きみはぼくの明星

まめ

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18 チョコレートボンボン

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 翌日、授業が終わると、ジュールはヘキサの苗を植えに薬草畑に向かった。
 春から夏に向かうこの季節は、植物の成長期にあたり、種蒔きや植え替えに適している。
 用意した畑の畝に、一株ずつ丁寧に植えていく。ずらりと行儀よく並んだヘキサの花が風に揺れる姿に、初めて自分の畑を持ったジュールは、とても誇らしい気分になった。

 そのあとは、いつもの草むしりを続ける。成長期を迎えたのは雑草も同じで、最初に草むしりをした場所では、もう雑草の新芽が伸びていた。――いたちごっこだ。負けるもんか!
 草むしりに夢中になるジュールに、ニフラムののんびりした声が届いた。

「やあ、ジュールくん。昨日は楽しかった?」

「ニフラム先生、こんにちは!王都の市場ってあんなに大きいんですね。楽しんできましたー。 ささやかだけどお土産があるんですよ」

 ジュールは、持ってきていたチョコレートボンボンの包みを差し出す。

「甘いものお嫌いじゃなかったら、これどうぞ。お酒入りですよ」
 
 ニフラムは、受け取った包みを開くと、さっそく一粒口の中に放り込む。カリッとボンボンを噛み砕く、軽い音がした。

「あ!この中に入っているのはラム酒だね。この前私が飲んでたのを覚えていてくれたのかな」

「はい、お好きなのかと思って」

「ラム酒の味はもちろん好きだし、この原料になるトルクという植物に興味があるんだよ。一見背が高い河原に生える雑草のような姿をしていてるんだが、その茎の中には甘い汁が含まれている。砂糖が作れるし、その副産物としてラム酒も出来るんだよ。雨風に強く、南部の強い日差しにも負けず、よく育つ。今のトルクからさらに品種改良を重ねたら、庶民にも砂糖が手に入りやすくなり、大革命になるんじゃないかな。私はすごく可能性を感じているんだ。それに――」

 流れるようにトルクについて語るニフラムは、目を生き生きと輝かせ、少年のようだった。
 いつもお酒をちびちびと飲みながら、木陰でぼんやりしているニフラムのそんな変化を、ジュールは興味深く思った。――ニフラム先生って、こんなにも熱い人なんだ。あの『近代植物図鑑』を書いただけあるなあ。植物と生活が密接した話はとても面白いや。

 ニフラムの話は、今の砂糖事情や、荒れ地の活用法、強健種の改良等、延々と続いた。
 ジュールは草むしりをやめて、ノートをとりたい気分だったが、この開放的な雰囲気を壊すのも不粋だと思ってやめた。
 さわやかな風の吹く広い薬草畑に、楽しそうなニフラムの声が広がっていく。
 ジュールはうんうんと相づちをうち続け、自分一人に向けられた特別な講義を拝聴した。

◇◇◇ 

 日が暮れ、寮に戻ったジュールは、クエイの部屋を訪れた。

「昨日市場に行ったんだ。お土産があるんだけど、クエイくんはお酒が入ってるお菓子は大丈夫?」

「ふふっ、お酒は好きだよ。うちの家系はみんな酒好きでさ。私も小さい頃から祝いの席で口にしていたから」

ジュールはいたずら心で、チョコレートボンボンを一粒取り出すと、クエイに向かってニヤリとほほえんだ。

「はいっ、あーんして!」

「えっ!うん。……あーん」

ジュールがクエイの口にころんとボンボンを入れると、彼は照れくさそうにカリリとそれを噛んだ。

「ラム酒だね。チョコレートとよく合うなあ。美味しいよ!」

「よかった。好みを聞かずに買ってきちゃったから。これどうぞ!」

 ジュールは、残りのボンボンが入った袋をクエイに手渡した。
 お酒のせいか、クエイの顔がほんのり赤く染まり、目がとろんと甘くなったように見えた。

「昨日はデートだったんだろ?私のことを思い出してお土産を買ってきてくれたなんて、結構うれしいんだけど」

「思い出すよ!クエイくんは、ぼくの大事な友だちだもん!」

 ジュールが身ぶり手振りを交え、昨日の市場の話をするのを、クエイはにこにこしながら聞いた。ジュールのころころ変わる表情や、小動物のような愛らしい動きから、昨日の興奮が伝わってくる。それを見ているだけでも、クエイは楽しかった。

「ジュールくん、今度私とも市場に行こうよ。近くに兄が働く騎士団の官舎があるんだ。そのあたりなら案内できるよ」

「クエイくんはお兄さんがいるんだね!騎士なの?それはすごいや!」

 クエイと話が弾むうちに、そろそろ気楽に名前を呼びたいと言われたジュールは、快く受け入れた。

「じゃ、今日からジュールって呼ぶから」

「うん、クエイだね。えへへ、なんだか急に距離が縮まったみたいで照れくさいや」

 親しげに名前を呼び合うジュールとクエイに、食堂で気がついたフィートは、小さなジェラシーを感じた。

「はぁっ?クエイってやつ、馴れ馴れしすぎるだろ」

 そのせいか、フィートはいつもよりたくさん食事をおかわりしてしまった。周りの目が痛い。はちきれそうなおなかも辛い。彼においては、怒りと食欲はつながっているのかもしれない。
 ジュールのたった一人の友だちは、フィートにとって、ありがたくもあり、小憎らしい存在でもあるのだった。


 
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