転生したら現代地球のダンジョンだった!「ダンジョンから出られないので最下層を目指します。」

魔人

文字の大きさ
10 / 16

尾の変化

しおりを挟む
ひんやりとした空気に、意識がゆっくりと浮上してきた。
目を開けると、洞窟の天井を覆う苔が淡い緑の光を放っている。
その光は夜明けのようにやわらかく、戦いの疲れを癒してくれるかのようだった。
体の奥に残っていた重さは、いつの間にか消えている。
代わりに、背骨の延長――尾の付け根あたりが、じんわりと温かい。
そこだけが、まるで自分の体じゃないみたいにざわめいていた。

ゆっくりと頭を持ち上げ、周囲を確認する。
洞窟の一角に、昨夜の戦いの跡が残っている。
砕けた小石、尾の跡らしき溝、そして水たまりに散らばった細かな鱗片。
あの灰色のトカゲとの戦いが、夢ではなかったことを物語っていた。

俺は体をほぐすようにゆっくりと動かした。
鱗が岩に触れるたび、微かにざらりとした感触が伝わってくる。
その心地よい刺激の中で、尾の奥にこもった熱だけが鮮明だった。
「……なんだ、この感じ」
眠っている間に、何かが変わったのだろうか。

尾を目の前に持ってくると、思わず息を呑んだ。
黒と白銀が入り混じる鱗の間に、細い筋のような模様が幾筋も走っている。
まるで鋼のような光沢を帯び、表面の一部はわずかに隆起していた。
指(いや、もう指はないが)で触れたら切れそうなほど鋭い縁取り。
昨日までのしなやかで柔らかい尾とは明らかに違っていた。

さらによく見ると、尾の付け根から先端にかけて、鱗の並び方が微妙に変化している。
筋肉の流れが、まるで“しなる鞭”のような構造を支えるかのように整列しているのだ。
「これ……進化、なのか?」
自分の声が洞窟に吸い込まれていく。
ただの魔物ではないのかもしれない。
この体には、戦いを経て形を変える力があるのだ。

試しに尾をゆっくりと左右に振ってみた。
洞窟の空気を切る音が、昨日とはまるで違う。
シャッ、と鋭く、そして少し重みを帯びた低い音が耳に届く。
もう少し強く振ると、床に転がっていた小石がかすかに跳ね、薄い砂煙が立ち上った。
その瞬間、全身をぞくりとした震えが駆け抜けた。
「……すごい」
思わず角がピクリと動く。
尾の一撃が、昨日よりもはるかに“武器”らしくなっているのがはっきり分かった。

自分の体が、戦いを通じて確かに変わっていく。
その事実に、恐怖と同時に奇妙な高揚感がこみ上げる。
人間のころには、こんな感覚は一度も味わったことがない。
まるで、未知のゲームで新しいスキルを獲得したときのようだ。
いや、それ以上にリアルで、血の通った“成長”の実感だった。

尾をもう一度高く掲げる。
苔の光が筋の溝に沿って反射し、淡い輝きを放つ。
この尾は、俺の命を守り、未来を切り開くための刃だ。
角、鱗、尾――どれもが俺をこの世界に適応させようとしている。
「面白くなってきたじゃないか」
自然に hiss 音が漏れる。
新しい力を手に入れた喜びが、洞窟のひんやりとした空気をほんの少し温めた。

俺は体を伸ばし、尾の感触を確かめながら、再び洞窟の奥を見据えた。
この変化が何を意味するのかは分からない。
だがひとつだけ確かだ――昨日よりも、今日の俺は強い。
その確信を胸に、俺は静かに前進を始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

処理中です...