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37 冬に閉ざされる
しおりを挟むフィートが王都を発って三日目、馬車はセルフィーユ領に入った。
この三日間、ずっと彼は、冬休み前にジュールに声をかけなかったことを後悔していた。――過去のことはどうしようもないのはわかっている。しかし、自分の冷たい態度を思い出すたび、頭を抱えてしまうし、足の貧乏ゆすりは止まらなかった。
馬車の中にいた下男は、その重い空気に耐えられず、御者台に移った。馬を繰る御者も、フィートの様子を気にしていた。二人は、夏休みにジュールとフィートを王都まで送った時のことを思い出していた。
「あの時は、フィート坊っちゃんがジュール坊っちゃんを襲っちまうんじゃないかと、ヒヤヒヤしたよな」
「おう、いちゃいちゃしまくりだったよな。青春っていいなって思ったもんよ」
「ジュール坊っちゃん、屋敷に着いてるといいな」
「だよな」
灰色の空から、ちらちらと白いものが降り始めた。景色がうっすらと白くなっていく中、馬車はセルフィーユ子爵邸に到着した。
下男が馬車の扉を開け、中に声をかける。
「フィート様、雪が降ってきました。早く屋敷にお入りください。雪が降り始めました。足元にお気をつけください」
「ああ、ようやく着いたな。すごく長く感じたよ」
馬車から降りたフィートは、早足で屋敷に向かった。――早くジュールに会いたい。会ったらどんな顔をしよう。なんだか緊張するな。
玄関の扉を開けると、馬車の音に気づいた両親が待っていた。
「フィートです。ただいま帰りました。新年おめでとうございます!」
「おめでとう、フィート。雪が積もる前に着いてよかったな。居間でお茶でもしようか。荷物は運んでもらえばいい」
「おかえりなさい。また大きくなったわね」
父と母の声は妙に気づかう気配があり、フィートは少し不思議になった。
「あ!オレ、ジュールに新年の贈り物を買ったんだ。馬車に置いたままだ。ちょっと取ってくる」
急いで屋敷を出ようとしたフィートの背中に、母が声をかけた。
「フィート! ……ジュールくんは来ていないわ」
「え……? 嘘だろ……」
「新年の贈り物だけ、送られてきたの。手紙も入っていたわ」
話を聞きたいと、両親に居間に連れていかれたフィートだが、自分のほうが話を聞かせてほしかった。どうしてジュールはいないのか。何があったのか。
「これが手紙よ。こちらがジュールくんからの贈り物。フィートにはマフラーですって。私にはストールを贈ってくれたの」
フィートが手紙を開くと、そこには、日記で見慣れたジュールの几帳面な字が並んでいた。
――――――――――
セルフィーユ家のみなさまへ
新年おめでとうございます。
みなさま元気でお過ごしですか?
近くの街まで来たのですが、急用ができたため、王都に戻ることになりました。
新年の贈り物と街の特産のジャムをどうぞ。
いつもよくしてくださって、ありがとうございます。
フィートさんにもよろしくお伝えください。
ジュール・ゴルドン
――――――――――
「なにこれ……、ジュールに何があったんだよ? 王都に戻るって、どうして? なんかこの手紙、他人行儀じゃないか?」
「私たちにはわからないわ。……それより、フィート。なぜジュールくんを一人でこちらに向かわせたの? 一緒に年越しパーティーに参加したんじゃなかったの?」
フィートは口ごもった。
ジュールが一人で帰ろうとしたのは、自分のせいだ――
「ジュール、冬休みなんだけど。オレ、クラスの友だちと年越しパーティーをするから、一緒に帰れない」
――そうジュールに言ったのは自分だ。一緒じゃなかったら、必然的に一人で帰ることになる。
「フィート……、王都から自分でここまで来ようとしたら、三日かかるわね。ジュールくんは、実家に頼れないから、きっと乗り合い馬車を乗り換えながら来たと思うわ。夜はどこかの宿に泊まるでしょうね。お金がいくらかかると思う? あなたは、いつも家の馬車だから金額すらわからないわね。でも、そういうことは全く考えなかった?」
「……うん、考えもしなかった。ジュールはここに来て、みんなと一緒に年を越して、楽しくすごしていると思ってた。オレを待っててくれると思ってたのに……」
フィートの母は、息子の歯切れの悪い話し方に、今回の事情を詳しく聞く必要があると思った。息子同様に、ジュールのことも大切に思っている。
今はフィートを追い詰めず、ゆっくり話を聞こう。――もうジュールは王都に戻ったのだから。
「フィート、長旅疲れたでしょう。温かいお茶をいれるわね」
「いや、そんなに疲れてないよ。ただ馬車の中で座っていただけだし、手配してくれた宿も快適だったから」
――そのとき、玄関をノックする音が聞こえた。
フィートとその母は耳をすませた。
「すみません。お届け物ですー!」
母が玄関に足を運ぶと、そこにいたのは、先日ジュールからの贈り物を届けてくれた配達人だった。
「りんごを一箱ご注文いただいたので、お持ちしました。ありがとうございます!」
「あなた、この前荷物を配達してくれた方ね。あれを預けた男の子には、直接会ったのかしら?」
フィートも居間から飛び出した。
「その子のことを教えてくれ!」
「はい、わしが直接引き受けたので、お会いしてます……髪は薄い茶色、目は緑の、普通の坊っちゃんでした。親御さんにでも咜られたのか、泣きべそかいて真っ赤な目をしてましたね。きちんとおつかいできたご褒美に、飴をあげました」
「っ……、泣いてた? 誰か一緒にいたか?」
「いや、お一人でしたよ。荷物を預かると、すぐ帰られたので、その後は存じ上げません。なにか問題でも?」
フィートの母は、りんご箱を受けとると、フィートに厨房まで運ぶように頼んだ。
「いえ、うちの親戚の子だから、元気か知りたかっただけなの。お話ありがとう」
玄関を開けると、冷たい風が吹き込んだ。いつのまにか世界は雪で覆われ始めていた。
これからしばらくの間、北部は雪で閉ざされる。本格的な冬の訪れだった――
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