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【5】巡る記憶
【5】記憶……②
しおりを挟む食堂へ寄り、ドライフルーツとサンドウィッチをもらった。
「ミアは、あまり食べないよね」
「そもそもジェリー以外、食べることを禁じられています」
「なーんでだ?」
外へ出ると、アルマがミアに質問を投げかけて来る。
「と、おっしゃいますと」
「なぜ、人間はジェリー以外食べてはいけないの?」
「それは完全栄養食だからです。地下では伝染病が恐れられていて、免疫機能を向上させる成分も含まれているからです」
「はい、百点!」
修道院の裏手から出て、傾斜の緩やかな砂利道を登っていく。
「あのジェリーには、欲を低下される成分が含まれているのは知ってる?」
「知りません」
「前に人間が飲んでるジェリーが気になって仕方なくて、ゴミを漁って調べたことがある」
地上へ人間が持ち込むものについては、厳密なチェックがされる。その中でも、ジェリーの吸い口がプラスチックのソフトボトルは獣人から毛嫌いされ、ゴミを地下へ送ることになっている。一か月分溜まると圧縮され地下へ送られるのだが、あの何気なく捨てていた容器を漁る獣人がいるなんて思わなかった。
「ああ……、ミア。そんな顔をしないでおくれ。研究者の性じゃないか。俺は見たんだ。首都で見たことのない動物だって、猫を屋根の上まで追いかける人間を」
「三毛猫ですね。新種かと思って追いかけたの、私です」
真面目に答えるミアをアルマは、笑っていた。
「本題に戻ると、いわゆる鎮静作用のある成分が含まれているんだ。ーー性欲、食欲、睡眠欲をコントロールされている」
本当かどうか信じがたいが、ジェリーを飲まなくなって『腹が減った』感覚があるように思う。現に今も、油紙に包んでもらったサンドウィッチから良い匂いがして、気になって仕方ない。
「何の為か、までは俺は人間ではないから分からない。ただ特権階級である人間は会談の時に我々と同じ食事をする。不慣れなことは無い。ふだんからナイフとフォークを使い慣れている感じがする」
アルマが言う特権階級は、派遣試験に合格したミア達のようなレベルではなく、首脳クラスの話だ。今年は、離任式のタイミングで会談が行われると聞いている。
「アルマ様がおっしゃる特権階級は、ジェリーを飲んでいない」
「そうだと思う。しかも、会談の休憩の時にこんな話をしていた。『君のところではオメガを何人、飼っているか』って」
「――なぜ、そんな話を私にするのですか」
ミアは止まってしまった足元を見ていた。
「ミアは優秀だから、いつか俺たちと会談する席につくのかなって思ったんだ。正直、地上回帰の話し合いはここ何年か、こじれてる。ミア達の代の式典に我々が出席したのは、お互い歩み寄る必要があると感じたからだ」
「私に政治は、わかりません」
「だね、猫を屋根まで追いかけちゃうんだものね」
再び歩き出した二人は、かれこれ修道院を出て三十分は坂道を上っている。ミアの腹からグーッと聞こえ、アルマは笑っていた。
「森に入る前に、そのサンドウィッチをいただこうか」
ミアが大事に持っていた油紙に包まれたサンドウィッチをアルマが指さした。
「腹が鳴った……」
「初めて?」
「初めてです」
アルマに誘われ隣に座ると、見下ろした目の前に広がる光景にミアは息をのんだ。
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