100万ℓの血涙

唐草太知

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横になって、暫く時間が経過する。
「にしても遅いなあいつ」
段々とイライラしてくる。
この場所、分かってるのか?
もしかして、迷子になってるじゃないのか?
そんな風に思ってくる。
俺は我慢できずに飛び起きる。
そして、1階に降りる。
「何だ、女が来ないのか?」
「あぁ、多分迷子だ」
「違うね、きっとフラれたんだ」
「あー、うるせぇ、そういうんじゃないって言ってるだろ」
「素直に諦めて新しい恋を探した方がいいぞ」
「迷子を捜しに行くだけだ、少しの間は留守にする。
部屋はあけとけよ」
「金は貰ってるからな、時間分は開けとくさ」
俺はおっさんに手を振って後にする。
それにしても、あのマントの男。
気になる。何事も無ければいいんだが、
レスキィは恐らく彼の所に居る。
面倒ごとを自分から作りやがってあの女。
文句を言わなければ気が済まん。
そう思って、行くのだった。
弓を背中に抱えた少女を町はずれで見かける。
「おい、レスキィ。人への施しは終わったか?
飽きたら、さっさと戻ってこい。
何時までも来ないから、迷子だと思ったぞ」
「・・・」
俺が話しかけても、ぼーっとしてるのか、何も返事が無い。
「レスキィ?」
「・・・」
いくら声をかけても返事が無い。
嫌な予感がする。
俺は剣を構える。
近づくことはせず、遠くから声をかける。
「レスキィ、俺だ!」
レスキィは背中に装備してる弓を左手で、
正面に移動させる。
同じく背中に装備してある矢筒から、
矢を右手で掴み上げて、
右手で弦を引く。
レスキィは弓を構える恰好を取る。
そして、俺を捉えたのだろう。
引いていた弦を離し、矢が放たれる。
「しっ!」
レスキィの矢は真っすぐ俺へと向かってくる。
「ふっ」
俺は右に避ける。
すると、矢が後ろの木の幹に命中する。
避ける動作をしなければ、俺は間違えなく首に突き刺さってただろう。
「・・・」
レスキィは先ほどと同じ行動をとる。
間違えない、今度も俺に向かって矢を放つつもりだ。
「やめろ、レスキィ。
冷静になるんだ」
「しっ」
レスキィに俺の言葉が届くことは無く、
無常にも矢が放たれるだけだった。
「くっ」
俺はそれを何とか避ける。
「ふふ・・・随分と苦労してますね」
「会った時から怪しいとは思ってたんだ」
「はい、お久しぶりです。勇者の片割れ」
「幻惑魔導士デンジャッタ」
マントを外して、顔を表す。
まるで骸骨かのようにやせ細った顔。
身体も同様に細い。
骨が浮き出ており、酷く不気味だ。
身長は178cm。
体重は43kg。
とてもじゃないが、すでに死にそうな男だ。
「魔王の影しか歩いたことのない男が、どうしてここに居る?」
「さぁ、どうしてでしょうか」
「魔王なき今、次世代の魔王になろうとしてるのか?」
「まさか、そんな恐ろしいことは考えていません」
「どうだか」
「どう思われようが構いません、あっしにはあっしの目的がありますので」
「そんな心配は無用だ、何故ならば今ここで死ぬんだからな」
「出来ますかね・・・勇者の居ない貴方など、クイーンの居ないチェスを指すようなものだ・・・戦力不足ですよ」
「煌めけ、黄金剣ソルダート!」
俺は剣を振るい幻惑魔導士を殺す気で襲い掛かった。
しかし、剣が彼の喉仏を貫通することは無かった。
「・・・」
レスキィが止めたからだ。
頑丈な作りをした弓で、俺の剣を防ぐ。
「レスキィ、その男は魔族だ。敵なんだぞ!?」
「分かっています・・・魔族だという事は」
「レスキィ?」
彼女の目は冷静さを失ってない。
物事を判断する能力がある目だった。
虚ろな表情とは言えなかった。
操られてるわけではなかったのか?
「・・・」
幻惑魔導士がぼそぼそとレスキィに呟く。
レスキィは驚く。
そして、表情に落ち着きを取り戻すと、
俺に向かって矢を放つのだった。
「レスキィ、やめろ!」
「ごめんなさい、クルバスさん、恨みがあってしてるんじゃないんです。どうか・・・理解してください」
「ふふ・・・仲間同士争う。
実に悲しい、ですが、何処か美しい」
幻惑魔導士のデンジャッタは楽しそうだった。
「クソ魔導士が、あの頃と変わらぬ無能の癖に良くも俺の前に立ちふさがれたな!!」
「確かにあっしは無能だ、魔族の癖に魔力がある訳でもなく、かといって岩をも砕く腕力があるわけもでない。そんなあっしでも魔王様は傍に置いてくれた。それは何故か、あっしは賢かった・・・だからこうして魔王様無き今も生きられ、そして勇者の片割れを追い詰めることが出来る!」
「死ね!」
デンジャッタに剣を向けるも、やはりレスキィが邪魔する。
矢が飛んできて近づくことが出来ない。
「クルバスさん・・・ダメっ」
レスキィは悲しそうな顔をする。
「レスキィ、てめぇ」
俺はレスキィを睨む。
「・・・」
レスキィは罪悪感からか、俺から目を逸らす。
「そうですよ、レスキィ、貴方は正しい。
向こうが間違ってるのです」
幻惑魔導士が囁く。
「でも」
レスキィは迷ってるようだった。
「貴方が努力しなければ、あの方が不幸になる。
いいのですか?」
「それは」
「確かにそれもいいでしょう、あの方が勝手に不幸になるだけであり、レスキィが不幸になる訳じゃない。でも、君はとても優しい。だからこそ助けようと努力してる、そのことに気づかないクルバスが悪いのですよ」
「そう・・・だよね、クルバスさんが悪いんだよね」
「さぁ、レスキィ、クルバスに矢を放つのです」
幻惑魔導士が唆す。
「ごめんなさい。クルバスさん」
レスキィは矢を放つ。
「くっ」
俺はそれを避けるので精いっぱいだった。
そうだ、これが奴の戦い方。
自分の能力が低いのであれば、誰かに戦わせればいい。
目的のものが手に入るのであれば、
必ずしも己が戦う必要は無いのだ。
奴は自分のことが分かったうえで、出来ることをやろうとしてる。それが幻惑魔導士デンジャッタの厄介な所だ。
無能ではあるが、決して凡才ではないのだ。
「さぁ、止めるのです・・・彼を!」
デンジャッタはレスキィに指示する。
「クルバスさん・・・!」
レスキィは矢を放つ。
「・・・」
俺は弾く。
「何故です、何故あたらないんです!?」
幻惑魔導士が困惑していた。
「騙そうとしてた相手が悪かったな」
「なに?」
「彼女には致命的とも言える欠点があった。
それは何か、自分でもわかってるんだろう、レスキィ」
「・・・」
彼女は目を逸らす。
「何故、何故当てないんですか。
彼を止めなければ不幸になるのですよ!?」
「クルバスさんを不幸にしたくないのに、
彼を怪我させるのは間違ってます」
「なに?」
「レスキィはな、傷つけたくないのさ。
俺をな、そうさ、彼女の弱点は優しさだ。
矢が当たらないんじゃない、初めから当てる気が無かったのさ。
デンジャッタ、お前に何を言われたのか分からないが、
俺を傷つけるという選択は出来なかったんだよ、レスキィにはな」
「ぐっ」
デンジャッタは怯む。
「ごめんな、レスキィ」
俺は彼女の前に立つ。
「クルバスさん・・・」
「スリープ」
俺は彼女の頭に手をやる。
すると、眠りにつくのだった。
「あっ・・・」
レスキィは空気の抜けた人形のように倒れこむ。
俺はそれを受け止めるのだった。
「後はお前だけだ、デンジャッタ」
俺は彼を睨む。
「あっしでは力不足だ、残念ながら引こう。
また会いに来るよ、クルバス。
君とは縁があるからね・・・ふふふ・・・」
デンジャッタはそのまま姿をくらました。
ここで追いかけても良かったが、腕に抱かれてるレスキィを抱えたままでは俺も戦えない。この場に捨て置いてもいいのだが、そんなことをするほど鬼畜にもなれない。
「さて、宿に戻るか」
俺はそのまま抱きかかえたまま宿に戻る。
「おい、兄ちゃん。酒で寝かせてるのに襲うってのは駄目じゃねぇか?そういうのは同意のもとっつーか」
「違うって言ってるだろ、全く」
俺は宿屋について早々、そんなことを言われる。
ただ寝かせようとしてるだけなのに、なんだってこんな。
まぁ、いいか。レスキィは無事だったんだからな。
「zzz・・・もう食べられなぁい」
レスキィは幸せそうに寝てる。
「全く、夢の中で飯でも食ってるのか?
のんきなやつめ」
俺はそのままベットに運ぶのだった。
彼女をベットに放り投げてから、俺は自分のベットで眠った。
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