100万ℓの血涙

唐草太知

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一人、俺は歩いて帰る。
帰ると言っても、帰る場所はルルの家だが。
橋の上を歩く。
すると誰かに抱き着かれる。
「こんにちわ」
「幻惑魔導士!」
突然の事で俺は剣を抜く。
「そう・・・慌てることもないだろう」
「何しに来た」
「分かってる筈だ、迎えに来たんだよ」
「迎え?」
「さぁ・・・君を迎える準備が出来た。
勇者の片割れ」
「俺を・・・迎えに?」
「そうだ」
「俺は・・・いけない」
「どうしてだ、君の旅は幻想の筈だ」
「だが、魔族の言葉を信用していいのか」
「逆に問うが人間は人間同士を信用できるのか?」
「え?」
「人は人を裏切らないのか?」
「それは」
橋の明かりが点滅する。
「魔族でも人間でも裏切るときは裏切る。
大事なのは誰を信じるかということだろう?」
「・・・」
デンジャッタの言い分にも納得できるところはあった。
魔族であるにも関わらず、何故だかそう思えた。
「それに、あの魔女の言葉を信用してもいいのか?」
「どういうことだ」
「勇者の片割れの記憶を消すと言われたのだろう?」
「聞いていたのか」
「悪いとは思ったがね」
「確かに言った、でも、それは俺の身を案じて」
「本当は違うじゃないかな」
「違う?」
「彼女は君を人形にしたいんだよ」
「俺を・・・人形に?」
「魔族のあっしから見ても、あのエナトリアという女性は美しかった。あの者が恋人であるという事実は実に素晴らしいことだ。しかし、周りはどう思うか?圧倒的な輝きを見せる人が傍に居て影が生まれないと断言できるだろうか?」
「それは」
橋の明かりが一部消える。
「きっと、いや、間違えなく影が出来た。
そういう状況になったのだ、チャンスと思うのが自然なことだろう。確かに、倫理観的には悪いさ、人が死んで喜んでるんだからね。でも、本心は違う筈だ。おそらく彼女はそう思ったに違いない。これで君と付き合えるってね」
「・・・」
「酒場で酔ってる彼女を見てあっしは思った。
あれは、恋する乙女の目だと。あぁ、なんて可愛らしいのだろうと」
「だったらどうしたってんだ」
「だからさ、チャンスなんだよ」
「チャンス?」
「君の記憶を消して・・・思いのままに出来るね」
「ルルが?」
「そうさ、エナトリアのことを完全に忘れさせてしまえばライバルは居なくなる。恋に勝つのは努力じゃない、恋敵を消してしまえばいい。けれどそれをしてしまうと、本人に恨まれてしまうだろう、魔女にとっては恋敵かもしれないが、君にとっては替えが利かないオリジナルな存在なんだからね」
「だが、ルルはそんな女じゃない」
「どうして言い切れる」
「それは・・・だって長い間一緒だったから」
「逆じゃないのか、長い間一緒だったのだから愛が芽生えないと何故言い切れる?」
「・・・」
俺は言葉に詰まる。
俺は少しずつデンジャッタの方へ近づく。
「あっしが同じ立場ならば思うね。
チャンスが来たって、しかも愛する者に嫌われない形で恋敵を消せる方法を見つけたんだから気持ちが天にも昇る思いだと」
「黙れ!」
「あっしと来ればいい」
「お前と・・・?」
「あっしと一緒に来れば、全てが解決する。
魔女の傀儡になることもなく、エナトリアのことを忘れて無責任に生きても」
「それは・・・どうすれば」
「あっしに任せればいい」
「任せる?」
「エナトリアを殺せと命じる姿を魔女に見せるんだ」
「俺が・・・命じる?」
「魔女は別に君がエナトリアを殺そうが、殺さなかろうがどっちでもいいのさ、大事なのは君が魔女と付き合えるかどうか。エナトリアを殺すように命じる姿を見せれば君の誠意が魔女に伝わる」
「だが、他の人はどうする。
エナトリア、エナトリアと言っていた俺が急に心変わりしたら変だって思うんじゃないのか?」
「そこはあっしに任せてください。
あっしら魔族が偽勇者を殺し尽くすのです」
「デンジャッタが?」
「はい、そうすれば言い訳が出来る。
殺したのは魔族であって、勇者の片割れではない。
貴方はただ合わせてればいい、憎き魔族め。
あいつらの所為でエナトリアは死んだのだと。
そうすれば重騎士や、弓兵とは仲違いせずに済むでしょう?」
「・・・」
「魔女とは口裏を合わせるのです。
不安ならば、魔女にも嘘をついて誤魔化しても構いません」
「だが、お前たちはどうする。
魔族が恨まれるのならば、俺の仲間が殺しに行くぞ」
「それでしたら殺されましょう」
「お前はそれでいいのか?」
「正確に言うならば影武者を殺させるのです」
「影武者・・・」
「影武者を殺させて満足させる。
そうすれば、人間たちは騙されるでしょう。
後の細かい所は全てあっしに任せてください」
「俺は・・・勇者になれる?」
「はい・・・どうぞ手を・・・準備は全て整いました。あとは勇者の片割れ・・・いや今世の勇者よ・・・魔族と共に手を取り合い新しい時代を築くのです・・・楽しい未来が待ってますよ・・・勇者クルバス」
「へへっ・・・これで・・・俺は」
俺は邪悪な笑みを浮かべる。
暗闇に居るデンジャッタにどんどん近づく。
そして、手をとろうとした。
「いい子だ」
「あへっ・・・うひゃぁっ」
デンジャッタの顔を見ると、昔は酷く邪悪に見えた。
しかし、今では世界中のどこを探しても見つけられないほど優しい顔に見えた。
「君があっしの傍に来てくれて嬉しいよ。
勇者クルバス、世の中の災いから君を守ってあげよう」
「本当?」
俺は子供っぽく言う。
「あぁ、本当だよ。全て任せて」
デンジャッタは微笑む。
「えへへ」
俺は子供っぽく無邪気に笑う。
だが、邪魔が入る。
「デンジャッタぁあああああああああああ!」
炎の立方体が3つほど飛んでくる。
「ぐっ」
デンジャッタはそれをマントで防ぐ。
俺に当たらないように気をつけて。
「平気、デンジャッタ?」
俺は彼を心配する。
「あぁ、問題ないよ」
デンジャッタは俺に微笑みかける。
俺は苛立ちを覚える。
こんなにも優しい人にどうして攻撃を仕掛けるのかと。
「ルル・・・この人は敵じゃない」
俺は聖剣を構える。
「敵だ、忘れたのか。
クルバス、そいつは魔族なんだぞ・・・人の命をゴミクズのように扱う存在なんだぞ」
「そんなことない、彼は他の魔族とは違う」
「クルバス!」
「仄暗き礎よ、永久に聞こえる冥府の鳴き声に従い、
光ある者の命を奪え。魂の味は肉体に温かみを与える。邪煌剣アイスバーン・エッジ」
氷で出来た鋭利な針が地面から突出し、ルルの身体を貫こうとする。
「ファイヤ・キューブ!」
炎の立方体がルルの水晶から出現する。
そして、俺の技と衝突する。
「実力は互角ですか」
デンジャッタはそんなことを漏らす。
「クルバス、止めてくれ。
うちは戦いたくない」
「俺だって戦いたいわけじゃない。
だけど、君がデンジャッタを攻撃するのならば、
俺は彼を守らなくてはならない」
「お願い、聞いて。その魔族は嘘をついてる!」
「ごめん、ルル」
「クルバス・・・」
「・・・」
聖剣が、本来ならば煌めく筈なのに。
今は黒く染まってる。
「戦いたくないのに・・・どうして」
「アイステアーズ!」
俺は氷の階段を作る。
そして上り、俺は彼女の上を取る。
「しまった」
「氷刃乱舞!」
俺は氷の剣を作る。
そして聖剣との2刀流になる。
そのまま降下して、連続攻撃をお見舞いする。
「フェニックス・エンブレイス!」
ルルは炎の鳥を出現させて、
炎の鳥に自分を抱かせた。
彼女は炎の羽で包まれる。
これでは氷の剣は届かないだろう。
「くそっ・・・」
俺は攻撃が届かず苛立つ。
「どうしてなの、どうして魔族の味方をするの?」
「それは」
俺は秘密を喋ることに戸惑いを感じる。
「言ってよ、もしかしたら分かり合えるかもしれない」
「言ってどうするって言うんだ」
「え?」
「お前に俺の何がわかる!」
本物のエナトリアを殺してしまった。
なんて言えない。
もしもそれが事実だったらって思うと不安になる。
でも、これが事実だとしてもデンジャッタが受け入れてくれた。すでに受け入れてくれてるのだから安心だ。
ルルに話すってのは受け入れてくれるのか不安だ。
「わかんないよ、言ってくれなければ」
「言ったら、受け入れてくれるって保証が何処にある」
「受け入れるよ」
「何で受け入れるって言える?」
「だって・・・クルバスが好きだから!」
「え?」
「大好きなんだ、一緒に旅をして・・・初めて出会ったあの時から!」
「ルル・・・」
「だから言って、うちの好きだって気持ちに嘘は無いんだ。こっちは正直に言った、お願いだから今度はそっちが言ってよ、うちの告白から逃げるな、バカ!」
「俺は・・・俺は・・・」
「いけない、クルバス。言っては」
デンジャッタが止めようとする。
「させない」
弓矢がひゅんと飛んでくる。
「がっ」
デンジャッタの右手に矢が命中する。
「レスキィ」
俺は彼女の存在を確認する。
「当たって良かったぁ」
レスキィは安心した顔をする。
「ふん」
斧が振り下ろされる。
丁度、それはデンジャッタと俺の間だった。
「くっ」
デンジャッタがたまらず俺の傍を離れる。
「ルルが慌ててるから何事かと思ったけれど、
駆け付けて正解だったな」
「ギルシュバイン」
俺は彼の名前を呟く。
「僕らは仲間であり、友だ。
悩みがあったら相談してくれよ、受け止めてみせるさ」
「クソ・・・こんなはずでは」
デンジャッタは慌ててる。
「お願い、クルバス。
何を隠してるの?」
ルルは俺に尋ねる。
「俺は・・・すでに本物のエナトリアを殺してしまったかもしれない・・・それはこの旅の意味を・・・失ってしまったように感じたんだ」
俺は不安をぶつける。
「クルバス、聞いて。エナトリアは生きてる」
ルルが真っすぐな目で言う。
「どうして・・・そう言い切れるんだ」
俺は不安そうに返す。
「だって・・・うちの乙女心がもやもやしてるもん。
正直さ、その幻惑魔導士だっけ。言ってることが正しいなって思うことがあるんだ」
「それは何?」
俺は尋ねる。
「それは、エナトリアの所為で心に影があるってこと。
彼女が居なければ恋に勝てるんじゃないかって思ってた。でも違うって気づかされた」
「気づかされた?」
俺は聞き返す。
「でも、違うんだ・・・死んだからこそ思いが強くなったんだって傍に居て・・・そう感じたんだ」
「ルル・・・」
「バカだよね、うち。記憶を消してさ、クルバスを好きにさせても意味は無いんだ」
「それはどうして?」
「多分、きっと思い出すんだ。
思い出さなくても、前に大事な人が居たんじゃないかなって・・・いつか気づくんだ。エナトリアの事を忘れさせても・・・きっと何処かでエナトリアの痕跡が残ってるだろうから」
「・・・」
「そんなに思われてるのに・・・エナトリアは死んでないよ・・・クルバスを置いてさ・・・悔しいけれど・・・そう・・・思うんだ」
「ルル」
「勘違いしないでよね、好きって言ったのはアンタに話を聞いてほしくて思わず言っただけで本心じゃないから。本当だからね!」
ルルは顔を真っ赤にして言う。
「あぁ・・・分かったよ」
俺は聖剣を強く握る。
すると、先ほどのような暗い色ではなく
煌光剣としての名を思い出したように輝く。
「クルバス」
「ごめん、皆。迷惑かけた」
「いいってことよ」
ギルシュバインは親指を立てる。
「デンジャッタは?」
俺は尋ねる。
「レスキィが追いかけてる」
ギルシュバインが答える。
「今すぐ向かおう」
「あぁ」
「えぇ」
俺とギルシュバインとルルは幻惑魔導士を追いかけるのだった。
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