獣人辺境伯と白い花嫁~転化オメガは地上の楽園で愛でられる~

佐藤紗良

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【10】奪還

【10】奪還……⑬

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「しかし、首都で起こってる誘拐事件が人間の仕業だったとはな」
「私も信じられません。地下に囚われている獣人もいるかもしれません。中枢部に協力者がいれば良いのですが」

 あれから数日。
 
 尻の注射あとの腫れが引かないシャノンを置いて、ミアはアルマと街へ出かけた。疑似ヒートだったこともあって数日でミアのフェロモンは治まったが、シャノンを置いて部屋を出るのもひと苦労。ミアは、今夜の夕飯の買い出しに行ってくると言って部屋を出てきたのだ。

「人間の地上回帰には、少し時間がかかりそうだ」

「そうですね。膿を出しきらなければ、また同じことを繰り返す。ーー私の扱いはどうなるのでしょう。アメリ様と違って生きていることは周知の事実でしょうし」

「それについては、まだシャナの了承を得られていないんだが近い将来、人間との交渉はアメリとミアにお願いできないかって、俺たちは考えているんだ」
「アメリ様と私が……?」


「もちろん、その席には我々もつく。今回のような事がないよう、全力で守る」


「そんなことが可能なのでしょうか……」

 クリスマス市がひらかれている今日は、街がいつも以上に賑やかだった。

「アメリもミアもおそらく人間の地上回帰に向けてのモデルケースになるだろうし、平和の象徴になれると思う」
「象徴、ですか?」

「こんな悪化した人間と獣人の関係の中で、愛を貫いたんだぜ。ロマンチックだと思わない?」

「ロ、ロ、ロマンチックって何ですか?」

 アルマは、露店に売られていた星を揺らして笑っていた。その瞳に街の明かりが映り込み、なんだか今日のアルマは楽し気で、はしゃいでいるようにも見える。

「アルマ様は好きな方はいらっしゃるのですか?」

「……」

 急に黙り込んだアルマが、ミアの事をじっと見つめていた。

「どうかしましたか?」

 星以外にも色々なオーナメントが売っていて、見ているとどれも欲しくなってしまう。


「……俺が先に出会いたかったなって思うんだ」

「はい?」


 ボソッと言われた言葉が街の喧騒で聞き取れず、耳を寄せようとするとアルマがオーナメントをいくつも手にしはじめた。

「アルマ様、どうしたのですか?!」
「何でもない。これ、買ってやるよ」

「そんなに?!」

 突然の行動に驚いているミアを置いて、支払いを済ませたアルマがオーナメントが入った大きな紙袋を手に歩きだした。

 シャノンとミアはもう少ししたら、修道院へ戻る予定だった。その前に指輪のお礼を買いたくて、例の鉱物屋へ連れて行ってもらう約束をしていたのだ。

「あの店だと思うんだ」
「街で声をかけた婦人がこの界隈だと言っていたので、間違いないと思います」

 路地裏に入り、アルマが木製の扉を開けた。ミアが想像していたよりもこじんまりしていて、親しみやすい雰囲気だった。

 薄暗い店内には色とりどりの鉱物がショーケースに並んでいて、まるでシャノンに買ってもらった砂糖菓子のようだった。が、指輪はどこにも見当たらない。

「いらっしゃいませ」

 店の奥から片眼鏡をつけた紳士が出てきた。オークピアから助け出された獣人も珍しい種族だったが、この店主もミアが見たことがない獣人だった。頭に目の覚める様な青い冠羽が生えていて、気品を漂わせている。

「不躾に申し訳ありません。この指輪はこちらのものですか」

 失くさないよう左手の薬指につけていた指輪を店主に見せると、少し驚いた顔をして微笑んでいた。

「辺境伯の奥様ですか」

「奥様……?」

 ミアがきょとんとしてアルマを見た。『奥様』の意味を教えられ、ミアは頬を染めてうつむいてしまった。

「良くわかりましたね」

 ミアの代わりに、アルマが店主と話してくれる。

「前に四長会談があったときに、辺境伯が持ち込まれたのですよ。確かに当店のデザインですが、こちらはずいぶん前の店主が作った指輪でして、辺境伯にはサイズを小さくして欲しいと頼まれたのです。ぴったりでしたね、良かった」
 
 指輪を見て、嬉しそうに何度も頷く主人が目を細め「お似合いです」と笑っていた。
 
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