獣人辺境伯と白い花嫁~転化オメガは地上の楽園で愛でられる~

佐藤紗良

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【6】起爆

【6】起爆……⑭

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 今夜、アルマの話を二人で聞こうと約束して、シャノンは少し仕事があるからと執務室へ戻って行った。

 部屋へ向かったミアは、なんだかとても心が穏やかで満たされていた。しかし、シャノンとの仲が親密になったからと言って、パライバトルマリンのブローチが出てくるわけではない。おそらく、失くしたと言ってもシャノンは気にしないだろう。ただ自分が、物を大切にしない人間だと思われたくないのだ。だから、今日も捜索は続く。

「いつからないのだろう」

 すでに、室内のあらゆるところを探している。最後にブローチに触れたのは、シャノンを追いかけて地下の『死の扉』へ向かった時だ。

(やはり、シャナにあの扉を開けてもらわないと無理か……)

 ミアは自分がシャノンのことを心の中で『シャナ』とごく自然に呟いていることに、口元を歪ませニヤついて、ふかふかのベッドへ飛び込んだ。

「シャナ、シャナ……!」

 枕元にあるクッションを二つほど胸に抱え、あっちへゴロゴロ、こっちへゴロゴロと転がってミアは笑っていた。

「な、何をしているんだ、私は。気色悪い」

 その原因と思ったクッションを力強く放り投げると、ミアは何もなかったかのように天蓋の星座を眺めた。が、緩んだ顔を引き締めようにも、どうにも頬が綻んでしまう。

 ここのところ、おかしいのだ。

 シャノンの言葉や仕草で気分が上がったり、下がったり。でも、あの瞳に見つめられれば、そんな不安定な気持ちはどこかへ行ってしまう。シャノンの事ばかり考え、頭のなかはいつも彼の事でいっぱいだった。時には、あの逞しい肉体をねちっこく思い浮かべている事もある。

「マリア様」

「は、はい」

 ノックとともに聞こえたのはヴィラジーミルの声。ミアは慌ててベッドから起き上がり、髪を整えながら返事をした。

「今夜の夕食は、辺境伯もこちらへ用意しておいて欲しいと言う事だったので、テーブルの準備をさせてください」
「シャナが……?」

 運河が完成して獣人の数が減り、何日か前から各自部屋で食事をするようになっていた。この部屋には毎食、ヴィラジーミルがワゴンで食事を運んで来てくれる。

「何か良い事がありましたか」
「ええ、まあ」

 ドアを開けたヴィラジーミルが眼帯のついていない方の目を細めて微笑んで、ワゴンを押して入って来た。

「まだ夕食までには時間があるので、軽食もお持ちしましたよ」
「ありがとうございます。ヴィラジーミル、このテーブルの位置を変えたいので手伝ってくれますか」

「良いですよ」

 暖炉のすぐそばへ置かれている円卓は、特等席で温かい。そこで地下へ持ち帰るレポートを書いたりしていた。

「暖炉から少し離したいのです。シャナが暑がると思うので」
「マリア様は素敵な気遣いができる方ですね」

「間違っていませんか?」

「間違っていませんよ。辺境伯も楽しい時間が過ごせると思います」

 掛け声とともにテーブルを持ち上げようとするが、重くてビクともしない。仕方なく、ふたりがかりで押して動かしたテーブルへ、ヴィラジーミルはクロスを広げた。アプリコット色したそれは、いつかのデザートで食べたシャーベットと同じ色をしていて、首都で見た紅葉した葉っぱをほのかに連想させた。

「バイカル湖へは、いつ発たれるのですか」
「マリア様とオセ様が首都へ発たれるタイミングで辺境伯も会談があるので、それまではおりますよ」

「……そうですか」

 ヴィラジーミルが綿の手袋をつけ、ナイフとフォークを並べていた。そして、銀杏いちょうの葉をかたどった金細工が美しいリングで留められたナプキンを置いていく。
 
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