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揺らぐ光と最初の選択
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ネズミを飲み込んだあと、俺はしばらくその場で丸くなっていた。
体の奥に沈んだ重みは、不思議と心地よい。
ほんの少し前まで、獲物を丸呑みするなんて想像もできなかった。
でも今は、腹の中に広がる温もりが、俺に“生きている”という実感を与えてくれていた。
しばらくして、洞窟の静けさが再び耳に戻ってくる。
ぽた、ぽた、と天井から落ちる水滴の音。
遠くで、かすかに風が流れるような音がした。
……この先に何かがある。
俺はゆっくりと体を伸ばした。
胃袋に収まったばかりの獲物が少し邪魔をして、動きが重い。
でも、このまま同じ場所にいれば、別の何かに襲われるかもしれない。
食事が終わった今こそ、周囲を探るべきだ。
舌をちろりと伸ばす。
鼻孔の奥に、湿った空気と一緒に“情報”が流れ込んできた。
苔の匂い、水の匂い、そして……ほんのりと甘いような、土とは違う匂い。
何だ、これ?
匂いは洞窟の奥、微かな光のある方向から漂ってきている。
俺は腹側の鱗を地面に押し当て、するりと前へ滑り出した。
鱗のひんやりした感触と、岩のざらつきが交互に伝わってくる。
そのリズムが少しずつ心を落ち着かせた。
しばらく進むと、通路は二つに分かれていた。
右の道は細く、奥にかすかな光が漏れている。
左は広く、暗闇が続いていて、遠くで水の音が響いている。
「どっちに行くべきだ?」
人間のころの癖で、思わず独り言をもらした。
答えは返ってこない。
けれど、舌をもう一度ちろりと出してみると、甘い匂いは右の細道から強く漂っている。
……食べ物かもしれない。
でも、罠の可能性だってある。
まだこの世界のルールは何ひとつ分かっていないのだ。
少し迷ったあと、俺は頭を右に向けた。
もし危険なら、そのとき考えればいい。
生き残るためには、動かなきゃならない。
そう自分に言い聞かせて、俺は光の差す細道へと体を滑り込ませた。
体の奥に沈んだ重みは、不思議と心地よい。
ほんの少し前まで、獲物を丸呑みするなんて想像もできなかった。
でも今は、腹の中に広がる温もりが、俺に“生きている”という実感を与えてくれていた。
しばらくして、洞窟の静けさが再び耳に戻ってくる。
ぽた、ぽた、と天井から落ちる水滴の音。
遠くで、かすかに風が流れるような音がした。
……この先に何かがある。
俺はゆっくりと体を伸ばした。
胃袋に収まったばかりの獲物が少し邪魔をして、動きが重い。
でも、このまま同じ場所にいれば、別の何かに襲われるかもしれない。
食事が終わった今こそ、周囲を探るべきだ。
舌をちろりと伸ばす。
鼻孔の奥に、湿った空気と一緒に“情報”が流れ込んできた。
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何だ、これ?
匂いは洞窟の奥、微かな光のある方向から漂ってきている。
俺は腹側の鱗を地面に押し当て、するりと前へ滑り出した。
鱗のひんやりした感触と、岩のざらつきが交互に伝わってくる。
そのリズムが少しずつ心を落ち着かせた。
しばらく進むと、通路は二つに分かれていた。
右の道は細く、奥にかすかな光が漏れている。
左は広く、暗闇が続いていて、遠くで水の音が響いている。
「どっちに行くべきだ?」
人間のころの癖で、思わず独り言をもらした。
答えは返ってこない。
けれど、舌をもう一度ちろりと出してみると、甘い匂いは右の細道から強く漂っている。
……食べ物かもしれない。
でも、罠の可能性だってある。
まだこの世界のルールは何ひとつ分かっていないのだ。
少し迷ったあと、俺は頭を右に向けた。
もし危険なら、そのとき考えればいい。
生き残るためには、動かなきゃならない。
そう自分に言い聞かせて、俺は光の差す細道へと体を滑り込ませた。
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