きみはぼくの明星

まめ

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10 旅立ち

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 王都の学園に向かう前日。
 ジュールは、これからの思いをこめて日記を書いていた。

――――――――――

 フィーへ

 明日はいよいよ王都に出発だね。
 学生寮ってどんな感じなんだろう。
 たくさんの人となかよくできるといいな。
 もちろん、フィーとも。

 ぼくがこの家にお世話になって一年近くになるね。
 セルフィーユ家のみなさんには、大変お世話になったね。感謝してもしきれないよ。
 家族ってこんなにあたたかいんだね。
 この前、フィーと遊びすぎて帰りが遅くなったとき、叱られたよね。心配してもらえて、すごくうれしかった。にこにこしちゃって、げんこつもらったけど。それもうれしかったんだ。
 ぼくは、一生分の幸せをもう使い切っちゃった気分。
 さっきの夕食に出たプリン美味しかった。あの黄色は、幸せの色に思えたよ。
 フィー、君に会えてよかった。
 これからもよろしくお願いするね。

 いつも君のことを思っているよ。

 ジュール

 ――――――――――

 交換日記をフィートに渡しに行くと、彼は荷物詰めの最中だった。

「フィー、まだ準備できてなかったの?」

「いや、何を持っていくか悩むじゃん。ジュールにも、宝物ってあるだろ?」

「ぼくの宝物は、この交換日記だよ。はい、書いたから、フィーの番だよ。どうぞ」

 ジュールは、フィートに交換日記を渡した。ふたりの間でこの日記を始めて、もうすぐ五年になる。日記帳はこれで三代目になった。
 フィートの部屋の本棚には、歴代の交換日記が並んでいる。ジュールは、今までのやりとりを思い返して胸があたたかくなった。
 ジュールがそんな思いで、本棚を眺めていると、フィートがそばにやってきて、そっと肩を抱いた。

「……ジュール、……キ、キ、キスしてもいい?口に。」

「口に!」

 フィートが真っ赤になってぎくしゃくする様子を見て、ジュールまでドキドキしてきてしまう。  
 初めて唇と唇を合わせるのは、特別なのだ。ジュールは、フィートの特別をもらえることに胸が踊った。

「うん、いいよ。して……」

 ジュールの了解の言葉が終わるやいなや、フィートはジュールに、ぶちゅっと口付けた。
 初めての唇の感触は、熱く、しっとりとやわらかかった。
 フィートは、ぺろりと唇をなめて、念願のキスにうっとりしていた。 
 ジュールは、ただ口と口をくっつけるだけだと思っていたのに、キスにはそれ以上のなにかを感じた。だって、こんなにも幸せだ――この瞬間を、ぼくは絶対忘れないだろう。

◇◇◇

 出発の日、フィートとジュールを見送りに、朝から沿道に領民たちが並んだ。みんながそれぞれ野菜やお菓子を持ち寄って、手ずから渡してくれた。
 ジュールは、腕いっぱいに芋やにんじんを抱えながら、くすくすと笑った。みんなの素朴なお祝いがとてもうれしかった。
 隣のフィートを見上げると、彼も野菜を抱えながら、苦笑していた。
 ジュールは、いつのまにか領民たちのことを、とても大切に思い始めていた。セルフィーユ領やそこに住む人たちのためになることを、王都でたくさん学んでこようと思った。

 空は青く晴れ渡り、はるか上を飛び交うひばりの声が聞こえる。
 咲きはじめのプロムの薄桃色の花びらが、ふたりを祝福するかのように、風に舞った。
 ジュールは、馬車の中から、遠くなっていくセルフィーユ領の方角を眺めた。
 はるか昔からある、高くそびえる精霊樹だけが、いつまでも変わらずにそこに佇んでいた――
 
 
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