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16 薬草畑
しおりを挟む放課後、ジュールは学園の裏庭にある畑らしき場所に来ていた。
薬草や珍しい植物が生い茂る、植物マニアには垂涎の場所なのだが、ほとんどが雑草に埋もれていて、とてももったいないと思っていたのだ。
ここで思い切り草むしりをして、この畑を整えたいと常日頃から考えていたジュールは、授業が終わってから寮に戻り、汚れてもかまわない服装に着替えてきた。――さあ、いっぱいむしるぞー。
薬草の根を痛めないように注意しながら、雑草だけを抜くこと一時間。夢中になっているジュールの背中に声をかける者がいた。
「ねぇ、そこでなにやってんの?」
「草むしりです。ああ、これは南国にしか生えないと言われるイワコゴミだ。王都の気温でも大丈夫なんだなあ。よいしょっと」
「楽しいの?」
「ええ、すっごく。うーん、この植物はなんだろう。葉の形はボリスなんだけど、色がちょっと違うなあ。匂いは……」
「それはニセコボリスだよ。君植物に詳しいんだね」
声はジュールの真横から聞こえた。ようやく我にかえったジュールは、横にいる人物を見上げた。年の頃三十くらい、ぼさぼさの金髪にメガネのひょろっとした男性が、こちらをのぞきこんでいた。
「ひぃ!」
驚き、目を見開くジュールに、その人は笑いながら自己紹介を始めた。
「びっくりさせて悪かった。私は、この薬草畑を管理しているドーン・ニフラムだよ。植物学の教師をしているんだ」
ジュールは、その名を知っていた。図書館で何度も読んだお気に入りの植物図鑑。その編纂者の名前だった。
「もしかして……近代植物図鑑のニフラム先生ですか?」
「あ!あの本読んだ?ふふっ、良くできてたしょう。あれを書いてから、私の元にいろんな植物が送られてくるようになってね。とりあえずここに植えているんだけど、私は植物は好きでも、育てるのは苦手なんだ」
草むしりをしていてジュールが気づいたのは、この畑には畝がなく、ただ適当に植物が植えられていることだった。歩く道もなく、水はけも考えられていない。苦手というよりは、無頓着なのだろう。――ジュールは、ニフラムのぼさぼさ頭を見つめながらそう思った。
「確かに、管理は行き届いていませんでしたね」
「君、植物に詳しいんだろう。さっきから見てたけど、雑草と植えてある植物の区別がつくようだし、抜き方も丁寧だ。ここの管理を手伝ってくれないか?報酬も支払うよ」
「ぼくでいいんですか?今日会ったばかりなのに……?」
「うん、君はこの畑の惨状を見るに見かねて、自発的に草むしりに来たんだろう。そんな子今までいなかったからね。君がいいんだ」
ジュールには、願ったり叶ったりの申し出だった。そして、自分の願いも口にしてみることにした。
「あの、さしつかえなければ、植物をそれぞれの個性に分類して植え替えをさせていただきたいです。あと、これはぼく個人の希望なのですが、空いた場所をお借りして植物を育てたいです……」
「いいよ!いいよー!ますます君のことを気に入った。名前は?」
「ジュール・ゴルドンです。一年Aクラスです。ぼく、『近代植物図鑑』が大好きなんです。今までの植物図鑑と違って、その植物の利用法や、成分の抽出法まで書いてある。知識を得るだけじゃなく、役立てるための本だと思いました」
「おお、うれしいな。君、最高だよ!」
敬愛するドーン・ニフラムとの思いもよらぬ邂逅に、緊張していたジュールだったが、親しみのこもったニフラムの態度に、少しずつ気持ちがほぐれていく。
ニフラムはお酒が大好きで、現在は美味しいお酒を作るために、植物の品種改良に勤しんでいるという。
「あ、君も一口飲むかい?これは、サトウキビ科のトルクを発酵させて作ったラム酒なんだ」
「ぼくはまだ子どもなので……」
ニフラムは、ポケットからスキットルを取り出して、こくりとお酒を飲んだ。
薬草も雑草もごったになって生い茂る、緑豊かなこの場所は、そんな彼の自由な気質を表しているかのようだった。しかし、貴重な植物ほど性質は繊細だ。この状態の畑では、うまく育たないだろう。
薬草畑を任され、自分の居場所が増えたジュールは、学園で呼吸がしやすくなったように感じた。
毎日放課後に草むしりをし、畑の植物を本来の育ちやすい場所に植え替えていく。日光や水を好むもの、苦手なもの等、植物にはそれぞれに生育に適した環境がある。
わからないものは、たまに現れるニフラムに尋ねると、予想の倍の知識を与えられるのだった。
ジュールは欠かさずメモを取り、ニフラムの知識を吸収していった。
明日は、フィートと市場にでかける日。
ジュールは薬草畑の片隅に、自分の畑を完成させた。きちんと土を耕し、畝を作った小さな畑は、新しい仲間を迎え入れてくれるだろう。
その夜、ジュールは楽しみすぎて、ちっとも眠くならなかった。
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