獣人辺境伯と白い花嫁~転化オメガは地上の楽園で愛でられる~

佐藤紗良

文字の大きさ
127 / 153
【10】奪還

【10】奪還……⑥

しおりを挟む

「皆様おそろいで、いかがされましたか」

「正式な謝罪に参りました」

 プカルルとアルマを従え、現れたのはライノだった。ライノは女性だ。どんぐりのような目の端には深いしわがあり、首から金の鎖がついた老眼鏡を下げている。真っ赤なスーツは白髪交じりの髪に合っていて、ヒールの高い靴を履いていた。

「それは既に、お受けしたはずですが」

「それでは気が治まらない。何事もきちんと向き合うのが我々のやり方だ」

 ライノの言葉はひとつひとつが重く、誰もが黙り込む。ミアもその雰囲気に気圧けおされそうだった。

「あなたが、ミアね」

「はい」

 指輪を握りしめたミアは、不意にライノに抱き締められた。その暖かさやお日様のような匂いに悔しさがこみ上げてきて、ミアは大声で泣きそうになってしまった。そんな心の内を分かっているかのように、ライノが優しく背中を摩ってくれる。

「辺境伯が大変、申し訳ありませんでした」

 ミアから離れ、腰を曲げずに深く膝を折って謝罪するライノの姿にミアはアルマに視線を向ける。すると、彼は小さく首を縦に振っていた。

 どうしたら良いのか分からず、ミアは片膝をつき胸に手を当て頭を下げ、その謝罪を受け入れた。

(私なんかに、こんなに優しくしてくれる……)

 プカルルに握手を求められ、何かを握らされた。ミアが手の中を見ようとすると、その隙を与えないようアルマに抱き寄せられる。「気づいてやれなくて済まなかった」と大袈裟に泣き出したアルマの性格を知っているせいか、ミアの目にはどうも嘘泣きにしか思えなかった。

(痛……ッ)

 首にチクンと痛みが走る。

 アルマがミアの首筋に何かを刺したのだ。泣くふりをしながら、チラチラとミアのことを見ているアルマは、ライノに肩を支えられながら離れて行った。

 三人になってしまった四長に付き添うヒロナカを見送って、ミアはトイレへ駆け込んだ。

 握りしめていた小さな布切れには、メモが書かれていた。そこには『シャナが見つからない、協力してくれ』とだけ、アルマの字でロシア語で書かれている。

 その布からシャノンの匂いがしたような気がして鼻へ当てると、こんな状況だと言うのにミアの身体は火照ってくる。

(協力って何をしたら……。この布と私の首に刺した針の説明を……)

 個室から出て鏡を見ると、頸動脈のあたりからわずかに肌が上気したような色に変わってきている。もうここまで来たら、これが何かの役に立つと信じるしかなかった。

 ミアは外で待たせていた男に礼を言って、オークピアの中庭に出た。

 久しぶりに浴びる日差しが眩しかった。同僚はすでに着席していて、ミアを見てコソコソと耳打ちしている。その中にはオセもいて、ミアを見てニヤニヤ笑っていた。

(あいつ、本当に演技だったんだ……)

 ミアは何もなかったかのように、指示された最後列の席へ着いた。が、半分は空席だった。離任と着任、同時に行われる式典に着任する者が来ていないのだ。

 始まる前にそのアナウンスがあり、今回の着任は見送られたことを知った。同僚たちはシャノンとミアのことを知っているようで、それが理由で派遣が中止されたと噂している。

『ミアが辺境伯に強姦されたんだってよ』
『ああ……。なんとなくわかる』

『獣人の裁判なんて、面白そうだな』

 そんな声が聞こえてきたが、ミアはメモが書かれた布を鼻に当て、胸いっぱい彼の匂いを吸い込んでうつむいていた。

 トクトクと鼓動が高鳴る。

 このまま地下へ帰還することが信じられないミアは、高い青空を見つめ目を閉じた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!

水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。 それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。 家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。 そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。 ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。 誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。 「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。 これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...