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続章【逢魔】七日目③
イサミの日記帳②(下巻)
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■7月20日 くもり■
1学期が終わった。
お父様の話では、2学期からまた別の学校に通うことになるらしい。
今の学校にはなじめなかったからまあ良いか・・・。
前の学校に戻りたい・・・ユウキやツカサはどうしているだろう。
母さんが死んでしまってからはしばらく日記は書く気が起きなかったけど……今日からまた書こうと思う。
長崎のおじさんから手紙が来た。
母さんの写真が入ってて・・・涙が出た。
■同月同日 くもり■
今日は新しいお手伝いさんがやって来た。
田中さんはきびしい人で苦手だったけど、雪子さんはおっとりとしててやさしそうな人た。
雪子さんはどことなく母さんに似ていた。
相談に乗ってくれると良いけど・・・今度は慎重にやらなくちゃ。
こっそり食べたい物をリクエストした。
ご飯はとてもおいしかったけど・・・。
お父様の口には合わなかったのか、怒られていた。
悪いことをしちゃったのかもしれない。
■7月21日 雨■
午前中はずっと部屋の中で本を読んでいた。
お婆ちゃんがくれた文学全集は、ついつい夢中になって読んでしまう。
午後から車で病院に連れて行かされた。
色々検査を受けて、質問をされる。
ひと言も口をきかなかった。
お薬を渡されたけど、食事後、飲むフリをして捨てた。
ぼくはどこも悪くない。何でお薬を飲まなきゃいけないんだ・・・。
きっとあの事が原因だろう。
あんな事……お父様に話すべきじゃなかった。
■同月同日 雨■
明日からお父様は仕事でしばらく戻らないらしい。
家で大人しくしている様に言われた。
来月分の中学受験の通信教材を渡される。
代わりに習い事がなくなったのはうれしい。
どうもぼくは一人で机に向かっている方が向いているようだ。
ただ、家であいつと二人っきりってのはぞっとする。
でも、この事はお父様には相談できなかった。
どうしよう、怖い・・・怖い。
■7月22日 晴れ■
今日はとてもすごい事が起こった。
あれは本当に見間違いじゃなかったんだろうか?
午前中はずっと教材をやっていた。
3日分の課題を済ませた後は、お気に入りの本を読んでいた。
勉強は好きだけど、やっぱり本を読む方が楽しい。
目がつかれたからぼーっと窓の外を見ていた時だった。
遠くの山で・・・人が飛んでいるのを見つけた!
猿かな、と思ったずっと見てたけど・・・2回目は服を着ていたのを確認した。間違いない!!
■同月同日 晴れ■
明日、たしかめに行こうと思う。
天狗? 宇宙人? 天使・・・には見えなかったかな?
・・・どきどきして眠れない。
ただ、勝手に外に出ると怒られる。
雪子さんは、ぼくを外に出さないように言いつけられている。
・・・でも、理由は知らされてないみたいだ。
ばれない様にうまくウソをつかなきゃ・・・。
お昼ご飯は早めにお願いしようかな。
■7月23日 晴れ■
午前中、しっかり勉強した。
部屋に勝手に入らないようにって言ったら、本当に入ってこない。
あまりにも簡単でひょうし抜けだ。
お昼ご飯を食べた後、部屋を抜け出そうとした。
屋根をつたって塀まで行けば、出るのはそんなにむずかしくなさそうだ。
ただ、見つかったら怒られるだろうな……。
その前に、双眼鏡で山の方向を必死に探した。
でも、別の発見をした。
茂みの中に小さな穴が空いた奇妙な場所だ。
・・・あれは何だろう?
■同月同日 晴れ■
・・・結局見つからなくて、部屋を出ないまま日がくれてしまった。
雪子さんは、あいつが帰ってきて、夕ご飯になるまで本当に部屋に入ってこなかった。
こんな事なら本当にぬけ出せたのかも知れない。
ただ・・・服が汚れてしまったら、ごまかすのが大変だ。
ご飯を食べたあと、母さんの部屋で昔に着ていた服を探した。
この部屋は嫌いだから、あまり入りたくなかった。
スニーカーもシャツもズボンも、全部残っていた。
母さんはこの服を嫌っていたけど、捨てずに取っておいてくれてた事がうれしかった。
この服なら汚れても平気だ。
■7月24日 くもり■
今日はついに部屋をこっそり抜け出して、外に出た。
天狗を探し回ったけど見つからない。
それに、すぐバテてしまった……。
茂みの中に穴があった高台の方に向かってみた。
一番大きな木だったから、意外とすぐ見つかった。
神社とかで見るみたいに大きな縄がしばってある。
ほどけた縄は穴の方まで下がっていた。
怖くて何度も引き返しそうになったけど……思い切っておりてみた。
■同月同日 くもり■
奥のほうは小さな部屋みたいになっていた。
何もない・・・。
でも、何もないのが安心した。
またもやすごい発見をしてしまった。
ここはボクのひみつの隠れ家にしようと思う。
ここにいる限り、ぼくは自由だ。
さっそくダンボールとかをスーパーからもらってきて運んだ。
他に何が必要か、考えただけでわくわくする。
■7月25日 晴れ■
今日は、不思議な男の子に会った。
その子はいきなり空から降ってきた。
はじめは怖くて・・・天狗とか、妖怪の子なんじゃないかって思った。
その子は空を飛んでみせてくれた。
体がふるえて止まらなかった。
空を飛ぶってどんな気持ちだろう。
どうやったらあんな風に飛べるんだろう。
話すとわくわくした。
何となく犬っぽくて、トシゾーに似てた。
友達になれたら良いな。
■同月同日 晴れ■
その子のことは、トシゾーって呼ぶことにした。
トシゾーからは、不思議な何かが伝わってくる。
ぼくが見たのは、トシゾーかもしれないけど・・・やっぱり天狗は別にいるんじゃないかって思う。
天狗の事を知っていると言う感じだった。
ピーターパンが好きだった。
あんな風に空が飛べたら素敵だろうなと、何度も夢見た事がある。
もし天狗がいたら、ピーターパンみたいに僕を連れて行ってくれるんだろうか。
■7月26日 雨■
雪子さんに図書館に行きたいとお願いしたら連れて行ってくれた。
ないしょですよって言われたけど、話すわけがないのに・・・。
図書館で天狗を調べると面白い事が書いてあった。
この土地は昔から天狗の伝説で有名らしい。
半年くらい住んでるのに、ちっとも気付かなかった。
神隠し……天狗の里……何だかネバーランドに比べると怖そうなところだ。
■同月同日 雨■
ずっと夢中になって本を読んでいた。
帰ってていいって言ったのに、雪子さんはずっと待ってた。
ボクが勝手にいなくならないか心配で仕方がなかったみたいだ。
あいつから、注意するように言われているらしい。
おかしいのはあいつの方だ!
・・・って言っても、同じ事のくりかえしになってしまう。
雪子さんの前では、良い子にしていようと思う。
きっといつかわかってもらえるはずだ。
■7月27日 晴れ■
またトシゾーに会えた。
木に水をかけながら話をしていた。
トシゾーはやっぱり変わってる。
トシゾーといると不思議だ。
そばに居ると、木の声や犬の声・・・色んな声が聞こえてくる。
そして・・・もっと大きなものの声が聞こえた。
すごく迫力のある声で・・・山の神様なんじゃないかって思った。
山の神様は、ぼくの事をあまり良く思ってないみたいだ。
怖くて・・・身動きが取れなかった。
■同月同日 晴れ■
もしかすると・・・あの声は天狗だったのかもしれない。
でも・・・。
・・・やっぱり天狗はいたんだ。
だとするとトシゾーは天狗の弟子なのかもしれない。
すごくとんでもない事のはずなのに、すんなり受け入れる事ができる。
ぼくも天狗に会ってみたい。
トシゾーともっと近付けば、ぼくも天狗に近づけるかもしれない。
その後、トシゾーに木登りを教えてもらった。
思ったよりむずかしい・・・道のりは長そうだ。
■7月28日 雨■
テレビで言ってた通り、今日は雨だった。
コダマって言ってたっけ? ……元気になると良いな。
遊びすぎて、勉強が遅れてしまった。
今日は大人しく、家でずっと勉強をしていた。
でもその間、ついつい秘密基地に持っていく物のリストを作ってしまった。
後は……うまく脱け出すための方法を考えてた。
■同月同日 雨■
夕ご飯の時、あいつからいやな感じがした。
何食わぬ顔をしているけど・・・人を傷付けてきていた。
しかも奇妙な事をずっと考えていた。
ボクに悪魔が取りついているんじゃないかと・・・。
悪魔はお前の方だ!
くやしい・・・くやしい・・・人殺しめ!
何でぼくはここにいるんだろう。
どこか遠くに行きたい。
早く大人になりたかった。
■7月29日 雨■
今日も大人しく勉強していた。
雨の日は外に出ても、トシゾーには会えない気がした。
今日は勉強がはかどって、5日分をすませた。
母さんに勉強しろって言われた時はまったくしなかったのに・・・今のボクを母さんが見ていたら、ほめてくれるかな。
勉強の後は、秘密基地の設計図が出来た。
家の中から持って行く物を集める。
足りない分は自分で買おう。
貯金やお年玉はそのまま残っている。
お婆ちゃんは会うたびにおこづかいをくれたっけ。
■同月同日 雨■
雪子さんに買い物に連れて行ってもらった。
大人しくしているとわがままも聞いてくれるみたいだ。
雪子さんの「ないしょですよ」が大好きだ。
お父様の言いつけでは、きっとダメなのだろう。
帰りの車の中で、雪子さんはボクの事をかわいそうだと思ってくれてるのを感じた。
眠っているぼくの頭をそっとなでてくれた。
・・・いつか相談にのってもらえるといいけど。
■7月30日 晴れ■
今日は夏祭りで、町全体がにぎやかだった。
雪子さんの話だと、あいつは合宿で今晩帰って来ないそうだ。
夕ご飯を早めに少なめにしてもらった。
雪子さんが帰ったあと、家に誰もいなくなって自由になった。
夕方まで秘密基地に、色々なものを運んだ。
家を出て、思い切って花火大会に行く。
さらにトシゾーと出会って、いっしょにお店を回った。
楽しかったなあ・・・。
今にして思えば、そこまでツキすぎてたんだと思う。
ケンカしてしまって・・・体のあちこちが痛い。
でもその代わりに、新しい知り合いがふえた。
■同月同日 晴れ■
名前はききそびれちゃったけど、かわいい子だった。
その子とトシゾーと3人で神社の中に入った。
・・・あれはいったい何だったんだろう?
お化け? ・・・怖かった。
でも、お化けならトシゾーが何とかしてくれそうだ。
何てったって天狗の弟子だもの。
トシゾーはやっぱり強かった。
前から感じていた犬の感じの正体が、少しわかった気がする。
強い犬みたいなお守りが・・・トシゾーの中にはあった。
守護霊って言うんだろうか?
どうやらトシゾーは、犬のことをわかってるみたいだ。
今度聞いてみようかな・・・。
■同月同日 晴れ■
今日は書く事が多すぎて、3ページ目だ・・・。
前に母さんと来て、いつかもう一度来たいと思っていた星ヶ丘に、トシゾーと行った。
綺麗な星空をたくさん見た。
余りにも楽しくて・・・ついついトシゾーに、悩みごとを話してしまった。
このまま帰りたくなかった。
ずっとここにいたかった。
トシゾーは困った顔をしてたけど、はげましてくれた。
何故だか、その時のトシゾーは……あの人に似てると思った。
花火もすごくきれいで・・・今夜は忘れられない一日になった。
■7月31日 雨■
良いことがあると、悪いことはやってくる。
今日はまた病院に連れて行かされた。
たくさん検査を受けて、たくさん質問をされた。
お医者さんがどうせボクの言う事を信じてくれないのはわかってる。
質問にはウソばかり答えた。
そのウソはバレなかったけど、薬をのんでないことがバレてしまった。
お医者さんはむずかしい顔をして、来月にでもと入院をすすめられた。
お父様にも電話をしておくそうだ。
■同月同日 雨■
みんながボクの事をウソつきだって言う。
お母さんの言う通りだった。
聞こえない声が聞こえるというのは、だれにも話しちゃいけなかったんだ。
母さん、ごめん・・・ボク、母さんのかたきをうてる自信がない・・・。
だって・・・だれもボクの言うことを信じてくれないんだ。
母さんを殺したのは・・・あいつだってわかってるのに
・・・だれも信じてくれない。
■8月1日 晴れ■
今日はトシゾーと会う約束をしていた。
荷物を持って、秘密基地に行った。
重くて大変だったけど、せめて基地らしくしなきゃカッコつかない。
2時間くらいかけて、やっとそれらしく見えた。
でも、待ち合わせは15時だったのに・・・あいつはちっとも現れなかった。
何度も帰ろうかと思った。
でも・・・ここで帰るともう会えない気がした。
結局、あいつが来たのは夕方だった。
ケガをしていて・・・ボロボロだった。
何だかつらそうだったので、ゆるしてあげた。
■同月同日 晴れ■
ついにトシゾーを秘密基地に招待した。
思ったよりも、トシゾーは面白がってくれた。
この場所は一人でいるより、二人でいるほうがずっと楽しかった。
トシゾーと将棋をやった。
はじめてやるクセに勝つ気まんまんだ。
勝てる見込みがなくても、挑んでくる。
その様子がおかしくて楽しくて、遊びすぎてしまった。
家に戻った時、さすがにバレたんじゃないかって、覚悟したけど……大丈夫だった。
寝ていると思っててくれたみたいだ。
少しうまく行き過ぎだと思うけど……まあ良いか。
■8月2日 くもり■
朝は、雪子さんに勉強を教えてもらった。
それからゲームもやった。
夕ご飯を食べる前に、少し不思議なことが起きた。
雪子さんから“お帰りなさい”って聞こえた気がした。
もしかして……ボクが時々家を脱け出しているのを知っているんじゃないかって思った。
神社を通りがかると、夏祭りの時のあの子に会った。
話しかけたら、ボクを見ておどろいていた。
ここには毎日来ているらしい。
真剣にお参りをしていた。
体が強くなるように願っているようだ。
ぼくも、誰もいない遠い世界に行けるように願った。
■同月同日 くもり■
トシゾーに木登りを教えてもらおうとしたけど、将棋の方が面白いみたいだ。
ちっともうまくならないぼくを、下手くそと笑ってた。
むかついたから将棋でコテンパンにしてやった。
それでもムキになって何度も挑んでくる。
何回かやってる内に……だんだん詰むのがむずかしくなってきた。
思ったよりトシゾーは物覚えが良くて、守りがうまい。
攻める事を覚えたら、なかなか手強い相手かもしれない。
■8月3日 晴れ■
トシゾーが良い物をくれるって言うから、わくわくした。
そしたら・・・えっちな本だった。
一体どこから拾ってきたんだろう!?
トシゾーってば最低だ!
何だかずっと一緒にいると・・・ちょっと変わってるだけで、普通の男の子なんだなって思った。
もっとすごいやつかと思ってたけど・・・安心したようながっかりしたような。
■同月同日 晴れ■
あんな本を読んだせいか、何だかもやもやする。
眠れなくて、本を読むのも集中できない。
よくわからない変な気分だった。
全部トシゾーのせいだ。
明日は手加減なしでボコボコにしてやろう。
■8月4日 くもり■
今日は、雪子さんがお父様の部屋の片づけをしているのを手伝った。
・・・その時、あるものを見つけた。
きれいな女の人と女の子の写真だ。
女の人は知っている。
お父様の前の奥さんだった人だ。
でも・・・女の子の方は知らない。
今のぼくと同じくらいの子だ。
その目が、こっちを見ているみたいで怖かった。
そのカベの傷には見覚えがあった。
その部屋は・・・ぼくが使っている部屋だった。
■8月5日 雨■
昨日の夜は、怖くて・・・無理を言って雪子さんに泊まってもらった。
お仕事とは関係ないし、迷惑だったと思う。
五年生にもなって一人で眠れないなんて、おかしかったに違いない。
でも、雪子さんにも子供がいて、その女の子は中学生になっても、一緒に眠っていたようだ。
思いきって雪子さんに話をしてみた。
母さんが死んだ時の事を・・・。
落ち着いて、ゆっくり話した。
・・・きっとわかってくれると思った。
母さんが・・・殺されたという事を。
■同月同日 雨■
母さんは事故死ということになっていた。
雪子さんは、何も言わず、抱きしめてくれた。
・・・ぼくの話を信じてくれた。
うれしくてつい泣いてしまった。
・・・雪子さんはボクが勝手に脱け出している事を知っていた。
トシゾーと遊んでいるのも、全部みられていた。
楽しそうにしていたから連れ戻せなかった・・・と言っていた。
家庭の深いところに立ち入るわけにはいかない。でも、真実に近づけるように協力してくれると雪子さんは言ってくれた。
■同月同日 雨■
母さんの部屋をくまなく調べた。
そのとき化粧台の奥から、かなり古そうな黒い手鏡を見つけた。
部屋の鏡は全部なくなっていた。
あの夜に、全部割れてしまっていたのだ。
それなのに・・・なぜかこれだけは無事だった。
あの日、母さんは胸に鏡のカケラを刺され・・・死んでいた。
これが・・・母さんが死んだ原因かもしれない。
そう思うと、憎くて憎くて割りたくなった。
■同月同日 雨■
その時、あいつが部屋に入ってきて・・・ぼくを止めた。
その手鏡は、あいつにとってとても大事なものらしい。
うばい取られて、激しくにらまれた。
たまに見せるとても冷たい目・・・。
その目を見ると・・・息苦しくなって、体が動けなくなった。
雪子さんが止めに入らなかったら、ぼくはどうなっていたかわからない。
ボクもあいつをにらみつけ、強い思いで返した。
その時・・・気付いてしまった。
あいつは・・・ボクを殺したいと思っていた。
もう、いやだ。この場所にはいたくない。
だれか助けて・・・神様・・・悪魔でもいい。
■8月6日 晴れ■
今日は秘密基地に新しいメンバーが加わった。
と言っても、ぼくは前から何度も会っている。
ソウシと言う名前になった。
ソウシは辛い事や悲しい事があると、息が苦しくなるらしい。
トシゾーとケンカしてたら倒れこんでしまった・・・注意しなきゃ。
トシゾーは前に感じた強いお守りの話をしたら怒った。
あまり話さない方が良いらしい。
ソウシもトシゾーも、色々不安をかかえている。
ぼくだけが苦しいなんて言えない。
■同月同日 晴れ■
トシゾーのひと言がきっかけで、旅行に行く事になった。
おじさん夫婦の家に電話をしたら喜んで、いらっしゃいと言ってくれた。
電話や手紙じゃ伝わらない事も・・・ちゃんと会って話をすればわかってもらえるかもしれない。
小さい頃から電車が好きだった。
だから明後日が本当に楽しみだ。
トシゾーと一緒なら、きっと楽しい。
雪子さんに迷惑をかけてしまうのが不安だ。
後でぼくが怒られるだけで済めば良いけど・・・。
ただ、その前に色々と準備しなくてはいけない。
おじさんにボクの話を信じさせるための・・・証になるものが必要だ。
◆
8月7日以降は、既に読んでいる内容だった。
旅行の計画、トシゾー……自分との喧嘩の内容が書かれている。
────後は白紙だ。
日記帳を閉じ、大きく息を吐き壁に頭をつけた。
「殺される……!? こんな事がイサミに起こっていたって言うのか?」
木葉がイサミだとすれば────その後も、イサミは健在だ。
鏡介さんが渡してくれた資料によると、木葉は神社で行方不明となった。
その後、異界に旅立ち……帰って来た。
────強力な妖の力を手に入れて。
異界で何があったのかわからない。
今はその事を知りたくてもどうする事も出来ない。
だが……どうも釈然としなかった。
この日────8月8日に会った連中はイサミ……木葉勇を探していた。
だが、イサミはその事について記述していない。
“あいつ”が探し回っている……としか。
“あいつ”とは連中のリーダー格の事だろうか?
────違和感を感じた。
もし、イサミが木葉じゃなかったら。
別人だとしたら……イサミは生きているのか?
血痕の残った秘密基地を思い出し、不安になった。
時計を見ると、深夜を回っていた。
“覚”は再び、力なくその瞳を閉じていく。
「“覚”……大丈夫か?」
日記から情景のような思念が色濃く伝わった。
“覚”の力によるものなのかもしれない。
“覚”気生めながら、明日の為に眠る事にした。
明日は学校に行き、木葉について聞かなければいけない。
今夜も、獏が過去の夢を見せてくれるんだろうか。
……まだ、肝心な記憶が残っている。
その事を思い出そうとする。
しかし記憶にノイズが走ったような感じになった。
「あの後……何が起こったんだ」
◇
────覚えているのは、駅の待合所。
────覚えているのは、そこで待っていたという事。
────覚えているのは、誰も来なかった事。
────覚えているのは……
《七日目③終了 八日目①へ続く》
1学期が終わった。
お父様の話では、2学期からまた別の学校に通うことになるらしい。
今の学校にはなじめなかったからまあ良いか・・・。
前の学校に戻りたい・・・ユウキやツカサはどうしているだろう。
母さんが死んでしまってからはしばらく日記は書く気が起きなかったけど……今日からまた書こうと思う。
長崎のおじさんから手紙が来た。
母さんの写真が入ってて・・・涙が出た。
■同月同日 くもり■
今日は新しいお手伝いさんがやって来た。
田中さんはきびしい人で苦手だったけど、雪子さんはおっとりとしててやさしそうな人た。
雪子さんはどことなく母さんに似ていた。
相談に乗ってくれると良いけど・・・今度は慎重にやらなくちゃ。
こっそり食べたい物をリクエストした。
ご飯はとてもおいしかったけど・・・。
お父様の口には合わなかったのか、怒られていた。
悪いことをしちゃったのかもしれない。
■7月21日 雨■
午前中はずっと部屋の中で本を読んでいた。
お婆ちゃんがくれた文学全集は、ついつい夢中になって読んでしまう。
午後から車で病院に連れて行かされた。
色々検査を受けて、質問をされる。
ひと言も口をきかなかった。
お薬を渡されたけど、食事後、飲むフリをして捨てた。
ぼくはどこも悪くない。何でお薬を飲まなきゃいけないんだ・・・。
きっとあの事が原因だろう。
あんな事……お父様に話すべきじゃなかった。
■同月同日 雨■
明日からお父様は仕事でしばらく戻らないらしい。
家で大人しくしている様に言われた。
来月分の中学受験の通信教材を渡される。
代わりに習い事がなくなったのはうれしい。
どうもぼくは一人で机に向かっている方が向いているようだ。
ただ、家であいつと二人っきりってのはぞっとする。
でも、この事はお父様には相談できなかった。
どうしよう、怖い・・・怖い。
■7月22日 晴れ■
今日はとてもすごい事が起こった。
あれは本当に見間違いじゃなかったんだろうか?
午前中はずっと教材をやっていた。
3日分の課題を済ませた後は、お気に入りの本を読んでいた。
勉強は好きだけど、やっぱり本を読む方が楽しい。
目がつかれたからぼーっと窓の外を見ていた時だった。
遠くの山で・・・人が飛んでいるのを見つけた!
猿かな、と思ったずっと見てたけど・・・2回目は服を着ていたのを確認した。間違いない!!
■同月同日 晴れ■
明日、たしかめに行こうと思う。
天狗? 宇宙人? 天使・・・には見えなかったかな?
・・・どきどきして眠れない。
ただ、勝手に外に出ると怒られる。
雪子さんは、ぼくを外に出さないように言いつけられている。
・・・でも、理由は知らされてないみたいだ。
ばれない様にうまくウソをつかなきゃ・・・。
お昼ご飯は早めにお願いしようかな。
■7月23日 晴れ■
午前中、しっかり勉強した。
部屋に勝手に入らないようにって言ったら、本当に入ってこない。
あまりにも簡単でひょうし抜けだ。
お昼ご飯を食べた後、部屋を抜け出そうとした。
屋根をつたって塀まで行けば、出るのはそんなにむずかしくなさそうだ。
ただ、見つかったら怒られるだろうな……。
その前に、双眼鏡で山の方向を必死に探した。
でも、別の発見をした。
茂みの中に小さな穴が空いた奇妙な場所だ。
・・・あれは何だろう?
■同月同日 晴れ■
・・・結局見つからなくて、部屋を出ないまま日がくれてしまった。
雪子さんは、あいつが帰ってきて、夕ご飯になるまで本当に部屋に入ってこなかった。
こんな事なら本当にぬけ出せたのかも知れない。
ただ・・・服が汚れてしまったら、ごまかすのが大変だ。
ご飯を食べたあと、母さんの部屋で昔に着ていた服を探した。
この部屋は嫌いだから、あまり入りたくなかった。
スニーカーもシャツもズボンも、全部残っていた。
母さんはこの服を嫌っていたけど、捨てずに取っておいてくれてた事がうれしかった。
この服なら汚れても平気だ。
■7月24日 くもり■
今日はついに部屋をこっそり抜け出して、外に出た。
天狗を探し回ったけど見つからない。
それに、すぐバテてしまった……。
茂みの中に穴があった高台の方に向かってみた。
一番大きな木だったから、意外とすぐ見つかった。
神社とかで見るみたいに大きな縄がしばってある。
ほどけた縄は穴の方まで下がっていた。
怖くて何度も引き返しそうになったけど……思い切っておりてみた。
■同月同日 くもり■
奥のほうは小さな部屋みたいになっていた。
何もない・・・。
でも、何もないのが安心した。
またもやすごい発見をしてしまった。
ここはボクのひみつの隠れ家にしようと思う。
ここにいる限り、ぼくは自由だ。
さっそくダンボールとかをスーパーからもらってきて運んだ。
他に何が必要か、考えただけでわくわくする。
■7月25日 晴れ■
今日は、不思議な男の子に会った。
その子はいきなり空から降ってきた。
はじめは怖くて・・・天狗とか、妖怪の子なんじゃないかって思った。
その子は空を飛んでみせてくれた。
体がふるえて止まらなかった。
空を飛ぶってどんな気持ちだろう。
どうやったらあんな風に飛べるんだろう。
話すとわくわくした。
何となく犬っぽくて、トシゾーに似てた。
友達になれたら良いな。
■同月同日 晴れ■
その子のことは、トシゾーって呼ぶことにした。
トシゾーからは、不思議な何かが伝わってくる。
ぼくが見たのは、トシゾーかもしれないけど・・・やっぱり天狗は別にいるんじゃないかって思う。
天狗の事を知っていると言う感じだった。
ピーターパンが好きだった。
あんな風に空が飛べたら素敵だろうなと、何度も夢見た事がある。
もし天狗がいたら、ピーターパンみたいに僕を連れて行ってくれるんだろうか。
■7月26日 雨■
雪子さんに図書館に行きたいとお願いしたら連れて行ってくれた。
ないしょですよって言われたけど、話すわけがないのに・・・。
図書館で天狗を調べると面白い事が書いてあった。
この土地は昔から天狗の伝説で有名らしい。
半年くらい住んでるのに、ちっとも気付かなかった。
神隠し……天狗の里……何だかネバーランドに比べると怖そうなところだ。
■同月同日 雨■
ずっと夢中になって本を読んでいた。
帰ってていいって言ったのに、雪子さんはずっと待ってた。
ボクが勝手にいなくならないか心配で仕方がなかったみたいだ。
あいつから、注意するように言われているらしい。
おかしいのはあいつの方だ!
・・・って言っても、同じ事のくりかえしになってしまう。
雪子さんの前では、良い子にしていようと思う。
きっといつかわかってもらえるはずだ。
■7月27日 晴れ■
またトシゾーに会えた。
木に水をかけながら話をしていた。
トシゾーはやっぱり変わってる。
トシゾーといると不思議だ。
そばに居ると、木の声や犬の声・・・色んな声が聞こえてくる。
そして・・・もっと大きなものの声が聞こえた。
すごく迫力のある声で・・・山の神様なんじゃないかって思った。
山の神様は、ぼくの事をあまり良く思ってないみたいだ。
怖くて・・・身動きが取れなかった。
■同月同日 晴れ■
もしかすると・・・あの声は天狗だったのかもしれない。
でも・・・。
・・・やっぱり天狗はいたんだ。
だとするとトシゾーは天狗の弟子なのかもしれない。
すごくとんでもない事のはずなのに、すんなり受け入れる事ができる。
ぼくも天狗に会ってみたい。
トシゾーともっと近付けば、ぼくも天狗に近づけるかもしれない。
その後、トシゾーに木登りを教えてもらった。
思ったよりむずかしい・・・道のりは長そうだ。
■7月28日 雨■
テレビで言ってた通り、今日は雨だった。
コダマって言ってたっけ? ……元気になると良いな。
遊びすぎて、勉強が遅れてしまった。
今日は大人しく、家でずっと勉強をしていた。
でもその間、ついつい秘密基地に持っていく物のリストを作ってしまった。
後は……うまく脱け出すための方法を考えてた。
■同月同日 雨■
夕ご飯の時、あいつからいやな感じがした。
何食わぬ顔をしているけど・・・人を傷付けてきていた。
しかも奇妙な事をずっと考えていた。
ボクに悪魔が取りついているんじゃないかと・・・。
悪魔はお前の方だ!
くやしい・・・くやしい・・・人殺しめ!
何でぼくはここにいるんだろう。
どこか遠くに行きたい。
早く大人になりたかった。
■7月29日 雨■
今日も大人しく勉強していた。
雨の日は外に出ても、トシゾーには会えない気がした。
今日は勉強がはかどって、5日分をすませた。
母さんに勉強しろって言われた時はまったくしなかったのに・・・今のボクを母さんが見ていたら、ほめてくれるかな。
勉強の後は、秘密基地の設計図が出来た。
家の中から持って行く物を集める。
足りない分は自分で買おう。
貯金やお年玉はそのまま残っている。
お婆ちゃんは会うたびにおこづかいをくれたっけ。
■同月同日 雨■
雪子さんに買い物に連れて行ってもらった。
大人しくしているとわがままも聞いてくれるみたいだ。
雪子さんの「ないしょですよ」が大好きだ。
お父様の言いつけでは、きっとダメなのだろう。
帰りの車の中で、雪子さんはボクの事をかわいそうだと思ってくれてるのを感じた。
眠っているぼくの頭をそっとなでてくれた。
・・・いつか相談にのってもらえるといいけど。
■7月30日 晴れ■
今日は夏祭りで、町全体がにぎやかだった。
雪子さんの話だと、あいつは合宿で今晩帰って来ないそうだ。
夕ご飯を早めに少なめにしてもらった。
雪子さんが帰ったあと、家に誰もいなくなって自由になった。
夕方まで秘密基地に、色々なものを運んだ。
家を出て、思い切って花火大会に行く。
さらにトシゾーと出会って、いっしょにお店を回った。
楽しかったなあ・・・。
今にして思えば、そこまでツキすぎてたんだと思う。
ケンカしてしまって・・・体のあちこちが痛い。
でもその代わりに、新しい知り合いがふえた。
■同月同日 晴れ■
名前はききそびれちゃったけど、かわいい子だった。
その子とトシゾーと3人で神社の中に入った。
・・・あれはいったい何だったんだろう?
お化け? ・・・怖かった。
でも、お化けならトシゾーが何とかしてくれそうだ。
何てったって天狗の弟子だもの。
トシゾーはやっぱり強かった。
前から感じていた犬の感じの正体が、少しわかった気がする。
強い犬みたいなお守りが・・・トシゾーの中にはあった。
守護霊って言うんだろうか?
どうやらトシゾーは、犬のことをわかってるみたいだ。
今度聞いてみようかな・・・。
■同月同日 晴れ■
今日は書く事が多すぎて、3ページ目だ・・・。
前に母さんと来て、いつかもう一度来たいと思っていた星ヶ丘に、トシゾーと行った。
綺麗な星空をたくさん見た。
余りにも楽しくて・・・ついついトシゾーに、悩みごとを話してしまった。
このまま帰りたくなかった。
ずっとここにいたかった。
トシゾーは困った顔をしてたけど、はげましてくれた。
何故だか、その時のトシゾーは……あの人に似てると思った。
花火もすごくきれいで・・・今夜は忘れられない一日になった。
■7月31日 雨■
良いことがあると、悪いことはやってくる。
今日はまた病院に連れて行かされた。
たくさん検査を受けて、たくさん質問をされた。
お医者さんがどうせボクの言う事を信じてくれないのはわかってる。
質問にはウソばかり答えた。
そのウソはバレなかったけど、薬をのんでないことがバレてしまった。
お医者さんはむずかしい顔をして、来月にでもと入院をすすめられた。
お父様にも電話をしておくそうだ。
■同月同日 雨■
みんながボクの事をウソつきだって言う。
お母さんの言う通りだった。
聞こえない声が聞こえるというのは、だれにも話しちゃいけなかったんだ。
母さん、ごめん・・・ボク、母さんのかたきをうてる自信がない・・・。
だって・・・だれもボクの言うことを信じてくれないんだ。
母さんを殺したのは・・・あいつだってわかってるのに
・・・だれも信じてくれない。
■8月1日 晴れ■
今日はトシゾーと会う約束をしていた。
荷物を持って、秘密基地に行った。
重くて大変だったけど、せめて基地らしくしなきゃカッコつかない。
2時間くらいかけて、やっとそれらしく見えた。
でも、待ち合わせは15時だったのに・・・あいつはちっとも現れなかった。
何度も帰ろうかと思った。
でも・・・ここで帰るともう会えない気がした。
結局、あいつが来たのは夕方だった。
ケガをしていて・・・ボロボロだった。
何だかつらそうだったので、ゆるしてあげた。
■同月同日 晴れ■
ついにトシゾーを秘密基地に招待した。
思ったよりも、トシゾーは面白がってくれた。
この場所は一人でいるより、二人でいるほうがずっと楽しかった。
トシゾーと将棋をやった。
はじめてやるクセに勝つ気まんまんだ。
勝てる見込みがなくても、挑んでくる。
その様子がおかしくて楽しくて、遊びすぎてしまった。
家に戻った時、さすがにバレたんじゃないかって、覚悟したけど……大丈夫だった。
寝ていると思っててくれたみたいだ。
少しうまく行き過ぎだと思うけど……まあ良いか。
■8月2日 くもり■
朝は、雪子さんに勉強を教えてもらった。
それからゲームもやった。
夕ご飯を食べる前に、少し不思議なことが起きた。
雪子さんから“お帰りなさい”って聞こえた気がした。
もしかして……ボクが時々家を脱け出しているのを知っているんじゃないかって思った。
神社を通りがかると、夏祭りの時のあの子に会った。
話しかけたら、ボクを見ておどろいていた。
ここには毎日来ているらしい。
真剣にお参りをしていた。
体が強くなるように願っているようだ。
ぼくも、誰もいない遠い世界に行けるように願った。
■同月同日 くもり■
トシゾーに木登りを教えてもらおうとしたけど、将棋の方が面白いみたいだ。
ちっともうまくならないぼくを、下手くそと笑ってた。
むかついたから将棋でコテンパンにしてやった。
それでもムキになって何度も挑んでくる。
何回かやってる内に……だんだん詰むのがむずかしくなってきた。
思ったよりトシゾーは物覚えが良くて、守りがうまい。
攻める事を覚えたら、なかなか手強い相手かもしれない。
■8月3日 晴れ■
トシゾーが良い物をくれるって言うから、わくわくした。
そしたら・・・えっちな本だった。
一体どこから拾ってきたんだろう!?
トシゾーってば最低だ!
何だかずっと一緒にいると・・・ちょっと変わってるだけで、普通の男の子なんだなって思った。
もっとすごいやつかと思ってたけど・・・安心したようながっかりしたような。
■同月同日 晴れ■
あんな本を読んだせいか、何だかもやもやする。
眠れなくて、本を読むのも集中できない。
よくわからない変な気分だった。
全部トシゾーのせいだ。
明日は手加減なしでボコボコにしてやろう。
■8月4日 くもり■
今日は、雪子さんがお父様の部屋の片づけをしているのを手伝った。
・・・その時、あるものを見つけた。
きれいな女の人と女の子の写真だ。
女の人は知っている。
お父様の前の奥さんだった人だ。
でも・・・女の子の方は知らない。
今のぼくと同じくらいの子だ。
その目が、こっちを見ているみたいで怖かった。
そのカベの傷には見覚えがあった。
その部屋は・・・ぼくが使っている部屋だった。
■8月5日 雨■
昨日の夜は、怖くて・・・無理を言って雪子さんに泊まってもらった。
お仕事とは関係ないし、迷惑だったと思う。
五年生にもなって一人で眠れないなんて、おかしかったに違いない。
でも、雪子さんにも子供がいて、その女の子は中学生になっても、一緒に眠っていたようだ。
思いきって雪子さんに話をしてみた。
母さんが死んだ時の事を・・・。
落ち着いて、ゆっくり話した。
・・・きっとわかってくれると思った。
母さんが・・・殺されたという事を。
■同月同日 雨■
母さんは事故死ということになっていた。
雪子さんは、何も言わず、抱きしめてくれた。
・・・ぼくの話を信じてくれた。
うれしくてつい泣いてしまった。
・・・雪子さんはボクが勝手に脱け出している事を知っていた。
トシゾーと遊んでいるのも、全部みられていた。
楽しそうにしていたから連れ戻せなかった・・・と言っていた。
家庭の深いところに立ち入るわけにはいかない。でも、真実に近づけるように協力してくれると雪子さんは言ってくれた。
■同月同日 雨■
母さんの部屋をくまなく調べた。
そのとき化粧台の奥から、かなり古そうな黒い手鏡を見つけた。
部屋の鏡は全部なくなっていた。
あの夜に、全部割れてしまっていたのだ。
それなのに・・・なぜかこれだけは無事だった。
あの日、母さんは胸に鏡のカケラを刺され・・・死んでいた。
これが・・・母さんが死んだ原因かもしれない。
そう思うと、憎くて憎くて割りたくなった。
■同月同日 雨■
その時、あいつが部屋に入ってきて・・・ぼくを止めた。
その手鏡は、あいつにとってとても大事なものらしい。
うばい取られて、激しくにらまれた。
たまに見せるとても冷たい目・・・。
その目を見ると・・・息苦しくなって、体が動けなくなった。
雪子さんが止めに入らなかったら、ぼくはどうなっていたかわからない。
ボクもあいつをにらみつけ、強い思いで返した。
その時・・・気付いてしまった。
あいつは・・・ボクを殺したいと思っていた。
もう、いやだ。この場所にはいたくない。
だれか助けて・・・神様・・・悪魔でもいい。
■8月6日 晴れ■
今日は秘密基地に新しいメンバーが加わった。
と言っても、ぼくは前から何度も会っている。
ソウシと言う名前になった。
ソウシは辛い事や悲しい事があると、息が苦しくなるらしい。
トシゾーとケンカしてたら倒れこんでしまった・・・注意しなきゃ。
トシゾーは前に感じた強いお守りの話をしたら怒った。
あまり話さない方が良いらしい。
ソウシもトシゾーも、色々不安をかかえている。
ぼくだけが苦しいなんて言えない。
■同月同日 晴れ■
トシゾーのひと言がきっかけで、旅行に行く事になった。
おじさん夫婦の家に電話をしたら喜んで、いらっしゃいと言ってくれた。
電話や手紙じゃ伝わらない事も・・・ちゃんと会って話をすればわかってもらえるかもしれない。
小さい頃から電車が好きだった。
だから明後日が本当に楽しみだ。
トシゾーと一緒なら、きっと楽しい。
雪子さんに迷惑をかけてしまうのが不安だ。
後でぼくが怒られるだけで済めば良いけど・・・。
ただ、その前に色々と準備しなくてはいけない。
おじさんにボクの話を信じさせるための・・・証になるものが必要だ。
◆
8月7日以降は、既に読んでいる内容だった。
旅行の計画、トシゾー……自分との喧嘩の内容が書かれている。
────後は白紙だ。
日記帳を閉じ、大きく息を吐き壁に頭をつけた。
「殺される……!? こんな事がイサミに起こっていたって言うのか?」
木葉がイサミだとすれば────その後も、イサミは健在だ。
鏡介さんが渡してくれた資料によると、木葉は神社で行方不明となった。
その後、異界に旅立ち……帰って来た。
────強力な妖の力を手に入れて。
異界で何があったのかわからない。
今はその事を知りたくてもどうする事も出来ない。
だが……どうも釈然としなかった。
この日────8月8日に会った連中はイサミ……木葉勇を探していた。
だが、イサミはその事について記述していない。
“あいつ”が探し回っている……としか。
“あいつ”とは連中のリーダー格の事だろうか?
────違和感を感じた。
もし、イサミが木葉じゃなかったら。
別人だとしたら……イサミは生きているのか?
血痕の残った秘密基地を思い出し、不安になった。
時計を見ると、深夜を回っていた。
“覚”は再び、力なくその瞳を閉じていく。
「“覚”……大丈夫か?」
日記から情景のような思念が色濃く伝わった。
“覚”の力によるものなのかもしれない。
“覚”気生めながら、明日の為に眠る事にした。
明日は学校に行き、木葉について聞かなければいけない。
今夜も、獏が過去の夢を見せてくれるんだろうか。
……まだ、肝心な記憶が残っている。
その事を思い出そうとする。
しかし記憶にノイズが走ったような感じになった。
「あの後……何が起こったんだ」
◇
────覚えているのは、駅の待合所。
────覚えているのは、そこで待っていたという事。
────覚えているのは、誰も来なかった事。
────覚えているのは……
《七日目③終了 八日目①へ続く》
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