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【10】奪還
【10】奪還……⑩
しおりを挟むヒロナカが巨獣のシャノンを恐れている。
もしシャノンの変化の秘密を知っていたら、こんな手薄な警備にはしなかっただろう。
オセに多少なりとも、償いの気持ちやエフレムに対する愛情があったのだと信じたかった。
あれだけ虚偽の証言をしていたにも関わらず、四長の変化について報告されていないのは、ミアの目からも明らかだったからだ。
破壊にも近い力で、防弾ガラスのドアが手動でこじ開けられる。シャノンに恐れをなした珍しい毛色の獣人たちはアルマの呼びかけで、一斉に『死の扉』へ向かって行った。そこで四長に保護された彼らは簡単な説明ののち、アルマの抑制剤を打たれていた。
シャノンはある程度の広さのあるエレベーターホールも窮屈なようで、呑気に大きなあくびと伸びをして、身体をぶるっと震わせている。
「シャナ?」
旅をしたときのように、獣のシャノンから返事はない。じっと見つめられ、ミアは取れてしまった制服のボタンを隠し、緩んだスラックスのベルトを締め直した。ヒタヒタと近付いて来たシャノンは、彼からしたら小人のようなミアの髪や服をスンスンと匂いを嗅ぎ、うなじに湿った鼻先をぴたりとくっつける。
「ん……ッ」
冷たい鼻先にミアの身体は粟立った。襟元から舌をねじ込もうとして、固い襟をガジガジと前歯で甘噛みしている。ワイシャツのボタンを緩めると、涎を滴しながらベロっと大きな舌でミアのうなじは舐めあげられた。
「ミア……、危ないからこっちへ来なさい」
いつのまにかヒロナカはエレベーターまでたどり着き、懸命にボタンを押していた。それでもなかなか戻ってこないエレベーターに苛立ちながら、震える手で自らの拳銃に弾を込めている。
シャノンの首元に抱きついたミアは「大丈夫、落ち着いて」と小さな声で出来るだけ優しい声で語り掛けた。おそらく、今のシャノンには声が届いていない。そう感じたミアは、シャノンのフカフカの毛を撫で続けた。
「シャナ、ここを早く出ましょう」
シャノンの目はヒロナカを捕らえて離さず、そこから一歩も動こうとしなかった。
「シャナ……ッ」
首回りの毛を引っ張ってホールから出ることを促すが、シャノンの目の色が怒りに満ちるばかりでどうにもできなかった。
「アルマ様……、アルマ様!!シャナが動いてくれません」
刻々と『死の扉』が閉まる時刻が近づいてきている。
「その巨獣は、辺境伯なのですか」
「……」
答えないミアに痺れを切らしたように、ヒロナカがシャノンに銃口を向けた。
「やめてください!」
「その巨獣が辺境伯か聞いているのです!」
「だったら、何だと言うのですか。私のようにモルモットにでもするつもりですか。あなたのクローンとして生まれ、この歳になってオメガに転化して……。さらには私と子供を作ろうと考えたのですか、胸糞悪い」
ミアは両手を広げて、シャノンとヒロナカの間に立った。
「ミア、一緒に帰りますよ」
ミアの背後で、ガルルル……ッとシャノンの喉が鳴っていた。
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