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告白⑧

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 わたくしはただ、落ち込んでいたのです。
 彼女の苦悩を知らずにここまで来てしまったこと、お義母さんのテストに利用されたこと。

 それにあの男性――、N。

 少なくとも想いを分かち合っていた時期があり、そこに割って入った自分がいると思うと、気持ちの収集がつきませんでした。

「まだ婚姻届は出していないし、話し合おうか」
「話し合うって、別れるってこと?」

「ねぇ、琴里。ここをあけて」

 のそりと起き上がり部屋の鍵を開けると、様子を伺うように静かにドアノブが動きました。

「琴里」

 ヨレヨレのTシャツに二日履きっぱなしのショートパンツ、雑誌の付録でついていた何かのブランドのシュシュで結った前髪は、噴水のようになっているわたくしを彼女は抱きしめました。

「熱、大丈夫?」
「うん……」

 ドアが開いて、女性の服を着た彼女が立っていたらどうしようかと思っていました。が、彼女は白のアンクルパンツにネイビーのサマーニット姿。いつもの彼女でした。

「僕ね、琴里がこの世で一番愛おしい存在だと思ってる」
「何言ってるの……?」

「いつも自信たっぷりで、男性とも対等に渡り合う琴里が、なんで僕なんかを選んでくれたんだろうっていつも思ってた。けどね、本当の琴里は、女の子らしくて食べてしまいたいくらい可愛らしい子なんだって、不謹慎だけど結婚式の日に改めて実感した」

「あーちゃん、苦しい」

「ごめん、琴里にこんなに会わなかったの久しぶりで、嬉しくてつい。気持ち悪かったよね」

 あまりにも強く抱きしめるので、わたくしは彼女の胸のなかで息が止まりそうでした。
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