獣人辺境伯と白い花嫁~転化オメガは地上の楽園で愛でられる~

佐藤紗良

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【12】ツンドラの初夏

【12】ツンドラの初夏……①

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「ミア、少し散歩しようか」
「まだ、ブリヌイを食べたいです」

「朝からずっと食べてばかりじゃないか。エレオノーラもミアを甘やかし過ぎだ。食べたいものを何でも作ってあげるんだから」

「このあいだまで気持ち悪くて、ほとんど食べられなかったのに今は食べてないと落ち着かなくて」

「なんだかおかしいよね。アルマが来たら診てもらおう」

 ツンドラが雪解けを迎えた頃、皆が修道院へ戻って来た。

 今は初夏ーー。

 冬の終わりから何の匂いを嗅いでも気持ちが悪い、と言って洗面器を一日中抱えて過ごしていたミアの顔色はすっかり良くなっている。

「行くよ、食べながらでいいから」

 シャノンが外の冷たい風を気にして肩へマントをかけてくれた。

「わかりました」

 欲張って、両手にブリヌイを持ったミアの姿を見たシャノンが苦笑いを浮かべている。

「なぜ、運河へ行くのですか」
「今日はプカルルとアメリが来るって言ったでしょ?」

「それは覚えていますけど、なぜ運河へ」

「人魚はどこにいると思う?」

「水の中です」

「そう!だから、出迎えに行くんだよ」

「人魚は淡水もいけるのですね」

 持っていたブリヌイをシャノンへ渡したミアは、ポシェットからメモ帳を取りだし書き込んでいた。
 ライノが到着したのは昨日、今夜にはアルマも首都から来ると言う。

「四長会談があるのですか」
「えっと……。あの、うん!そうだね」

 シャノンの挙動が明らかにおかしくなり、目が泳いでいる。ミアはそんな彼を嘘のつけない人なのだと思っている。

 廊下へ出ると忙しなく客人の部屋の準備が進められていて、大聖堂に関してはまだ食堂の準備が整っていないと立ち入り禁止だった。

「アメリ様もいらっしゃるのですね」
「子供も一緒に来るから、賑やかになるね」

 修道院の出入り口から外へ出ると、冬とは違ってかすかに植物が芽吹く匂いがする。と、城門のような入り口から行商の馬車が入ってくるのが見え、風に乗って甘い花の香りが漂ってくる。

「あの馬車は、花を乗せてるのですか」
「そ、そうみたいだね」

 行商の出迎えのために大聖堂から出てきたヴィラジーミルとシャノンの目が合った。お互い、なぜかひどく動揺していてヴィラジーミルがシャノンに対して「早く行け」とでも言いたげに、手を払っていた。

 ヴィラジーミルにしては珍しい。いつも温厚で穏やかに話す彼が、シャノンに対して怒っているようだった。

「ミア、そろそろプカルルが到着するから急ごう。こういうこと気にするタイプだから、あとから何を言われるか分からないのですね!」
「――シャナ、何か隠してません?しゃべり方、変ですよ」

「な、な、何も」

「もう!絶対、おかしい!」

 最初は騙されたふりをしていようかと思っていたが、ここまで誤魔化すのが下手だともっとうまくやれ、とつい言いたくなってしまう。

「わっ」

 困り果てたシャノンの苦肉の策だったのか、不意に抱き上げられ、ミアは咥えたブリヌイを落としそうになってしまった。


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