診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第8章 もっと寮が欲しい

148話 黒マスクのイケメンポスター

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 結局、三枝君には申し訳ないが、院長室に来てもらった。

俺が会いに行けば注目を浴びすぎて、また誰かが動画を撮るだろう。

それに俺も吹き出すと危ないからな。

院長室のドアがノックされ、ゆっくりと三枝君が入ってきた。

もちろん、あの黒い大きなマスク姿のまま。

姿勢はピンと伸びているのに、どこか肩が落ちていた。

「……院長。昨日の件は、本当に申し訳ありませんでした」

深々と頭を下げる。

「いやいや、三枝君。謝る必要なんてないよ。そのために呼んだんじゃない。お礼を言いたくてね」

俺は立ち上がり、正面から彼を見つめた。

「むしろありがとう。あの黒マスク姿、インパクト最高だったよ。

スタッフ全員が“見に行きたい!”って受付に集まったくらいだ。

あの存在感、広報としては最強の武器だよ。もう君は最高だ」

三枝君の目が一瞬、大きく見開かれた。

「……え? 広報として……?」

「そうだよ。病院中であれだけ話題になるなんて滅多にない。

笑いも取れて、でも最後は“やっぱり三枝君は格好いい”で締まる。

こんな完璧な広報素材、他にないんだ」

その時、桐生さんが丸めたポスターを抱えて入ってきた。

「院長、刷り上がりました!」

広げられたポスターには――

受付カウンターに立つ黒マスク姿の三枝。

“病院を支えるのはあなたの力。清掃もまたキャリアだ!”

ほう、シックで洗練されていて、まるで映画のポスターのようだった。

三枝君は驚いたのか、しばらく声を出せなかった。

やがて小さく声で答える。

「……分かりました。あえて……頑張ります。

これが菜の花のためなら……広報の顔として」

その瞬間、理事がぱんっと手を叩いた。

「よし! じゃあ次は“黒マスク三枝・ポスター展”開催だね!」

「……勘弁してくださいよ……」

そう呟きながらも、三枝君の姿勢は崩れなかった。

――菜の花の広報は、今日も完璧だ。



ポスターは院内だけで終わらなかった。

広報チームがHPと公式SNSに画像を載せた瞬間、反応は爆発的だった。

《菜の花って医療だけじゃなく広報センスまで最強》
《黒マスクの人、誰!? 俳優さんかと思った》
《これ、病院のキャンペーンポスターでしょ? おしゃれすぎる》
《清掃キャリアをここまで格好良く見せるってすごい発想》

インスタではシェアが止まらず、ストーリーに“黒マスク三枝”の画像が次々流れた。

「#菜の花病院」「#黒マスクイケメン」のタグが一気に伸び、トレンド入りしたほどだ。

「このタグって誰がつけて流したんだよ? 夏、お前だろ?」

夏「だって、お兄さん。騒いでるのは俺じゃなくて世間なんだよ。これ見てよ」

院内チャットも大騒ぎ。

ナースA《ちょっと! 三枝さんが世界デビューしてる!》
技師B《病院がモデル事務所になったみたいw》
事務員C《受付に黒マスク姿で立ってるだけで行列できるんじゃない?》

一方の本人――三枝君は。

受付カウンターで、相変わらず黒マスクを着けて立っていた。

実にけなげだな。見た目と中身は全然違うな。ふっ。

俺はそっと彼に声をかけた。

「三枝君、本当にありがとう。インパクト最高だ。君のおかげで菜の花が一気に話題になったよ」

三枝君は照れたように、

「……なんとか頑張ります。広報の顔として」

その言葉を聞いて、俺も思わず笑顔になった。

「うん、そうだね。頑張って」

――やっぱり菜の花の宝だな。


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