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【6】起爆
【6】起爆……③
しおりを挟むその場にミアは、たったひとり取り残されてしまった。
強い風が吹く。焚き火から火の粉が舞い上がり、目深にかぶっていたマントのフードが外れ、ミアの白髪が風になびいた。
先ほどまで獣人がいたから気づかなかったが、彼らが立っていた運河に面した建物は水門のようになっている。そこを舐めるようにして水が流れているのだ。
ミアは石を拾って川面の中央へ向かって投げ、耳を澄ました。
(1……、2……、3……)
と、石が何かにぶつかり着底する音がかすかに聞こえた。別のところでも試してみたが、底へ到達する秒数が違い、水門前はかなり傾斜をつけて作られている。門が開けば川幅から考えるに、かなりの水量が勢い良く流れ込むだろう。ただし、それも今だけの話。冬になれば、シャノンの言う通り全てが凍りつく。
「確かに採水と言うには、少し大がかりのような気もするな」
問題は、この水門の先がどうなっているか、と言うことだ。そこをオセが、やけに気にしていた。誰もいなくなったのをいいことに、ミアは茂みに入って水門の端の鉄柱によじ登った。錆びなどは一切なく、元からの設計ではなさそうだ。
中を覗き込むが、真っ暗で何も見えない。と、ぼんやりと灯る明りが見えた気がしたミアは、右目を手のひらで覆い隠し、暗闇に目を凝らした。
その灯りは下へ、下へと降りて行っている。
(ここは『死の扉』があったところでは……)
修道院が広すぎて、位置関係を把握するには時間が足りていなかった。そもそも、こんな事を気にも止めていなかった。
確かに、あの円柱状の地下なら水を貯めておくにはちょうどいいだろう。しかし現存する死の扉は、首都とここにしかない。だから人間が地上へ戻るとき、重要な役割を果たすのではと考えていた。
「万が一、底が抜ける様な事があったら……」
ミアは正直、ゾッとした。酸素も電気も地下の全てはAIによってコントロールされている。点在するシステムに水が流れ込むことを想像するだけで、地下で何が起こるか容易に想像できる。その上、地下は袋小路なのだ、もしもの時は人間に逃げ場はない――。
それは、シャノンも知っていて当然の事だと思う。しかも、この運河建設は彼の肝煎りだとヴィラジーミルが言っていた。
「なぜそんなことを」
ミアは走って戻り、大聖堂の扉を開けた。
食堂内は様々な果実酒がふるまわれ、いつも以上に豪勢な食事がブッフェに並んでいる。そこにシャノンの姿が見当たらなかった。
血相を変え食堂内でシャノンの姿を探すミアに気づいたのか、エフレムを始め女性たちと楽し気に食事をしているオセと目が合った。
『何かあったのか?』と、声を出さずに唇を動かすオセの姿にミアは首を振った。
何事もなかったように獣人に話し掛けられれば笑顔で答え、ミアはオセに気づかれないよう獣人たちに紛れ食堂の出口へと向かった。
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