100万ℓの血涙

唐草太知

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セピア色だった白黒の世界から俺は引き戻される。
世界はカラフルな色どりを取り戻す。
「クルバスさん・・・ねぇったら」
「あ・・・?」
俺は今、街道の傍に居た。
近くにある木に背中を預けていた。
「何度も起こしたんですよ」
「そういえば寝てたんだったな」
「そうですよ、敵が来ないから見張れって。
随分と長く寝てたもので、敵は来ないので退屈だったんですよ?」
「夢が楽しくてね」
「どんな夢だったんですか?」
「お前はには教えん」
「酷いです」
レスキィは怒る。
「さて、出発するか」
「ようやくですね、どんな旅になるのか楽しみです」
「俺はこの旅に楽しさを求めては無い」
「えー、そんなの暗いですよ」
「目的が何だって良いだろ、お前は楽しめばいい。俺はそうしないってだけの話だ」
「せっかくなんですから楽しみましょうよ」
「断る」
「つまんなぁい」
「そういう旅じゃないんだがな」
俺は呆れる。
「それにしても、この道で合ってるんですかね。もしかして迷ってたり?」
「んなわけあるか・・・街道だぞ、誰かが整備してくれた道なんだ。人が迷わないように、歩きやすいようにしてくれる道にどう迷えと?フィクションのキャラじゃあるまいし」
「あはは、そうですね」
レスキィは苦笑する。
「ほら、見えたぞ」
次に行くであろう町が見える。
「あ、もう少しですね」
「迷わなかったろ?」
「はい、無事につけて何よりです」
そんな道中の出来事だった。
木にもたれかかってる怪しい人を見つける。
「うううぅ・・・」
マントを羽織って顔がよく見えない。
「さて、町で何を買おうか。
日用品が欲しい所だな」
俺はマントの男を素通りする。
「ちょっと待ってください、クルバスさん」
「どうしたんだ?」
「人が苦しそうにしてるんですよ」
「放っておけ」
「そんな、それでも勇者ですか?」
「俺は英雄じゃないと何度も・・・」
「もし、そなたは勇者・・・なのか?」
フードの男が興味深そうに聞いてくる。
「違うんだが」
「あっしの今はとても金に困ってるんです。明日食うモノも見つからずに苦しんでる。
お願いです、どうか施しを」
両手を差し出す。
「悪いが急いでるんだ、じゃあな」
俺は冷たく突き放す。
「クルバスさん、可哀そうですよ」
「可哀そうって言ってもな」
「何か食べ物でも・・・」
レスキィはごそごそと持ち前の袋を漁る。
「いいから行くぞ」
俺はレスキィの首根っこを掴む。
「あぁ、引っ張らないで!」
少し距離が出来てから俺はレスキィに伝えるのだった。
「旅に同行するのは許可したから構わない。
だが、面倒ごとを背負いこむは止めろ」
俺はレスキィに説教する。
「でも、勇者ならば困ってる人は助けるべきですよ」
「あのなぁ、俺は英雄じゃないと何度も・・・」
「英雄とかどうでもいいじゃないですか、それよりも困ってる人を放っておくのは人としてどうかなって思うんですが?」
「俺は人としてどうかしてるんだ」
「クルバスさん!」
「口やかましい女を旅の同行者に選んだな」
俺は盛大にため息を吐く。
言い合いをしながらも、俺たちは街の中へ入っていくのだった。
街の雰囲気は普通という感じ。
何処かで見たことあるような家に、
石畳の道。
子供たちがはしゃいでるし、ここら辺は平和なのだろうと思う。
特別変わってる訳ではないが、
そんなに悪い街でもなさそうだ。
「素敵な街ですね」
「そうだな、まずは日用品でも買うか」
「分かりました」
俺たちは市場へと向かう。
「ナイフに歯ブラシ、タオルなんかもあるのか。
色々あるな」
俺はどれを買おうか迷っていた。
「あの、すみません、自分はこれ買います」
レスキィはリンゴを買っていた。
「何だ、もう腹減ったのか?」
「違いますよ、先ほどの男性に渡すんです」
「まだ、諦めてなかったのか」
「はい、放っておくのは出来ませんから。
何処かの誰かと違って」
「おい、その誰かってのは俺の事か?」
「さぁー?
自分の胸に聴いてみれば分かるんじゃないですか?」
「このくそガキ」
俺は震える拳を抑えるので精いっぱいだった。
「殴るんですか。いいですよ、来てください、
返り討ちにします!」
レスキィは荒ぶる鷹のポーズを披露する。
「止めだ、止め。別にお前と戦う気はない」
俺はバンザイして降参する。
「分かればいいんです」
ふふんとレスキィは得意げだった。
「お前はお前で勝手に助けてればいい。
俺は何も手伝わないからな、先に宿屋に行ってる。
人の面倒を見るのに飽きたら戻ってこい」
「分かりました」
俺とレスキィは別れるのだった。
安宿を見つけて俺は中に入る。
「いらっしゃい、悪いけど内は風呂ないよ。
ベットだけ」
おっさんが1人受付に座っていた。
「別に構わん、寝れればそれでいい」
「8000ゴールド」
「後で連れが来るんだが構わんか?」
「構わん、連れはどんな奴だ?」
「マントを羽織ってて弓を装備してる小柄な女だ」
「何だヤリに来たのか。
それなら風呂無しにも理解できる」
「バカ、違うわ。俺たちはだなぁ」
「普通に?」
店の店主に言われて、ふと気づく。
そういえばあいつの立場って何だろうか。
恋人ではないし、かといって友達って言えるほどの間柄でもないしな。なんだろうか、悩んだ末に出した答えはこれだった。
「赤の他人だ」
「まぁ、そういうことにしといてやる。
ほれ、カギだ」
おっさんにカギを渡される。
絶対にやってると思われてるな。
説明するのも面倒だから、誤解されたままでいいか。
「じゃ、俺は寝てるから邪魔しないでくれ」
「はいはい、好きなだけ休んでくれ」
俺は2階に上がり、受け取ったカギを使い部屋に入った。
レスキィが後から来ても、おっさんのマスターキーで入れるだろう。
そう思って、何も気にすることなくカギをかけて横になるのだった。

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