進藤桜は舞い落ちる花びらを眺めてため息をつく

くろねこ教授

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第6話 ……に似た少女

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「落ち着いてくれ。
 あのペンダントは実は……
 教師に取り上げられたんだ。
 職員室にある筈だ」

良くそんな言葉が自分の喉から出てきたものだ。
進藤桜は自分自身に感心する。

そして桜は懐中電灯を手に、一階を目指して階段を下りていくのだ。
意識を向けると後ろに茉央に似た存在が着いてくるのが感じられて。
恐ろしくて振り向けない。

桜が階段を踏むトントンと言う音に続いてトントン降りて来る。
木の床を踏みしめるキィーー、という不気味な音も続く。

幽霊なのに足はあるのか。
いや身体は御門茉央なのだ。
超自然的存在なのはその精神の中にいる。

そうだ。
茉央も桜も高校生。
思春期の少女が精神のバランスを欠いて。
不安に取り憑かれるなんてよく聞く話。
現状もそれなのでは無いだろうか。

そんな事を思って見ても。
木造の建物を一人で歩いて行く自分。
その後ろを何も言葉を発しない存在が着き添うように歩いてくる。
この状況は何も変えられない。

職員室に辿り着いて。
先程似たようなペンダントを見たのは何処だったか。
桜が辺りを見回すウチに。
茉央に似た存在が机の上から何かを取り上げた。

それは瑪瑙のペンダント。
茉央だった存在の胸に揺れているそれと全く同じ造り。

茉央だった存在、その髪の毛から覗く気配が桜に焦点を当てて、その手に持ったアクセサリーを差し出して来る。

「えーと、
 着けなきゃ駄目かな?」

何かを期待してる気配を感じて訊いてみる。
目の前の存在は頷いている。

えーと。
冷静に考えると……茉央がおかしくなったのはあの教室で見つけたペンダントを着けてからの様な気がする。
すなわち……これを首に着けると……桜も危ないのでは。

桜が逡巡していると。
目の前から注がれる視線が厳しくなったような気がする。

「分かった!
 着ける、着けるよ」

もうどうにでもなれ。
そんな気持ちでロケットペンダントを頭から通す。
少し冷えたそれは桜の頭をするりと通って首元に。

「お姉さま!
 嬉しい、やっとお姉さまに逢えた」

茉央だった存在が桜の胸に飛び込んできて。
フワリと髪の毛から立ち昇る香りが桜を少し幸せな気持ちにするのだけれど。
この黒髪の持ち主は現在茉央では無かった。
空洞のような瞳の真っ黒な存在。
少女の肩に手をやって少し距離を取ろうと押しやる。
すると黒髪の持ち主は顔を桜の方に少し持ち上げて。

それは。
整った顔立ちの可愛らしい少女だった。

真っ黒な顔では無くて綺麗な少女。
御門茉央に似ている。
見惚れてしまうような目鼻立ち。
でも少し違う。
前を睨む、光が漏れるような意思の強い瞳では無く。
そこはかとなく不安そうな面差し。

彼女が桜の間近から見上げる。

「お姉さま!
 やっとお会いできた。
 ずっと淋しかったんです。
 一人きりで……
 この校舎で……」

ああ、茉央じゃない。
と桜は納得する。
淋しかったなんて、そんな弱音を茉央が吐くところなんて、想像も出来ない。
 
「何故……
 わたしを一人にしたんです……
 ……お姉さま……」

「何故いないの。
 貴方はこの校舎に……」

先程まで泣きだしそうな顔をしていた少女。
少女の様子が少しばかり不穏だ。
また、目が暗く、黒くなっていくような気がする。

「私を一人にして……
 お姉さまは何処に行ってしまったの?
 ……いない……いない……
 どこにもあの人がいない……
 何故、これで二人きりになれる……
 そう言ってくれた筈なのに……」

そうだ。
茉央が言っていた。
二人の心中した少女。
ところが三年生は生き延びて、二年生は亡くなった。
その二年生の霊が出ると。

……すると。
桜がその二年生を騙して自殺させて、自分だけ生き延びた先輩だと思われている?!
違う。
違う。
桜にそんなサスペンスドラマの悪役のような真似は出来はしないのだ。
平和な生活になれた小市民なのだ。
少しばかり御門茉央やクラスメイトに辟易としていたところで殺すなんて単語は頭から出て来やしない人間なのだ。

そんな言葉はスラスラと喉から出てきてはくれない。
暗い何も映さない瞳に気圧されて黙り込むだけの桜なのだ。
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