きみはぼくの明星

まめ

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13 ともだち

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 夜になり、ジュールは寮の食堂に向かった。
 一歩足を踏み入れると、料理の匂いがふわりとジュールを包む。食欲をそそる肉の香ばしい匂いや、香辛料やハーブの芳しい香りに、ジュールは鼻をくんくんさせた。

 フィートのテーブルは、彼のクラスメートで埋まっていた。
 軽く手を振り、隅の空いたテーブルにつくと、フィートがこちらに移動してきてくれた。

「ジュール!待ってたぞ!」

「もう友だちができたんだね!さすがフィーだ!向こうのテーブルはいいの?」

「うん、あいつらとは、明日も教室で顔合わすからいいんだよ」

 ジュールは、彼らに軽く頭を下げて、フィートとの食事を楽しむことにした。
 
 今日のメイン料理は、ポークソテー。付け合わせの人参がバターできれいに照りが出ている。
 厨房から、料理人がぼそっと「このまえくれた人参だよ」と声をかけてくれた。
 
 フィートは、相変わらずたくさん食べた。見ていて気持ちがよいくらいに、次々と料理が口の中に消えていく。
 ジュールのおなかもきゅるると鳴った。さっきまで冷えていた心があたたかくなっていく。人参は甘くて美味しかった。
 
 食堂には、Aクラスの少年たちもいたが、彼らが近づいてくる気配はなかった。
 たくさんの人の前でまで、ジュールに関わってくる気はないようだ。どうやら食堂は安全地帯となりそうだった。

「このあとジュールの部屋にいってもいい?」

「うん、だいたい片付いたから来てよ」

「さすがだな!オレの部屋、まだ荷物が散らかってるよ!」

 ジュールは、フィートの自宅の部屋を思い出す。確かにいつも散らかっていた。それをあまり気にしないのが、またフィートらしくて好きだった。

 食事を終えたふたりは、部屋に向かった。
 明日からの授業の話や、先生の話、のんびりと話をするうちに、今日一日の緊張がほぐれて、ふたりとも眠くなってきた。

「ふわぁ、今日はもう部屋に戻るよ。明日から勉強始まるな!頑張ろうな!」

 大きなあくびをしながら、明るい笑顔でフィートは帰っていった。
 ジュールは、彼の座っていた椅子に腰かけた。少しあたたかかった。

◇◇◇

 翌朝、少し早めにジュールが教室に入ると、生徒はまだ一人しか来ていなかった。
 
 ブルーグレイの落ち着いた髪を肩まで伸ばした、おとなしそうな少年は、ジュールに気づくと、おずおずと近寄って来た。
 ジュールは思わず身構えたが、彼の口から出てきたのは、意外な言葉だった。

「おはようございます!昨日は大変でしたね。私は勇気がなくて、見ていることしかできなくて……でも、きっとあんな生徒ばかりじゃないから」

「……いいんです。ぼく、確かに昔は変な子だったから。今は普通のつもり。
君が話しかけてくれてうれしいよ……ありがとう」

 ジュールは、昔を思い出しながら控えめに笑った。
 少年は、ジュールが噂通りのおかしな人間ではないとわかったようで、うんうんとうなずいてくれた。

「わかりますよ。君は普通の少年に見えます。おかしいのは、あの生徒たちの方でしょう。
人は成長するのに……ずっと昔のままな訳ないのに」

 少年の言葉が、ジュールの胸にすっと染みた。その言葉は、ジュールの過去から今への頑張りを肯定してくれる、うれしいものだった。
 
「ふふっ、ありがとう。君の名前を教えてもらえますか?」

「私は、クエイ・ムジク。子爵家の次男です」

「ぼくは、ジュール・ゴルドン。伯爵家の三男です。よかったら、ジュールと呼んでください」

「私のことも、クエイと呼んでほしい。あと、敬語やめない?舌がつりそうだよ!」
 
「ぷっ!確かに!じゃあ、これからは普通に話すね!」

 クエイはおどけてしかめっ面をした。その気安さに、ジュールの緊張がほどけていった。
 ふたりの間の空気がやわらかく、親しみのあるものに変わっていく。

「ジュールくん、……私と友だちになってくれる?」

「わぁ、うれしい!クエイくん、よろしくね」

 クエイが両手を受けるように差し出した。
 ジュールがその上に、ぽんと両手を乗せると、クエイが包むようにぎゅっと手を握った。

「これなあに?」
「友だちの握手。君となかよくなれますようにって」
「へー、この握手は初めてだよ。なんだかあたたかいね」

――誰がいない教室で、ふたりは握手をした。
   
 ジュールは、思いの外力がこもったクエイの手に、照れながらもそっと微笑んだ。
 入学初日の辛さを気にかけて、こうやって手を差し伸べてくれるクエイに、ジュールは不思議な安心感を覚えた。フィート以外の、初めての友だちだった。

  
 それからジュールとクエイは、毎日行動を共にするようになった。
 クラスで別教室に移動するときや、ペアで組む必要がある授業など、どちらともなくよりそっていく様は、ふたりの控えめな気配が似ているのもあり、仲のよい兄弟のようだった。
 入学した日に、ジュールの悲鳴を聞いた者たちも、ふたりの様子を見るうちに、ジュールは噂通りの人物ではないと気付き始め、小さな友だちの輪が広がりつつあった。
 
――――――――――

 フィーへ

 すごい報告があるよ!
 ぼくに友だちができたんだよ!
 クエイ・ムジクくんっていうの。
 おとなしくて話しやすい人なんだ。
 昼食をいっしょに食べてくれるんだよ。
 ぼくの気のせいじゃないよ。友だちの握手もしたんだから。

 フィー、いつも気にかけてくれて、ありがとう。
 ぼくにも友だちができたから、もうひとりじゃないよ。安心してね。

 ジュール
   
――――――――――
  
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