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告白⑥

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 彼女の経歴は少し変わっていました。特別枠や研究枠と言って男子の入学が認められている女子大付属高校の出身です。両親の不仲によって東京に引っ越し、そこしか編入の空きがなかったと聞いていましたが、こんな真実があったとは思いもよりませんでした。


「何度も母さんのテストに失敗して、でも琴里だけは特別だった」

 もしかしたら、わたくしはどこかで感じていたのかもしれません。

 彼女が『女性』とは浮気をしない確固たる自信。それは、そういったところからだったのかもしれません。ただ、わたくしは彼女の性の対象が『男性』もありうる事をまったく想定していませんでした。

「安住さん! 時間ですよ」

 彼女が重々しく返事をするのが聞こえました。母さんに見つかったら大変だから帰ってと言う声もします。

「琴里……?」

 彼女が踵を返し、こちらに向かって来ます。そして、彼女はわたくしの存在に気付きました。

 相手の男性――。

 それは彼女の実家の隣の庭にいた男性でした。

「ことり、さん?」

 彼女の実家に何度も訪れていますが、隣の家と隣接する窓にはいつもカーテンが引かれていて不思議に思っていました。

「ごめん……、タバコを吸おうと思って出て来ただけなの」
「そっか。行こう、琴里」

「好きになっちゃってごめん。私、あーちゃんのこと、大好きになっちゃって、あーちゃんがそれで苦しかったなら……、ごめんなさい。こんな格好までさせてもらって」

 わたくしは、こんなしおらしい女だったでしょうか。ガツンと躍り出てギャンギャンと喚くタイプの人間だったはずが、子供の頃のように人前に出るのが苦手でおとなしい本来の姿に戻ってしまっていたように感じました。
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