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告白⑦

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 どんな式だったか、なんて覚えていません。披露宴会場として予約していたレストランでの食事は味がなく、砂を噛んでいるようでした。

「……琴里、おかゆ作ったから食べない?」

 わたくしは、結婚式の晩から熱が出てしまいました。新婚旅行の予定は全てキャンセル。一緒に暮らしている学生時代から住んでいる彼女のマンションで静かにしていました。

 私の仕事部屋は以前、お義母さんが使っていた部屋で鍵もついています。その部屋の隅っこにマットレスを敷き、六月だというのに毛布に包まっていました。

「まだ食欲がない」
「琴里。もう二日も食べてないんだから、お願いだから出てきて」

「食べたくないの」

「ーー琴里、ずっと考えていたんだけど」

 ドア越しに鼻をすするのが聞こえました。

「琴里が、僕を気持ち悪いと思うなら」

 男女の婚姻と同じように同性婚の権利を認める法案が話題になれば、賛成、反対の意見を取材して記事にした事もあります。
 反対する人は、同性間の愛を理解できず嫌悪しています。気持ち悪いって。
 賛成する人は、異性間で愛し合える人間にとっては関係のない話なんですよ。自分とは関係ない人が少しだけ幸せになるだけです。幸せになる人が増えることに何の文句があるのでしょうかと言います。

 わたくしも後者の意見でした。

 自分と関係のない人がーー、であればなんです。

 腹が立っているかって?
 騙されたと思っているかって?

 不思議とそんな事は思いませんでした。ありのままを好きになったわけですから、彼女がトランスジェンダーであることは、髪に寝癖がついている程度の問題でした。
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