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【9】花火と金平糖
【9】花火と金平糖……⑧
しおりを挟む「どうかしましたか」
「ミアは自覚がなくて困るな」
「何がです」
「さっきの店で目つきの悪い奴らがミアのこと、ジロジロ見てたの気づいたかい?」
「そんな人、いましたか」
「ミア。そんなで、今までどう生きてきたの。首都で変なことされたりしなかった?」
「変なことって、何……?」
ミアに自覚がないのは、仕方がないかもしれない。
シャノンが着任式で見たミアは、まだ子供だった。アルファであったし、性の対象となるなんて夢にも思っていなかっただろう。それがヒートを経験してからと言うもの、妙な色香を醸し出すようになった。それがどんなものか説明するのは難しいが、無性に獣性を刺激される。今のミアを庇護なしで首都へ放り出したら、何が起こるかわからなかった。それはシャノンだけが感じているわけではない。アルマも「ミアをひとりで行動させるのは危険だ」と言っていたし、運河建設に携わっていた獣人の中に、ミアをそういう目で見る者もいたのは事実だ。だから工事を一日も早く終わらせたかった。
「んー……」
ミアのオッドアイは魅惑的だ。さらにアルビノとなれば、その珍しさに身の危険は免れない。獣人の世界にだって闇はあるのだ。そんなことを思ってシャノンは頭を抱えていたが、当のミアは意味が良くわからず、首を傾げるばかりだ。
「なんでもない。みんな、ミアのことオーロラって言っていたね」
「はは、目の色のことですかね。マリアにオーロラ、欲しかった名前がいっぱいだ」
「確かにミアは、冬の北極圏を連想させる」
「オーロラか……、見てみたかったな」
何もないところでつまずいて肩を抱かれたミアは、ごく自然にシャノンの腰に腕を回した。
「他にしたいことは、何かある?」
「極夜を体験してみたかったです。どんな感じなのかな……」
呂律が回らず、いつもより話し方が砕けた感じのミアの頭の中はふわふわとして、楽しい気分だった。
「太陽が昇らないから、昼でも薄暗いんだ」
「あと、流氷に乗ってみたかったです!」
ミアはシャノンの話に相槌を打つ間もなく、良くしゃべった。
「あれは乗るものではないでしょ。流されちゃうよ」
肩にあるシャノンの手の甲を、ミアの人差し指と中指がテクテクと歩く。
「流氷に乗ってぇ、運河を下って」
「少し飲ませ過ぎたかな」
「そしてミアはシャナにたどり着く」
ふふっと笑ったミアは、隣りを歩くシャノンに抱きついた。
「ミアの酔っ払い」
「酔っぱらってなんかないもん」
「酔ってる奴ほどそう言うんだ。それにミアのしゃべり方、可愛すぎる。ほんとに危ない」
「わっ」
不意にシャノンに抱き上げられたミアは、驚いて足をばたつかせた。頭上でシーっと言ったシャノンを見上げる。と、その向こうに見えたまん丸なお月様が雲に隠れたのかと思ったら、熱い唇がミアの額に触れた。今まで感じたことがないほど胸がドキドキして、そこがひりついて痛い。
「はあ……。ミアのさくらんぼみたいな唇にキスしたいな」
「……」
「なーんてね、冗談」
歩き出したシャノンのマントをミアはギュウッと握りしめていた。
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