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32 番外編・精霊樹のこども 最終話
しおりを挟む――それから
長い年月ののち、フロルとダレンは、共に過ごしたセルフィーユ領の大地で静かに眠りについた。
クマールは、自分を慈しんで育ててくれたふたりの父を同時に失ったことに、ごうごうと吠えるように泣いた。
その頃には、彼には愛する妻との間にたくさんのこどもがいて、みんなも一緒にわんわん泣いた。
素直で一途、純粋なクマールと、そのこどもたちは、その能天気さすら愛されて、セルフィーユ一族の中に深く根をおろすことになった。
「ねえ、フロルパパ。精霊樹に抱きつくと、とくんとくんって音が聞こえるんだよ」
「ぼくも聞こえるよ。クマールにこどもができたら、きっとその子にも聞こえる。ぼくらはつながっているんだよ」
そんな言葉も忘れられるくらい、遥かな時を経ても、精霊樹はセルフィーユ領に在り、見渡す限りの世界と、我が子クマールの血をひく者たちを見守っていた。
◇◇◇
その日、精霊樹は自分とつながる者が幹に抱きつくのを感じた。
相手からは、とくんとくんと心臓の鼓動が伝わる。精霊樹の脈動も、伝わっているだろうか。
久しぶりのふれあいに、精霊樹は眠っていた意識を引き上げた。
「ねえ、登ってもいい?」
(いいとも)
そのクマは、最初のクマによく似ていた。大きくて強そうで泣き虫の、人のよいクマだった。
あれからどれくらいのクマが生まれては消えていったのか、精霊樹は覚えていないけれど、みな一様にかわいらしいクマだった。
クマは、するすると上手に木に登りながら、精霊樹に話しかけていた。――うーん、久しぶりの会話にうまく言葉が出てこないなあ。……ぼく、話せるかな?
「おまえ、ご先祖さまなの? セルフィーユ領を見守ってるってほんとだったの? ごめん、ただの大木だと思っていた。じゃあ、オレの小さいときから知ってたりするの? ずっと登ってみたかったんだ。どこまで行けるかな」
クマは、ずっと話し続けている。彼の心の大部分を占めるのは、諦念に近い悲しみだった。
その感情は以前から伝わってきてはいたが、肌を合わせるとより深く伝わってくる。
「ここから先は、枝が折れちゃうかもしれないな。遠くまで見えるなあ。地平線まで見えるよ。……あのさ、オレ小さいころから好きな子がいてさ。今はどこにいるかわからないんだけど……その子もこの景色の中にいるんだろうか。元気にしてるといいな。会いたい……ジュール」
枝の心配をするクマに、精霊樹は苦笑した。――君の心のほうが折れそうで心配だよ。
「オレ、大人だから、あんまり泣いちゃいけないんだ。こんなに体も大きいだろ。涙が似合わないよな。それに、みんなが心配する。でも、おまえはオレよりすごく大人なんだろ。泣いてもいいよな」
「ご先祖様、ジュールのいる場所教えてよ……」
大きな体でしくしくと泣くクマは、とてもかわいそうで、かわいらしかった。
精霊樹は、ようやくはっきりした頭で思った。
――落ち込んで丸まったクマもかわいいけど、やっぱ元気なほうがいいな。仕方ない、手を貸してやるか。ちょっとだけ……
精霊樹は、世界を見通す目で、クマに道を示した。
「なんか光った?気のせいかな? でも、見に行ってくるな」
『……がんばれ……くま……』
「なんか聞こえた?オレ、熊みたいだけど熊じゃないよ……」
クマはするすると木を降りると、示した場所に一目散に走っていった。
さっきまで悲しみにくれていたクマの中に、なにかが灯るのを感じた。走れ、走れ。あきらめるな、我が子孫よ。――さて、久しぶりに話したら、なんか疲れちゃったな。ちょっと寝よう。
精霊樹は眠りについた。うつらうつらしながら、世界にクマがいることに、健やかに育っていることに安心して、また眠る。
また長い時がめぐり、まわる――
◇ おわり ◇
───────────
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
これにて、番外編は完結となります。
このお話に出てくるクマは、拙作『きみはぼくの明星』のフィートです。
第60話「つながる」とリンクしています。
話の主軸には関係ないので、読まなくても大丈夫です。
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感想ラストです〜🌬️🌳
番外編まで読み、うわーーーっ😭🎊👏となり間が空きました…😭
ナディク!敵か!? 味方か!? ………オタクだーーーっ🤣キャンディスもですが、まめ先生のキャラは「純粋」なので…ナディクの「純粋」な好奇心がフロル達にどう影響するのかハラハラしました😵💫
「愛の力」に納得していたセルフィーユ家にニッコリ😊そして!怒涛の!説明ターン✊💥大事なことだけど、何回言うんだナディク!🤣頭がいっぱいになっているダレン、思春期すぎる!🤣そしてついに出た〜🪣🍮✨️🙌
セッ…へのそれぞれの想い、テンポ、めちゃくちゃツボです!🤣いよいよセッ…のタイトルが「するよ!」なのも2人らしくて良き…😊
神秘的な開花シーンにうっとりしていたら!? 😳どこまでも予想外で不思議な命に驚き…ぎゅっとフロルの手を握るダレンの姿に、フロルが続くはずだった風守達の宿命と、優しく見守っていたセルフィーユの人達が秘めていたであろう想いが迫り、こちらもスマホを握る手に力がこもりました😭
色々なものを乗り越えて…祝祭の晴れやかさ!!!楽しい〜😆混ざりたい〜😆幸あれ〜〜🙌と読み返すたびに思います🥳料理長、ここでもグッジョブ👍私は料理長が大好きです…👍
そして番外編!「なんか中にいるよね」が気になっていて…精霊フロル!やっぱり🍮好きだよね!😂ちい兄ちゃん、パパになってる!🙌フロルとダレンのイチャイチャも良き…🙌領民を巻き込んでの新しい生命の誕生にワクワクしましたが…うわ〜〜〜😭読了後に湧き上がった想いは「また会いに行くからね」でした。
賑やかな精霊フロルが、クマ達やナディクのような人、領民達にずっと愛されていてほしい。またいつかまめ先生の中でセルフィーユの物語が生まれて、精霊フロルと再会できたらいいな。私も時々物語を読み返して、セルフィーユ領の人達や、自然、風…精霊フロル、あなたに会いに行くからね、と胸がいっぱいになりました🫂💕
「きみはぼくの明星」、実は双子兄’sが怖く止まっていたのですが、そうだよ精霊フロルがいる!と読む勇気が湧いてきました💪✨️
愛しい物語をありがとうございました💐
おビさま、ラストまでたどり着いてくださり、ありがとうございます!
丁寧にお読みくださり、楽しんでいただけたようで、とてもうれしく思います。
婚約破棄から始まったくせに、恋愛パートそっちのけのへんてこファンタジーになりました。
キャラクターを好いてくださり、ありがとうございます!
明星のほうは、面白いのかどうかわかりませんし、やたら長いので、いつかほんとにひまになったときにお読みください。
時間がもったいないかも。
小説を書いていて、自分の面白いは、必ずしも人の面白いとは同じではないと実感しています。
でも、また懲りずに駄作を生み出しますので、どうぞよろしくお願いいたします!
おビさま、感想ありがとうございます!
丁寧に読んでくださって、作者としてとてもうれしく思います。
このお話の魅了くんは、自分の欲に忠実で無邪気なんです。立場的には悪役ですが、かわいくて好きです。
お話が佳境にさしかかり、16話から新しいキャラクターが登場します。
引き続きお楽しみいただけると幸いです。
プロローグから第5話までの感想です🌬️🌱
優しい色彩の絵本のような。めくったページが起こすかすかな風を感じているかのようなやわらかい文章。
「セルフィーユ」という領名の語感や「風守」という存在、その宿命の持つ儚さに引き込まれました。
が。
まさかの🪣🍮!夢はでっかく🪣🍮!フロル、そこ!? そこなのかい!? 🤣ちょいちょい挟まるコミカルシーンにニッコリ😊
おや?もしかして?な「異世界テンプレ」の不穏な滲み出し方にもぞわぞわ😨
宿命を背負い、諦観を宿したフロルと、フロルを見守るフロル一家の愛情深いやりとりがせつないです🥲
やさしく清浄な風の描写とちい兄ちゃんが好きです🙌
また続きを読んだらこちらにお邪魔します〜🙌
おビさま、お読みくださりありがとうございます!感想もありがとうございます!
楽しんでいただけているようで、とてもうれしいです。
ムードが盛り上がってくると、書いていて気恥ずかしくなるので、コミカルな部分を入れて雰囲気ぶち壊しにする習性があります。
みんなちょっとずつカッコ悪くてかわいいのが好きです。
続きもどうぞよろしくお願いいたします。