786 / 996
789話 うさぎの耳
しおりを挟む
この前お願いしたアニメは、ほとんど出来上がってきていた。
ただ、追加として――5階の個室やリビングを、実際のモデルが使っている場面を撮影してほしいと頼んだ。
最初は、莉子と夏の2人だけでいいと思っていた。
……が、2人だけにするから夏が調子に乗るんだと思い直し、モデルを追加することにした。
「個室を使う撮影になるなら、誰がいい?」と聞いたら、夏があっさり答えた。
「岡本翔太くんがいいと思います」
――なるほど。先日までものすごくお世話になったし、実直で真面目な彼なら安心だ。
それなら、もう一人くらい女性がいた方が賑やかでいいんじゃないか?
……そう思って女性の候補を探すと、これが意外と思い浮かばない。
――看護部長にしようか? 無難でいいだろう。
リビングでゲームをして遊ぶシーンも入れるつもりだ。
この健康診断宿泊プランには、莉子が作ったオリジナルゲームが“特典”として無料で使えるのがポイントでもある。
さらに、宿泊者同士でも楽しめるようにと、夏がいくつかゲームを買ってきてくれた。
そして、待望の撮影日――水曜日がやってきた。
撮影は午前中で終わらせる予定だ。
看護部長、岡本君、莉子。メンバーはそろった。
まずはそれぞれの部屋で検査着に着替えて、同色のガウンを羽織ってから、リビングに出てくる。
キッチンでお茶を淹れたり、ソファで談笑したり、ゲームをしたり――自然な雰囲気の中で、4人でお弁当を食べる
シーンの撮影を進める。
それが終わったら、シャワーを浴びたあとのシーンへと移る予定だ。
これは、全員が白いタオル地で出来たバスローブ姿になるシーンだった。
……で、だ。
ここで――またしても、莉子が度肝を抜いてきた。
シャワーを浴びたあとのシーンはいい。自然な流れだ。問題ない。
……なのに。
頭に、白くて大きなうさぎの耳がついているではないか。
あっと、全員が絶句した。
……あ、あまりにも、かわいすぎる……!!
目が点になった。
「莉子、ウサギの耳がついてるけど、それ、何?」
「うん? これは浴用のヘアバンドだよ。お風呂上がりに髪が落ちてこないように留めてるんだよ」
いや、まあ――ダメとも言えず。
髪を洗ったわけでもないくせに……くそーっ!
どうしたらいいんだ、これは……。
すると、看護部長がにこやかに言った。
「いいじゃないですか。自由に過ごす場面なんですし。それに、かわいいですよね!」
そう言ってくれたので、そのまま撮影を続行したんだけど……
俺の中では、まだ何かがモヤモヤしていた。
なんだかムカつく。
次は、ベッドタイムシーン。
岡本くんも看護部長も、それぞれの個室に入って、本を読んだりテレビを見たりする演出を撮影。
そして問題の――スイートルームの夏と莉子のシーン。
もう正直、見ているのがつらかった。
莉子は献上品じゃないんだからさ……!
早く撮影を終わらせろよ……と、内心イライラしていた。
翌日は内視鏡を受けるという設定。
だから、説明用のテロップがいくつか出てくる。
……夏、お前は本当に下剤でも飲め、と言いたくなる。
その後は、岡本くんが検査着のまま、レントゲンや内視鏡検査の撮影をこなす。
看護部長には、CTとMRIの検査の場面に付き合ってもらった。
莉子は血液検査、体重測定、血圧測定といった基礎的な検査の撮影担当。
最後は、撮影スタッフやアニメスタッフも交えて、休憩室でお弁当タイム。
――いや、ほんと。みんな、頑張ってくれた。
岡本くんと看護部長には、きちんと御礼を伝えて帰ってもらった。
もちろん、休日出勤の手当ては出ますよ。
とにかく……無事に終わった。
はあ……疲れた。小悪魔莉子め。
ただ、追加として――5階の個室やリビングを、実際のモデルが使っている場面を撮影してほしいと頼んだ。
最初は、莉子と夏の2人だけでいいと思っていた。
……が、2人だけにするから夏が調子に乗るんだと思い直し、モデルを追加することにした。
「個室を使う撮影になるなら、誰がいい?」と聞いたら、夏があっさり答えた。
「岡本翔太くんがいいと思います」
――なるほど。先日までものすごくお世話になったし、実直で真面目な彼なら安心だ。
それなら、もう一人くらい女性がいた方が賑やかでいいんじゃないか?
……そう思って女性の候補を探すと、これが意外と思い浮かばない。
――看護部長にしようか? 無難でいいだろう。
リビングでゲームをして遊ぶシーンも入れるつもりだ。
この健康診断宿泊プランには、莉子が作ったオリジナルゲームが“特典”として無料で使えるのがポイントでもある。
さらに、宿泊者同士でも楽しめるようにと、夏がいくつかゲームを買ってきてくれた。
そして、待望の撮影日――水曜日がやってきた。
撮影は午前中で終わらせる予定だ。
看護部長、岡本君、莉子。メンバーはそろった。
まずはそれぞれの部屋で検査着に着替えて、同色のガウンを羽織ってから、リビングに出てくる。
キッチンでお茶を淹れたり、ソファで談笑したり、ゲームをしたり――自然な雰囲気の中で、4人でお弁当を食べる
シーンの撮影を進める。
それが終わったら、シャワーを浴びたあとのシーンへと移る予定だ。
これは、全員が白いタオル地で出来たバスローブ姿になるシーンだった。
……で、だ。
ここで――またしても、莉子が度肝を抜いてきた。
シャワーを浴びたあとのシーンはいい。自然な流れだ。問題ない。
……なのに。
頭に、白くて大きなうさぎの耳がついているではないか。
あっと、全員が絶句した。
……あ、あまりにも、かわいすぎる……!!
目が点になった。
「莉子、ウサギの耳がついてるけど、それ、何?」
「うん? これは浴用のヘアバンドだよ。お風呂上がりに髪が落ちてこないように留めてるんだよ」
いや、まあ――ダメとも言えず。
髪を洗ったわけでもないくせに……くそーっ!
どうしたらいいんだ、これは……。
すると、看護部長がにこやかに言った。
「いいじゃないですか。自由に過ごす場面なんですし。それに、かわいいですよね!」
そう言ってくれたので、そのまま撮影を続行したんだけど……
俺の中では、まだ何かがモヤモヤしていた。
なんだかムカつく。
次は、ベッドタイムシーン。
岡本くんも看護部長も、それぞれの個室に入って、本を読んだりテレビを見たりする演出を撮影。
そして問題の――スイートルームの夏と莉子のシーン。
もう正直、見ているのがつらかった。
莉子は献上品じゃないんだからさ……!
早く撮影を終わらせろよ……と、内心イライラしていた。
翌日は内視鏡を受けるという設定。
だから、説明用のテロップがいくつか出てくる。
……夏、お前は本当に下剤でも飲め、と言いたくなる。
その後は、岡本くんが検査着のまま、レントゲンや内視鏡検査の撮影をこなす。
看護部長には、CTとMRIの検査の場面に付き合ってもらった。
莉子は血液検査、体重測定、血圧測定といった基礎的な検査の撮影担当。
最後は、撮影スタッフやアニメスタッフも交えて、休憩室でお弁当タイム。
――いや、ほんと。みんな、頑張ってくれた。
岡本くんと看護部長には、きちんと御礼を伝えて帰ってもらった。
もちろん、休日出勤の手当ては出ますよ。
とにかく……無事に終わった。
はあ……疲れた。小悪魔莉子め。
5
あなたにおすすめの小説
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
幼馴染みのメッセージに打ち間違い返信したらとんでもないことに
家紋武範
恋愛
となりに住む、幼馴染みの夕夏のことが好きだが、その思いを伝えられずにいた。
ある日、夕夏のメッセージに返信しようとしたら、間違ってとんでもない言葉を送ってしまったのだった。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる