143 / 153
【12】ツンドラの初夏
【12】ツンドラの初夏……①
しおりを挟む「ミア、少し散歩しようか」
「まだ、ブリヌイを食べたいです」
「朝からずっと食べてばかりじゃないか。エレオノーラもミアを甘やかし過ぎだ。食べたいものを何でも作ってあげるんだから」
「このあいだまで気持ち悪くて、ほとんど食べられなかったのに今は食べてないと落ち着かなくて」
「なんだかおかしいよね。アルマが来たら診てもらおう」
ツンドラが雪解けを迎えた頃、皆が修道院へ戻って来た。
今は初夏ーー。
冬の終わりから何の匂いを嗅いでも気持ちが悪い、と言って洗面器を一日中抱えて過ごしていたミアの顔色はすっかり良くなっている。
「行くよ、食べながらでいいから」
シャノンが外の冷たい風を気にして肩へマントをかけてくれた。
「わかりました」
欲張って、両手にブリヌイを持ったミアの姿を見たシャノンが苦笑いを浮かべている。
「なぜ、運河へ行くのですか」
「今日はプカルルとアメリが来るって言ったでしょ?」
「それは覚えていますけど、なぜ運河へ」
「人魚はどこにいると思う?」
「水の中です」
「そう!だから、出迎えに行くんだよ」
「人魚は淡水もいけるのですね」
持っていたブリヌイをシャノンへ渡したミアは、ポシェットからメモ帳を取りだし書き込んでいた。
ライノが到着したのは昨日、今夜にはアルマも首都から来ると言う。
「四長会談があるのですか」
「えっと……。あの、うん!そうだね」
シャノンの挙動が明らかにおかしくなり、目が泳いでいる。ミアはそんな彼を嘘のつけない人なのだと思っている。
廊下へ出ると忙しなく客人の部屋の準備が進められていて、大聖堂に関してはまだ食堂の準備が整っていないと立ち入り禁止だった。
「アメリ様もいらっしゃるのですね」
「子供も一緒に来るから、賑やかになるね」
修道院の出入り口から外へ出ると、冬とは違ってかすかに植物が芽吹く匂いがする。と、城門のような入り口から行商の馬車が入ってくるのが見え、風に乗って甘い花の香りが漂ってくる。
「あの馬車は、花を乗せてるのですか」
「そ、そうみたいだね」
行商の出迎えのために大聖堂から出てきたヴィラジーミルとシャノンの目が合った。お互い、なぜかひどく動揺していてヴィラジーミルがシャノンに対して「早く行け」とでも言いたげに、手を払っていた。
ヴィラジーミルにしては珍しい。いつも温厚で穏やかに話す彼が、シャノンに対して怒っているようだった。
「ミア、そろそろプカルルが到着するから急ごう。こういうこと気にするタイプだから、あとから何を言われるか分からないのですね!」
「――シャナ、何か隠してません?しゃべり方、変ですよ」
「な、な、何も」
「もう!絶対、おかしい!」
最初は騙されたふりをしていようかと思っていたが、ここまで誤魔化すのが下手だともっとうまくやれ、とつい言いたくなってしまう。
「わっ」
困り果てたシャノンの苦肉の策だったのか、不意に抱き上げられ、ミアは咥えたブリヌイを落としそうになってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
夫婦喧嘩したのでダンジョンで生活してみたら思いの外快適だった
ミクリ21 (新)
BL
夫婦喧嘩したアデルは脱走した。
そして、連れ戻されたくないからダンジョン暮らしすることに決めた。
旦那ラグナーと義両親はアデルを探すが当然みつからず、実はアデルが神子という神託があってラグナー達はざまぁされることになる。
アデルはダンジョンで、たまに会う黒いローブ姿の男と惹かれ合う。
[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません
月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない?
☆表紙絵
AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
冷遇されたΩは運命の竜に守られ花嫁となる
花里しろ
BL
*誤字報告ありがとうございます!
稀少なオメガとして王都に招かれたリュカは、夜会で酷い辱めを受ける。
悲しみに暮れるリュカはテラスに出ると、夜空を見上げて幼い頃に出会った初恋の相手を思いその名を呼んだ。
リュカ・アレオンは男爵家の末っ子次男だ。病弱なリュカは両親と兄・姉、そして領民達に見守られすくすくと育つ。ある時リュカは、森で不思議な青年クラウスと出会う。彼に求婚され頷くも、事情がありすぐには迎えられないと告げられるリュカ。クラウスは「国を平定したら迎えに来る」と約束し、リュカに指輪を渡すと去って行く。
時は流れ王太子の番として選ばれたリュカは、一人王都へ連れて来られた。思い人がいるからと、リュカを見向きもしない王太子。田舎者だと馬鹿にする貴族達。
辛い日々を耐えていたリュカだが、夜会で向けられた悪意に心が折れてしまう。
テラスから身を投げようとしたその時、夜空に竜が現れリュカの元に降り立つ。
「クラウス……なの?」
「ああ」
愛しい相手との再会し、リュカの運命が動き出す。
ファンタジーオメガバースです。
エブリスタにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる