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【9】花火と金平糖
【9】花火と金平糖……㉑
しおりを挟む「ミア、りんご飴たべる?」
「……」
「ミア?」
シャノンは両手で大きな紙袋を抱えていた。その場で具材を選んでサンドイッチを作ってくれる店に二人で並び、露店で売られていたトリッパのトマト煮やワインも買い込んだ。
首都の獣人はシャノンを見れば辺境伯とわかるようで、果物を少し多めにくれたり、何やら困りごとを相談したりしていた。シャノンは、そのつど獣人たちの話に耳を傾け、ミアの前で見せる姿よりはるかに頼もしかった。
次第に彼の周りには獣人たちが集まりだす。距離を取ったミアは、少し離れたところからその様子をぼんやりと眺めていた。
(本当に今は、フェロモンの匂いがしないんだ……)
街角に立つミアをぎょっとした目で見る獣人はいる。それは容姿に驚いているだけで、首都へ到着したときのようなギラギラした視線は向けられない。むしろ、シャノンの匂いがするマントを羽織っていることで、彼らはミアを獣人と認識しているようだった。
「ミア!」
目の前に串に刺さった姫りんごが差し出された。周りをコーティングする琥珀色の飴が周辺のオレンジ色の明かりを反射させ、キラキラと輝いているように見える。
「りんご飴だよ、ミアにあげる」
ミアの近くを通り過ぎる子供が、大きなりんご飴を持って走って行った。
「大きいのが良かった?」
「いえ、これからご飯なのでちょうどいいです」
「あっちに砂糖菓子屋があったから見に行ってみよう」
シャノンの横を歩きながら、ミアはりんご飴を舐めてみる。いつもだったら手を繋いでくれるのに、と思いながらついさっき、シャノンがミアに触れることを嫌がっているような素振りを思い出していた。
「ダメダメ、ミア。これは、こう食べるの」
腰を丸めたシャノンは、りんご飴を少しだけかじって見せる。そして、口の周りについた砕けた飴をペロっと舐めて笑っていた。
「食べてごらん」
ミアがかじるとパリッと飴が割れ、シャリッとしたりんごの食感もあり、口の中で甘いと酸っぱいが混ざり合う。
(美味しい……)
空っぽだった胃が、なんだかヒリヒリした。
「ミア、どうしたの?!」
シャノンが慌てた様子でミアの袖を掴んで路地へ引っ張って行く。
(手を握ってくれない……。やっぱり、触れるのが嫌なんだ)
マントの端で目元を拭われ、ミアは涙が出ていたことに気づいた。
「……止まらない」
慌てて手のひらで何度も拭うが、あとからあとから溢れてしまう。
「りんご飴、痛かった?!」
「りんごの気持ち、ですか」
「違うよ、飴が凶暴な時があるから。割れて口の中の柔らかいところを攻撃してくるんだ」
「飴が攻撃って」
「口、切れてない?見せて」
「嫌ですよ」
「見せなさい」
シャノンの少し強い口調にミアが小さく口を開けると、なぜかふっと笑ったシャノンがミアの舌をペロッと舐めて行った。
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