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157話 莉子入院・2
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医局に皆で行って、各検査結果をそれぞれがじっと見ていた。見終わって、三人とも一斉に、はあーっとため息をついた。
どうだ?なんかピンとくるものがあるかな? もっと検査で必要なものがあるだろうか?意見を聞きたいよと俺は言った。岩城が言った「倒れた日ってどんな状況だったんだ?」すると「俺も聞きたい」と川瀬が言った。
その日は午前が大学の絵画部で絵本作りと、午後はテニス部で練習をする予定だったんだ。
だから荷物は莉子が持つにしては重かったと思うんだよ。で昼頃、絵画部の友だちから連絡があって、まだ来ていないというんだよ。で、朝に画材屋さんで買い物をしてから行くとメールが来たんだけど、それっきりなんだ。
実際に画材屋さんに行ったら、監視カメラに一人で帰る姿が写っていたんだよ。で、そのコピーを持って、警察に行って駅の監視カメラを調べて貰ったら、そのまま駅には行っていないと言うんだよね。
だから、画材屋から駅に向かうまでに何かあったんだと思うけど、発見されたのはもう6時くらいで、駅から1キロくらい離れた入り組んだ住宅地の一軒家の住人から、仕事から帰ったら、うちの中に知らないお嬢さんがおばあさんと一緒にいたというんだよ。連絡しようにも莉子の携帯が充電切れだったんだって。で、大学に電話しても誰も出ないから、警察に連絡したっていうんだよ。
しかもその子はすごく具合が悪そうで、しゃべれないって言うんだよね。だから俺は莉子に間違いないって確信したんだ。で、パトカーで連れて行ってくれて、そこで莉子を見つけたんだ。
ただ、そのおばあさんが認知症で徘徊するから、きっと家まで送ってくれたんじゃないか?って住人の人が言うんだよ。だからおばあさんに何を聞いてもわからないんだよ。
その時は意識レベルがもう下がっていて、何か聞いてもしゃべれないんだよ。ただぐたっとしているだけだったから、すぐ帰宅して、点滴を始めて、バルーンも入れたんだ。
夜中もやっぱり意識レベルが落ちたままで受け答えは何もできなかったよ。その晩は3本点滴をしたんだけど、朝になっても何も回復していなかったんだ。
で、今日は俺が外来だったから、ここに連絡して受け入れてもらったんだ。俺もいろいろな検査をしたかったから、内科でお世話になったんだよ。最初は疲労と脱水だと簡単に考えていたんだが、3本目を終わって愕然としたよ。何も回復していなかったから、俺は青ざめたよ。
「ほーっ」と二人が同時に言った。岩城が「やっぱりおばあさんを見捨てておけなかったんだろうなあ。それで、その入り組んだ住宅地をぐるぐる、重い荷物を抱えながら、訳の分からないおばあさんを連れて回ったんだろうなあ。きっと誰かに助けを呼びたくても携帯が充電切れで、自分もどこにいるのか分からなくなってしまったんじゃないかなあ?」
すると、川瀬が「助けを呼べない絶望感か......?」
岩城が「うん、そうだろうな。莉子ちゃんはシャイだし、いつも北原の厚い庇護のもとに、大学と自宅の間の狭い範囲で生きているだろう?、だからわからないところに放り出されたショックと言うか、身体の生命力が危機を感じたというか、一体何時間その住宅地の中をぐるぐる回ったかわからないもんなあ」
「普通なら、歩いている人に聞くとか、どこかの家の呼び鈴を押して、助けてもらうとか、タクシーを呼ぶとか警察に行くとか、いろいろ思いつくんだけど、莉子ちゃんは携帯が使えなかったし、知らない人に助けを求めることが出来なかったんだよ」と岩城が言う。
岩城が「血液検査でもこれといって悪いものがあるわけでもない。聴診も弱いが滞っているわけでもない。レントゲンもCTも問題ない。となると、血圧が低いこと、微熱があること、後は意識レベルの問題だよな?」
川瀬「もう脱水は解決が出来ているとしか思えないよね。この血液検査の結果だとさ。だから、目を覚まさせるのは、北原にしか出来ないんじゃないか?身体をいっぱいさすって何回も呼びかけてみたらどうだ?抱きしめてみたらいいと思うよ。耳に届けば意識が戻るような気がするよ」
「同感だ」と岩城が言った。分かったよ。二人とも本当にありがとう。今日の午後の診療が終わったらやってみるよ。ありがとうな。
病棟の担当医師にもお礼を言って失礼した。俺は急ぎ外来に戻った。
どうだ?なんかピンとくるものがあるかな? もっと検査で必要なものがあるだろうか?意見を聞きたいよと俺は言った。岩城が言った「倒れた日ってどんな状況だったんだ?」すると「俺も聞きたい」と川瀬が言った。
その日は午前が大学の絵画部で絵本作りと、午後はテニス部で練習をする予定だったんだ。
だから荷物は莉子が持つにしては重かったと思うんだよ。で昼頃、絵画部の友だちから連絡があって、まだ来ていないというんだよ。で、朝に画材屋さんで買い物をしてから行くとメールが来たんだけど、それっきりなんだ。
実際に画材屋さんに行ったら、監視カメラに一人で帰る姿が写っていたんだよ。で、そのコピーを持って、警察に行って駅の監視カメラを調べて貰ったら、そのまま駅には行っていないと言うんだよね。
だから、画材屋から駅に向かうまでに何かあったんだと思うけど、発見されたのはもう6時くらいで、駅から1キロくらい離れた入り組んだ住宅地の一軒家の住人から、仕事から帰ったら、うちの中に知らないお嬢さんがおばあさんと一緒にいたというんだよ。連絡しようにも莉子の携帯が充電切れだったんだって。で、大学に電話しても誰も出ないから、警察に連絡したっていうんだよ。
しかもその子はすごく具合が悪そうで、しゃべれないって言うんだよね。だから俺は莉子に間違いないって確信したんだ。で、パトカーで連れて行ってくれて、そこで莉子を見つけたんだ。
ただ、そのおばあさんが認知症で徘徊するから、きっと家まで送ってくれたんじゃないか?って住人の人が言うんだよ。だからおばあさんに何を聞いてもわからないんだよ。
その時は意識レベルがもう下がっていて、何か聞いてもしゃべれないんだよ。ただぐたっとしているだけだったから、すぐ帰宅して、点滴を始めて、バルーンも入れたんだ。
夜中もやっぱり意識レベルが落ちたままで受け答えは何もできなかったよ。その晩は3本点滴をしたんだけど、朝になっても何も回復していなかったんだ。
で、今日は俺が外来だったから、ここに連絡して受け入れてもらったんだ。俺もいろいろな検査をしたかったから、内科でお世話になったんだよ。最初は疲労と脱水だと簡単に考えていたんだが、3本目を終わって愕然としたよ。何も回復していなかったから、俺は青ざめたよ。
「ほーっ」と二人が同時に言った。岩城が「やっぱりおばあさんを見捨てておけなかったんだろうなあ。それで、その入り組んだ住宅地をぐるぐる、重い荷物を抱えながら、訳の分からないおばあさんを連れて回ったんだろうなあ。きっと誰かに助けを呼びたくても携帯が充電切れで、自分もどこにいるのか分からなくなってしまったんじゃないかなあ?」
すると、川瀬が「助けを呼べない絶望感か......?」
岩城が「うん、そうだろうな。莉子ちゃんはシャイだし、いつも北原の厚い庇護のもとに、大学と自宅の間の狭い範囲で生きているだろう?、だからわからないところに放り出されたショックと言うか、身体の生命力が危機を感じたというか、一体何時間その住宅地の中をぐるぐる回ったかわからないもんなあ」
「普通なら、歩いている人に聞くとか、どこかの家の呼び鈴を押して、助けてもらうとか、タクシーを呼ぶとか警察に行くとか、いろいろ思いつくんだけど、莉子ちゃんは携帯が使えなかったし、知らない人に助けを求めることが出来なかったんだよ」と岩城が言う。
岩城が「血液検査でもこれといって悪いものがあるわけでもない。聴診も弱いが滞っているわけでもない。レントゲンもCTも問題ない。となると、血圧が低いこと、微熱があること、後は意識レベルの問題だよな?」
川瀬「もう脱水は解決が出来ているとしか思えないよね。この血液検査の結果だとさ。だから、目を覚まさせるのは、北原にしか出来ないんじゃないか?身体をいっぱいさすって何回も呼びかけてみたらどうだ?抱きしめてみたらいいと思うよ。耳に届けば意識が戻るような気がするよ」
「同感だ」と岩城が言った。分かったよ。二人とも本当にありがとう。今日の午後の診療が終わったらやってみるよ。ありがとうな。
病棟の担当医師にもお礼を言って失礼した。俺は急ぎ外来に戻った。
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