124 / 153
【10】奪還
【10】奪還……③
しおりを挟む気がつけば、アバヤを着てベッドへ横たわっていた。だからここが、オークピアかは分からない。
オークピアはリオート修道院と同じように、元々は人間と獣人が建てた建造物だ。会議にも使われる大きなロビーの中央にはガラス張りの天井に届くほどのオークが茂り、石の床に木陰を作る。そんなイメージしかないオークピアにこんな陰惨な部屋があるなんてミアは知らなかった。
窓がなくひんやりとした室内。温度や湿度があまり変化しない部屋は、おそらく地下で間違いない。
(どれくらい時間が経っているのだろう……)
ミアはシャノンが関係を強要したことを頑として認めなかった。そのため、不本意な尋問を受けることになってしまった。
(オセの奴……、うまくやったものだな)
元はと言えば、派遣規定違反をしていたのはオセだった。それがいつの間にか、ミアが元凶にすり替わっている。以前のミアだったら猛省したはずだが、見聞を広めた今となっては派遣規定はそれほど重要なことには思えなかった。もちろん、姦通を含め規定違反に関しては認めざる負えなかったが、修道院の『死の扉』からの地上侵略については、まるでミアひとりに責任を擦り付け、幕引きを図ろうとしていることがありありと伝わって来た。
「獣人側はこちらの非を認めろと言って、協定を獣人優位に変えようとしているんだ」
「当然でしょう。私は派遣規定違反については認めますが、地上侵略については容疑を否認します。あんなこと、私ひとりで出来る事ではありません。私の専門は動物進化についてであって、工学ではない」
「君がスイッチになったのは事実だろう。それは獣人側も証拠を持って証言している」
「頻発していた地震については、どう説明するのですか。ーー何度も申し上げています。派遣前に私の目にそれらが埋め込まれたのです」
「地震など知らんよ。目の手術については、どこにもそんな記録がないんだ」
机を挟んで向こう側に座る男の胸には、勲章がたくさんついている。ニヤニヤと笑いながら向けられる舐めるような視線が不快で仕方なかった。
「全人類のために、責任は取るべきだ。でないと地上回帰が遅れてしまう」
「私は自分の信念を捻じ曲げたくありません」
淡々としたミアのこうした発言は時折、この人物を苛立たせるようで、はるかに年上だと言うのに暴言を吐くこともあった。が、ミアは意に介すことはない。なぜなら、ミアの頭の中はシャノンのことでいっぱいで、勝手に外へ出てしまったことや、彼の服をベッドへ集めてしまっていたことを怒っているのではないかと心配ばかりしていたからだ。
(ヒロナカの言うように、あれがオメガのヒート前の行動だとしたら……)
ミアはここへ連れ戻されたことよりも、もっとマズい状況にあるのではと考えていた。
昼夜を問わず、この尋問は続いている。窓がないせいで時間が分からないが、今にでもヒートが起こりえる状況なのではないだろうか。ここがオークピアだとしたら、同僚は皆アルファだ。首脳クラスの彼等だってー-。
「まあ、いい。たとえば君と辺境伯が合意の上で、と言うのならばそれでいいんだ。君は彼を黙らせるいいカードになれる」
「はい?」
「今回の責任を認めた君を極刑に処すると伝えよう」
「認めていません」
シャノンとの関係を政治に利用しようと考えるなんて思ってもみなかったミアは、表情を硬くした。
「辺境伯がそんなことで、今回の件の追求を止めるとでもお考えですか」
ミアが薄ら笑いを浮かべたことが気に食わなかったのか、手足が縛られていて飲めもしないのに机へ用意されていた水が入ったグラスを投げつけられた。床へ落ちたグラスが弾け、破片がミアの濡れた頬をかすめる。
「ずいぶんと辺境伯にご執心のようだね」
男がミアの前に立ち、顎を掴んで左右にふりオッドアイの瞳に見入っていた。
「まるでオメガだな」
「アルファです」
顎にあった武骨な手がオメガの華奢な骨格を確認するように首筋を撫で、肩へと降りて行った。
「アルファのくせに、男に抱かれたのだろう。どんな気分だった」
「辺境伯は優しく抱いてくださいましたよ。あなたなんかより、立派な――、申し訳ありません」
そこまで言ってミアが男の股間に目を細め、意味ありげに笑った。すると次の瞬間、肩あたりを蹴られ椅子ごと床へひっくり返ってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。
それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。
家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。
そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。
ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。
誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。
「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。
これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる