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【3】氷の修道院
【3】氷の修道院……⑰
しおりを挟む「マリア様、地下の話を聞かせて」
「地下の?」
満月に照らされながらクランベリーが密生する丘を少し登り、双子がそこにある岩へ腰を下ろすよう案内してくれた。ミアを見つめる皆の瞳がキラキラとしていて、期待されているのがわかる。その中にはエフレムの姿もあり、胸の前で両手を握り合わせる仕草が可愛らしい。ミアとは同じ男でも質が違った。
ミアはふと、あの地下の『死の扉』に彫られていた文字を思い出す。
――我々は、いついつまでもあなたの帰りを待っています。
ここの。いや、獣人は皆、人間が好きなのだ。
人間は地球が悲鳴を上げるまで使い果たした。手に負えなくなったら放り出し、またそれを手に入れようとしている。
地上へ来て、太陽を初めて見た。九百年前は狂ったように、地上を焼き尽くしたと聞いている。
春には桜が咲き乱れ、手洗い場の水の湧き出る瓶の底に生い茂る梅花藻が、水中で可愛らしい白い花を揺らしていた夏。秋には葉っぱの色が赤く燃えるようで、冬には街角で落ち葉を集めて焚火をする獣人の姿を見た。
初めて経験した春夏秋冬に、ミアは飽きることがなかった。
(人間は、なんて浅ましいんだ……)
地震で不安がっている獣人に何か面白いことを話そうと思っても、もともとオセのように融通の利く性格ではない。
ミアは星の輝く空を見上げた。
「――地下で人間はひとりで生まれ、トイレが出来るようになると寄宿舎に入るんだ」
「ひとりで?」
「マリア様には、パパとママがいないの?」
「いるけど、どこの誰かは分からないんだ。たぶん、偉い人は知っていると思うけど」
「偉い人?」
双子の名前はアントンとヴァジムと言う。改めて自己紹介された二人は、ミアに抱きついてくる。他にもモジモジとしている子供たちがいた。両手を広げると、それに応えるようにミアの周りには子供たちが集まってくる。
「君たちにとって、辺境伯やアルマ様は偉い人だろ」
「辺境伯もアルマ先生もたくさん遊んでくれるし、悪いことしたらたくさん怒られるし、夏のお父さんみたいな人」
「夏の?」
「ここは冬はうんと寒くなるから夏の間だけ、僕らはここに集まるんだ」
「家族だよ」
――家族。
言葉は知っているが、ミアにはうまく理解ができない。
助けを求めたアルマは怪我人の傷を診ていたが、時折、こちらを見て微笑んでいた。
「家族か……、素敵だね。地下は地上の十分の一くらいの場所しかなくてね、自由に人数を増やせないんだ。だから、死んだ数だけ子供が作られる」
ミアは虚しくなってきた。誰もこんな話、楽しくはないだろう。話下手な自分に閉口しながら、ミアは何か面白い話ができないかと思いあぐねていた。
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