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その6 危険な瞳

第92話 悪夢に囚われた

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エステルちゃんの苦しそうにゃ声が漏れる。

「パパ、パパ。
 あたし、あたしはバケモノなんかじゃない。
 信じて!」

バケモノ?!
ライールさんがエステルちゃんをバケモノ扱いしたコトが有るって言うの?
嘘でしょ。
信じられにゃい。
ライールさんてば、エステルちゃんを猫っ可愛がりして。
甘やかし放題。
船旅で逢えにゃい時間の分、家に帰ってきた時はたっぷり愛情を注いでるわ。
そんにゃライールさんがムスメにバケモノにゃんて言葉を放ったとは思い辛い。
にゃにか幻覚を見せられてるんじゃにゃいかしら。

わたしはエステルちゃんにくっつく。
黒猫の柔らかい身体をピッタリと寄り添わせ。
少女の心臓にわたしの額を擦り付ける。

「みゃー」

エステルちゃんの身体がピクっとする。
一瞬前まで心臓が早鐘を打つように動いていたんだけど。
少しづつ静かににゃってくるよう。


「あ、ああああああ!」

だけど、エステルちゃんはまだ苦しそう。

にゃにを考えてるの?
わたしに少しだけ見せて。


そう思った途端。
わたしの意識は吸い込まれるように何処かへ連れ去られた。


そこは暗い空間。

小さい幼女が泣いている。

「パパ、パパ。
 何処行っちゃったの?」

「ダメよ、エステル。
 泣かないで。
 パパは砂船乗りシンドバットなの。
 お仕事なのよ。
 しばらく帰ってこないわ」

「……いや!
 じゃあ!
 あたし砂船乗りシンドバットになる。
 それでそれで。
 あたしパパと一緒に船旅をするのよ。
 そうしたらいつも一緒だわ」

そう言うエステルちゃんの身体は少しだけ成長している。
さっきまで立つのもやっとと言った小さな幼女だったのだけど。
もう一人で幼稚園に通えるくらいね。
だけど、誰かの声がする。

「ダメよ、エステル。
 女の子は砂船乗りシンドバットにはなれないわ」

「どうして?!」

「どうしてもよ」

ヘレーナさんの声に少し似た声。
けれど声は冷たく歪んでいる。
本当のヘレーナさんの声はもっと優しい。
エステルちゃんへの愛情が詰まった声。
今響いてる声にはそんな愛情は一欠けらも感じられない。


「アンタ、生意気ね」

また別の声がする。

「白い肌、フーンキレイじゃない。
 だけどこの国には似合わないわ」

「なんで、なんで肌が白いだけでナマイキなのよ」

「この砂の国には似合わないからよ。
 アンタ、ホルムスの住人じゃ無いんでしょ」

「そんなコト無い。
 パパは元エウロペの人だけど。
 現在じゃホルムスの砂船乗りシンドバット

「へー。
 そのパパってのは何処にいるのよ?」

「……それは……」

「へー、いないんだ。
 ずっと帰ってこないのー?
 フフン、ホントはアンタのコト好きじゃ無いんじゃないの?
 だから帰ってこないんだわ」

「……違うもん……
 そんなコト無い……」

「でも……パパはいないんでしょ」
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