100万ℓの血涙

唐草太知

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俺たちは、ホテルの高い箇所の部屋から海の見える場所に居た。
シルクのテーブルクロスを引いた場所に食器が並べられており、
その上には豪勢な食事が置いてあった。
俺たちは互いに椅子に座り、その食事を楽しむのだった。
「どうして俺の事を好きになったんだ?」
「どうしてかな、分からないや」
「わかんないって・・・」
「冗談だ、本当は分かってる」
「聞いても?」
「改めて言うと、少し恥ずかしさがあるんだけど」
「聞きたいな」
「そうだな、言うならば犬みたいだったから」
「犬?」
「なんていうのかな、捨てられた子犬のような眼をしていた。
街中で誰にも好かれずに孤独に生きてる一人の少年。
私には変わって見えた」
「・・・」
「その気になるってのは好意なのか、それは異物としてなのか。私に判断がつかなかった。でも、確かなことは君のことが気になるってことだ」
「まぁ、変な奴だったかもな俺は」
「どうして彼は誰とも関わらないのだろうか。
それとも私が知らないだけで他に誰か親しい友人か、
恋人がいるのかもしれない。私の中で君の興味が湧いてきた」
「・・・」
「凄く・・・なんて言うか、私は変態っぽいな。
だって、君の事をずっと見てたんだからね。
受け入れてくれなかったら、私は犯罪者になっていたかもしれないな」
「どうかな、君ほどの人物ならば他にも相手してくれそうだけど」
「100人からの好意なんて私にとっては毒リンゴを食べさせられるようなものだ。それよりも大事なのは君からの好意だ」
「そうか」
真っすぐな愛を言われると、こちらも照れる。
「ずっと関わりたいと思ってた、
だから思い切って祭りに誘ってみたんだ」
「あぁ・・・あの時の」
「これでダメだったら諦めようかなって思ってた。
でも、一緒に居たら凄く楽しかったんだ。
そこで、私の中で1つの確信が生まれたんだ。
あぁ、好きかもしれないと」
「そうだったのか」
「思えば、最初に気になったのは捨てられた子犬のような眼をした君だった。それは人によっては愛ではなく、ただの庇護欲でしかないと誰かに言われてしまうかもしれない。でも、私は何故だかそうは思えなかった。愛・・・という言葉の方が身体に馴染んだんだ。他人がどうこう言うから恋人を決めるのは可笑しな話だろう。だからね、私は君を選んだんだ」
「なるほどね」
「これからが楽しくなるぞ、クルバス。
私の愛の告白を受けたんだからな、旅を楽しいものにしよう!」
「あんまり贅沢はしない程度にな」
「ケチ臭いことは言うな、バンバン使おうじゃないか」
「そうだな」
俺は思わず笑ってしまう。
どうせ、明日死ぬかもしれない命なんだ。
贅沢したっていいだろう。
「クルバス、このデザートは美味しいな」
「そうだな」
と言っても何処にでもあるようなバニラアイスだった。
強いて言うならば、こんな場所だから材料が高級なんだろうなと思うが、平民が食べるアイスとは何が違うのか分からないが。
「口を開けてくれ」
「なんでだよ」
「まぁまぁ」
「ほれ」
俺は口を開ける。
「えい」
エナトリアはアイスを入れた。
「美味い」
「そうか、美味しいか。それじゃ私も一口」
エナトリアは俺の口に入っていたスプーンを躊躇わず、
使用した。
「あまり綺麗じゃないと思うが」
「いいじゃないか、してみたかったんだ。間接キス」
「お前は・・・まったく」
何だか俺の方が恥ずかしくなってくる。
「ふふ、君の照れる顔は可愛いね」
「止めてくれ、俺はそんな柄じゃない」
「ふぅ、しかし食べたな」
エナトリアは満足そうに腹をぽんぽん叩く。
「そうだな、とても美味しかった」
俺は味にも量にも満足だった。
「この後、どうする?」
「そうだなぁ、ん・・・?
あれを見てくれ、クルバス」
「なんだ?」
「この部屋にプールがあるぞ!」
「本当だ」
「早速入ろう」
「入ろうって言ったって、水着はあるのか?」
「そんなものない」
「え?」
「えい」
エナトリアは席を急に立つ。
そして走り出し、ドレスアーマーのまま着水するのだった。
「エナトリア!?」
しかも乱暴にも飛び込んだではないか。
水しぶきがプールサイドに飛び散る。
「気持ちいいね」
ぷかぷかと彼女は背泳ぎで浮いていた。
鉄の鎧の筈なのに不思議だと思う。
まぁ、鉄の船が浮いてるのだから変ではないのかもしれないが。
「飛び込むなんてマナーが悪いぞ」
「マナーが悪いって誰が言うんだ」
「誰って・・・」
「ここには誰も居ない、他に客が居ないんだ。
私と君の2人きりの世界だ。そんな場所にいったい誰が無粋なことを言うんだ?」
「そうだな、ここには俺たちしか居ないもんな」
「そうだ、そうだとも。クルバス、君も飛び込むんだ」
「あぁ、行くぜ」
俺は助走をつけて、プールに勢いよく飛び込んだ。
そして、思い切り水しぶきが跳ね上がるのだった。
「あはは、君もびちょびちょだ。これじゃあ服が乾くのに時間がかかりそうだ」
「別にいいだろ」
「クルバス」
「なんだよ」
「ほら」
水をかけてくる。
「冷たいな」
「今更だろう」
「やったな!」
「あはは、冷たい、とっても冷たいぞ!」
「もっとかけてやる」
「負けないぞ」
俺たちは互いに濡れながらも、はしゃぎまくった。
無意味だったけれど、それが酷く楽しくて、
何の生産性も生まれないけれど、心が満たされた。
そうして時間が過ぎていくのだった。
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