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24 お兄ちゃんに相談
しおりを挟む寮に戻り、夕食前のわずかな時間、ジュールはクエイの部屋を訪れた。今までにも数回入ったことがあるが、この部屋はいつも清潔で落ち着いた空間だった。整頓された本棚に、物が最小限に抑えられた机の上は、クエイの真面目な人柄を表すようで好感が持てた。
「おや、ジュールどうしたんだい。珍しいね」
「お土産を渡したかったのと、ちょっと話があって……」
先ほどの教室とは打って変わった、ジュールの暗い表情に、クエイは考えを巡らせたが思い当たることはなかった。
ジュールは、ひとつため息をついて、重い口を開いた。
「あのね……クエイのお兄さんは騎士だって言ったよね。仕事の管轄が違うかもしれないけど、ぼくの実家ゴルドン領がなんだかおかしいんだ……。身内に話ができる者もいなくて、誰に聞いたらいいのかわからないんだ」
「なにを話すのかと思ったら実家の話かい。うちの兄はたしかに騎士をしているけど、将来は実家のムジク子爵領を次ぐからそれほど偉くはないと思うんだ。機会を設けるから一度話をしにいかない?」
「うん、ありがとう。助かります」
クエイ自身も、兄がどんな職務についているかはよく知らない。もともと寡黙な兄とクエイは、不仲ではないが、親密ともいいがたい関係であった。
「俺が知っている――貴族の間で流れているゴルドン領の噂は、ギャンブルと奴隷売買だな。どちらも不確かじゃない。ただの噂だよ。でも、噂で傷つけられたのはジュールも同じだろ。本当のことが知りたいよな」
ジュールはこくりと頷いた。――今まで実家のことに目をつぶり逃げていた。いつも自分はフィートやセルフィーユ領のことばかり考えていたけれど、本来はゴルドン領や領民のことにもっと気を配るべきだった。なんの力もない三男だけど、自分はジュール・ゴルドン――ゴルドン領主の家族なのだから。
「この話、君の婚約者は知ってるの?」
「うちの領が不穏なのは、一緒に見たから知ってる。でも、ぼくが一人で動こうとしているのは知らないよ。フィーの領は隣にあるんだ。家族も領の人たちも、とてもあたたかくてやさしいんだ。巻き込みたくないよ……それに。嫌われるのが、怖い」
クエイは、ジュールの頭をやさしく撫でた。
ジュールの緑の瞳からは、涙がこぼれそうに盛り上がり、眉間に悲しげなシワが寄っている。
クエイは、きゅっと口元を食いしばるジュールの両頬をつまみ、横にびろんと引っ張った。
「っ!何をするんだよ、クエイのバカ」
「泣きそうな弟を慰めてやってんの。今日から、兄ちゃんだろ?」
ジュールの涙がみるみるふくらんで、床にぽたぽたと落ちた。ちいさくしゃくりあげるジュールを、クエイがそっと抱き寄せた。
クエイは、ジュールを膝の上に乗せて、涙が止まるまで背中をさすり続けた。
「ジュールはもっと人に頼ることを覚えなよ。今、君のまわりにはたくさんの仲間がいるだろ。暗がりじゃなくて、光を見るんだ」
「……うん、お兄ちゃん……」
ジュールが帰ってから、クエイはもらった土産の袋を開けた。手作りらしい植物の栞と、ハーブのサシェだった。匂いを嗅ぐと、すっと爽やかなミントの香りがした。
その夜、クエイは兄に手紙を書いた。
兄に手紙を書くのは初めてだった。
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