精神病棟脱出

唐草太知

文字の大きさ
1 / 1

精神疾患

しおりを挟む
俺は昔、精神病ってものをバカにしていた。あんなのは甘えであって、人は気合で物事を乗り越えられるものだと。結局のところ、何かを言い訳に仕事や学校を休んでるのは甘えるための言い訳に過ぎないと・・・そう・・・思ってたんだ。

しかし、俺はある日統合失調症って診断をされる。これは幻聴や妄想に苛まれる病気らしい。だが、俺は精神科医の先生って言う人にそんなことを言われてバカなって思ったんだ。生まれてこの方、幻聴や妄想なんてものを知らないで生きてきたからだ。
「俺は病気じゃない!」
テーブルを強くバンと叩いて怒りの抗議をする。
俺は取調室のような場所でそんな診断を受ける。窓には鉄格子がついており、まるで囚人のような扱いだと思った。
「認めたくないのは分かりますよ、でも安心してください。そのために我々がいますので」
白衣の着た男は淡々と物事を告げる。
「だから、俺は病気じゃないと何度も」
「ふぅ、まずは病気を認めて貰わないと・・・治療は無理ですね」
「このやぶ医者が!
てめぇみたいな人間が医者になれるんなら医師免許ってのは随分と簡単にとれるんだな!」
俺は胸倉を掴む。
気に入らないので殴ろうと思ったその時だった。
「警備いいいいいいぃぃぃぃん!」
白衣の男は叫ぶ。
すると、扉が開いて大勢の男たちが俺の事を取り押さえるために入ってきた。
「止めろ、離せ!」
「この男は患者だ、あの島に運べ」
白衣の男はそう告げる。
「了解」
警備員と呼ばれた男たちは俺に袋をかぶせて俺のことを殴った。俺はその衝撃で気絶してしまったのだった。

ふと、目を覚ます。
潮の香りがする・・・そして波打つ音も・・・ここは。
俺は突然、頭に被せられた袋を外される。その瞬間、太陽の光が俺の顔に当たって眩しさを感じる。
「ここは・・・」
俺は突然、島に連れてこられた。ここがどこなのか俺には分からない。
「歩け」
警備員の恰好をした男に俺は連れていかれる。手錠もされて、複数人の男たちに囲まれて反逆の意思を俺は奪われていた。勝てない・・・そう思わせられたからだ。
「なんで・・・俺を」
「治療のためだ」
「俺は・・・病気じゃない」
「悪いが、精神病患者の言葉は信じないことに決めてる。奴らはイカれてるからな」
「俺は・・・まともだ」
「イカれてる奴らは皆そう言うんだ」
誰か・・・誰か居ないのか。
俺が精神病患者じゃないってことを信じるやつは。
「さぁ、ついたぞ」
「ここは」
「今日からここがお前の住処だ」
それは巨大な病院に見えた。
「ここが・・・」
「ここでお前がまともになるまで先生たちが面倒見てくれる感謝するんだな」
俺は病院の中に連れていかれる。病院とは言ったが、中身は全然違うように思えた。カギのついた扉を何度も開けて、監視カメラが無数に設置された部屋を通り抜ける。まるで監獄じゃないか、ここから人を出してはいけない。そんな強い意志を感じる。
「入れ」
「ぐっ」
俺は警備員の男に突き飛ばされる。
「中に居るやつに手錠は外してもらえ」
そう言って警備員の男たちは扉にカギをかけて去っていったのだった。
「大丈夫かい?」
患者服を着た少年に話しかけられる。
「俺は・・・まともだ」
「まとも?」
「精神病になんて・・・かかってないんだ」
「そうみたいだね、君はまともだ」
「本当・・・か?」
俺は初めて言葉を信じてくれる人に出会った。
「あぁ、信じるよ」
「ありがとう、でもどうして信じてくれたんだ?」
「分かるよ・・・だって僕は患者だからね」
「え・・・?」
「精神疾患を抱えてるんだ、だから正常な奴は分かる・・・」
「なんてこった・・・」
俺は頭を抱える。
俺が正常だと思ってたやつが誰も俺の事を信じなかったが、ただ1人俺の事を信じてくれたやつが居た。俺が今まで馬鹿にしていた精神疾患の男だった。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうしてそこにトリックアートを設置したんですか?

鞠目
ホラー
N県の某ショッピングモールには、エントランスホールやエレベーター付近など、色んなところにトリックアートが設置されている。 先日、そのトリックアートについて設置場所がおかしいものがあると聞いた私は、わかる範囲で調べてみることにした。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/10:『うでどけい』の章を追加。2025/12/17の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/9:『ひかるかお』の章を追加。2025/12/16の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/8:『そうちょう』の章を追加。2025/12/15の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/7:『どろのあしあと』の章を追加。2025/12/14の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/6:『とんねるあんこう』の章を追加。2025/12/13の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/5:『ひとのえ』の章を追加。2025/12/12の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/4:『こうしゅうといれ』の章を追加。2025/12/11の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

モンキー骨董屋

まさし
ホラー
古びた商店街の一角にある小さな骨董屋 「古道具 モンキー商會」 店主ブルーノの"イケナイ常事" 覗いてみませんか

処理中です...