓、お茶お願いね」
「了解」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷酷なミューズ

キザキ ケイ
BL
画家を夢見て都会へやってきた青年シムは、「体液が絵の具に変わる」という特殊な体質を生かし、貧乏暮らしながらも毎日絵を描いて過ごしている。 誰かに知られれば気持ち悪いと言われ、絵を売ることもできなくなる。そう考えるシムは体質を誰にも明かさなかった。 しかしある日、シムの絵を見出した画商・ブレイズに体質のことがばれてしまい、二人の関係は大きく変化していく。

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。 勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。

薄紅の檻、月下の契り

雪兎
BL
あらすじ 大正十年、華やかな文明開化の影で、いまだ旧き因習が色濃く残る帝都。 没落しかけた名家に生まれた“Ω(オメガ)”の青年・白鷺伊織は、家を救うため政略的な「番(つがい)」として差し出される運命にあった。 しかし縁談の相手は、冷酷無慈悲と噂される若き実業家であり“α(アルファ)”の当主・九条鷹司。 鉄道・銀行事業で財を成した九条家は、華族でもありながら成り上がりと蔑まれる存在。 一方の伊織は、旧華族の矜持を胸に秘めながらも、Ωであるがゆえに家族から疎まれてきた。 冷ややかな契約婚として始まった同居生活。 だが、伊織は次第に知ることになる。 鷹司がΩを所有物としてではなく、一人の人間として尊重しようとしていることを。 発情期を巡る制度、番契約を強制する家制度、そして帝都に広がる新思想。 伝統と自由のはざまで揺れながら、二人は「選ばされた番」から「自ら選ぶ伴侶」へと変わっていく——。 月明かりの下、交わされるのは支配ではなく、誓い。 大正浪漫薫る帝都で紡がれる、運命を超える愛の物語。

聖女を演じた巻き添え兄は、王弟殿下の求愛から逃げられない

深嶋(深嶋つづみ)
BL
谷口理恩は一年ほど前、妹と一緒に異世界に転移してしまった。 聖女として魔術の才を開花させた妹・世奈のおかげもあって、二人はアルゼノール王国の大教会に保護され、不自由のない暮らしを送ることができている。が、最近は世奈の奔放さに理恩は頭を抱えることもあった。 ある日、世奈の仕事を肩代わりした理恩は、病に臥せっている幼い第二王子・イヴァン王子のもとに参じることに。 ――「僕が大人になったら、僕の妃になってくれませんか」。 何度も謁見を重ねるうちに理恩に懐いた彼は、目の前の聖女が偽者であることに気付かぬまま、やがて理恩に求愛する。 理恩は驚き、後ろめたい気持ちを抱きながらも、「大人になっても同じ気持ちでいてくれたなら」と約束を交わした。 その直後、何者かの陰謀に陥れられた世奈の巻き添えとなり、理恩は辺境の地へと飛ばされてしまい……。 ――数年後、アルゼノール王国を出て世界中を巡っていた理恩は、とある国で偶然、王弟・イヴァンと再会する。 傷心の旅をしているのだという彼は、どういうわけか理恩との交流を持ちたがって――?

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

処理中です...