獣人辺境伯と白い花嫁~転化オメガは地上の楽園で愛でられる~

佐藤紗良

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【10】奪還

【10】奪還……①

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 初めての自慰にどれくらいの時間、耽っていたか分からない。それがそう言う行為だとミアに自覚はなく、気持ちの赴くままに繰り返していた。


「ミア」

「シャナ……」


 やっと帰ってきてくれた、と微笑んだミアの顔が凍りつく。


「ミア、お疲れさまでした」


 シャノンのフェロモンの匂いがする服やシーツに埋もれていたせいで、てっきり彼が帰って来たのかと勘違いした。

「大丈夫ですか」

 ミアの周りを取り囲むようにして、制服姿の表情のない人間が立っている。話しているのは、街で声をかけられたヒロナカだ。

「なぜ……」

 ミアは混乱していた。慌ててシーツにくるまったが、自慰の途中で眠りに落ちてしまい、いつから見られていたのかわからない。

「我々は、人質の奪還に参りました」

「なぜ、ここにドクターが」

 顔も見られていないし、アバヤも着ていない。だから、気付かれていないと思っていた。

「先ほど、もしかしたらと思ってつけて来たのですよ。途中で見失いましたが、あれだけ辺境伯が派手に手を振っていたから助かりました」
「それにしたって」

「靴です」

「靴?」

「獣人は木靴を履いているので石畳で良く音が鳴る。我々はラバーソールなので足音が聞こえないので、ミアだと確信しました。あとでゆっくり話しましょう。時間がありません、従ってください」

「私は――」

 地上へ残ることは言えなかった。荷解きをしていなかったミアの荷物は運び出され、制服もなくなっている。

「計画は失敗に終わりましたが、あなたとオセの勇気ある行動をたたえ、武勲章が贈られます。さ、早く」

 なかなかベッドから起き上がれないミアを見たヒロナカは、周囲に指示を出していた。

「待ってください!」
「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ、安心なさい」

「ここにいなければいけないのです」

「可哀想に。正常な判断ができなくなるほど、酷い事をされたのですね」

 ミアの腕や首筋にあるキスマークの跡を見て、ヒロナカが眉根を寄せていた。

「違います!」
「落ち着きなさい」

 ミアを肩へ担ぎ上げようとした男ともみ合いになり、ヒロナカが舌打ちをしながら注射器を準備していた。手足をグッと押さえつけられ、袖をまくられる。

「何の薬ですか!」
「少しだけ眠くなる薬です。気持ちが落ち着くでしょう。ゆっくりおやすみなさい」

 針が腕に刺さり、薬剤が注入される。

「時間がありません、すぐに連れ出しなさい」

 抵抗するも、手足を縛られたミアは荷物同然に部屋から連れ出される。その視界には、壊されたドアノブが見えた。
 建物につけられていた馬車へ押し込まれる。何が起こったのか分からず、呆然とするミアの前にはヒロナカが乗り込み、カーテンは下ろされた。そして、雑踏の中を黒い馬車は走り出す。

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